RE: 3章と4章(ルビ)のドラフト

小林 様



>> ただし、プロポーショナルの文字にしてしまって、それがデフォルトになったら困るのです。あくまでデフォルトは等幅の文字で、プロポーショナルにする必要のあるときだけ、プロポーショナルにできないと困るのです。そのために、全角のボディとプロポーショナルのボディとの差分(offset)の情報を持たせるために考案されたのが、’palt’/’vpal’です。上の例に’vpal’を適用すると次のようになります。



> ということは,’palt’/’vpal’の場合の字形は,全角等幅文字の字形と同じですか?



はい。同じです。'palt'/'vpal'も'kern'/'vkrn'もすべてOpenTypeの仕様の中のGPOSフィーチャーであり、GPOSは位置だけを変更するもので、グリフを置換することはしません。



> 次に“全角のボディとプロポーショナルのボディとの差分(offset)”とは,どのような値なんですか.字形に対する原点の位置を定め,それに字幅情報を与えたものですか? それとも,’palt’(横組)を例にすると,全角の字幅に対し,左側のマイナスの値と,右側のマイナスの値を与えるのか,それとも全角の字幅に対し,両側に共通するマイナスの値を与えているのか? それとも,字形の囲む矩形に対し,左右のサイドベアリングの値を与えているのか? いずれも結論はほぼ同じですが,微妙に字間に影響してくると思います.



全角のボディからプロポーショナルのボディを疑似的にメトリクス情報(寸法情報)だけについてプロポーショナルにするわけですから、あくまで全角ボディからのオフセットの情報を含むことになります。例えば、カタカナの「ア」の場合、小塚明朝Pr6N Rの場合、次のような左右のオフセット値が’palt’に対応した情報として設定されます。(\926は「ア」のCIDを示しています。)

pos \926  <-40 0 -90 0>;



これは「ア」を印字する前に現在位置を左に40ユニット移動し、その位置から全角(1,000ユニット)字幅分右に移動した地点から90ユニット左の位置がプロポーショナルのボディの右端になることを意味します。前側が40ユニット詰まり、後側が90ユニット詰まります。



>欧文の場合と同様、プロポーショナルにしただけでは改善できない、個別の文字間の空間の不均等には、欧文と同様に’kern’/’vkrn’を用いることができます。



この意味が,よくわからないのですが.文字の組合せに応じたカーニングテーブルを利用するということですか.



和文のカーニングテーブルが準備されているのですか? それとも別の処理ですか?



はい、和文も欧文の別なく’kern’/’vkrn’はカーニングテーブルで、それを用いてペアカーニングを行います。



> 「ア」と「メ」との間隔の不均等が’vpal’でも解消できなかったので、左側の例では’vpal’を使っています。このように、和文における’palt’/’vpal’の使用と、’kern’/’vkrn’との使用とは、効率的に和文の詰め組を実現するために考案され、OpenTypeフォントで実装されてきました。



’vpal’と’vkrn’とは,同時に選択できるのですか?



そうすると,’vpal’だけの場合,’vkrn’だけの場合,’vpal’+’vkrn’の場合では,どんな違いがあるのですか?



日本語のフォントの場合、全角の和字に対しては、’palt’だけを適用する場合と(つまり字幅はプロポーショナルになるがカーニングテーブルを使った個別の文字ペアごとの字間調整は行わない)、’palt’ + ‘kern’を適用する場合(’palt’が適用されて疑似的にプロポーショナルになった文字の個別のペアに対して、カーニングテーブルを使った字間調整を行う)とがあります。(例外的に’kern’だけが適用される場合がありますが、多くの場合’palt’  + ‘kern’が適用され、その方法がこの機能の本来の意図でした。ただし、それに関連して現在OpenType Font Formatの規格の文言の不具合がいくつか指摘されていて、改善提案がなされているところです。とはいえ、現実にはこの機能は20年以上OpenTypeフォントで実装されてきています。



また、この種の仮名詰めの操作は、あくまで疑似的なプロポーショナルであって、本来の意味でのプロポーショナルではありません。なぜなら等幅全角ボディの内部にデザインされた字形をそのまま用いているからです。真のプロポーショナルフォントでは、文字デザインの段階から、字幅に対する活字ボディの全角正方形のような、その個別書体の書風・デザインとは無関係の、デザイン上必然性のない、外部的な制約はありません。このことは欧文書体デザインについて言えることです。



他方で、現代の欧文書体が、同じ文字サイズを指定しても、書体によって大きさのバラツキが大きいのは、書体デザインが金属活字のボディの制約から解放されたにもかかわらず、ボディの大きさを文字サイズの参照基準として用いていることとの矛盾の表れと言えると思います。この欧文活字の問題に対してX-heightやCap. Heightを基準にした文字サイズの指定方法が1970-80年代に提案されましたが、(ヨーロッパの一部の電算写植機を除いて)広くは普及しませんでした。



以上、取り急ぎ回答まで。



山本太郎

Received on Monday, 8 July 2024 07:56:35 UTC