RE: 行長は全角の整数倍であらねばならないか

さらに少しコメントいたします。


  *   従前の活版組版から、杉浦康平さんを中心とする写植の詰め組への移行、中村征宏さんのナール(詰め組が不要な本文書体)の開発という流れを踏まえれば、行長が「全角の整数倍であらねばならない」などということは、ぜ〜んぜんない、ということは明らか。

杉浦康平氏は写植組版の中心にいたわけではなくて、写植における組版の可能性の極限を探求した人々の内の一人だと思います(他にも、方向性は異なりますが、清原悦志氏や勝井三雄氏、田中一光氏などが写植のタイポグラフィの可能性を追求しました)。1960–80年代に活躍したデザイナーはみなツメ組を行い(もちろん長い本文の場合にはベタで組んでいました)、ナールやゴナ、新ゴシックといった字面が大きい詰める必要がない(というよりは詰めるのが比較的容易な)書体を使う場合も特に見出し用途ではありました。しかし、ツメ組は基本的には、見出しか、本文の場合は、商業印刷物、比較的文章量の少ない印刷物(商品のパンフレットや年次報告書、会社案内等)、あるいは文字サイズが大きめの記念出版物や美術書・豪華本などに限定されていました。やはり本文の主流は写植時代もベタ組だったと思います。このことは組版効率の上からもコストの面でも合理性があります。

適切に組めば(つまり適切に、詰めることを前提として文字のサイズと行間・行長を設定すれば)ツメて組んでも読みやすさを著しく減じることはありませんが、部分部分をランダムにアクセスする読み物(雑誌や商業印刷物)の範囲を超えて、1ページ目から最終ページまでをシーケンシャルに読まなければいけない文芸書などの場合には、ページ数が増えると、やはりベタ組の方が読みやすく感じるのではないかと思います。

山本太郎

Received on Thursday, 31 August 2023 03:28:06 UTC