RE: 全角幅送りの議論

(コメントします)



> この場合,横組では,天地サイズが文字サイズですから,天地が20ポ(左右は18ポ)ということになります.縦組では左右サイズが文字サイズですから,左右を20ポにすると,天地は22.22ポになります.つまり,組方向が変わると字面の大きさが変わります.これでいいのかな,という疑問です.



そうはならないと考えます。



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何度も述べてきたことですが、文字サイズはには横組も縦組もありません。x, y両方向に同じ文字サイズが適用されます。なぜなら、同じ拡大比率で、全角の正方形を指定サイズで印字する必要があるからです。(これは変形の場合も同じで、変形の方向は横と縦とで変わりますが、そのことは、グリフのアウトラインに対してだけ適用されるのであって、そのグリフが印字される世界の座標系全体に対してx, yそれぞれに不均等な変形率が適用されるわけではありません。そして、グリフに対する変形のあるなしに関係なく、最終的にグリフが印字される世界では、印字の過程で全角の正方形は指定した文字サイズの正方形として実現されるのです。なぜなら、文字サイズの指定には横も縦もないからです。文字サイズを指定するということは、印字される時点での全角の正方形の大きさを指定することを意味しているからです。具体的なグリフの形と文字サイズとは原理的・一般的には無関係です。グリフの形と文字サイズを便宜的に対応付けることが有用な場合が日本語の場合には慣習的にあるというだけです)。



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指定文字サイズへの拡大・縮小(スケーリング)は上で述べたように、全角正方形を基にx, y両方向等しく適用され、たとえグリフの具体的な形が全角正方形に収まっていようといまいと、それとは無関係にスケーリングは等しく適用されるため、同じグリフが、横組と縦組とで異なる大きさをもつことはあり得ません。そして、ある文字に対応するグリフがそのフォントの中に一つしかなければ、同じ形、同じ大きさの同じグリフが、横組でも縦組でも用いられます。そして、フォントが横組と縦組用で異なるグリフ(condensedフォントの場合には、横用の長体グリフと縦用の平体グリフ)を持っていない場合には、縦組にも横組と同じグリフを使うしかなく、また文字サイズのスケーリングはx, y等しく適用されるために、字送り方向には全角の字幅をもち、字送り方向と直交する方向(行送り方向)には、全角の字幅よりも90%狭い同じグリフが横組の場合と同じ大きさで印字されることになるのです。(その場合には、縦組ではが字送り方向と直交する[行送り方向に]に実際のグリフが占める横幅は、文字サイズよりも狭くなってしまいますが、それは不可避です。)



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このことは、言い換えると、90%の長体フォントが縦組みにも正しく対応している場合には、縦組時には横組用の長体グリフは用いられず、代わりに同じフォントの中に収容されるべき90%平体のグリフが用いられることを意味しています。このことの理由は、文字サイズが横組でも縦組でも、x, y両方向で等しく適用される以上、(つまり、上で述べたように、文字サイズを20 ptに指定したのに、横組と縦組で大きさが異なってしまう、ようなことにならずに)しかも、長体や平体のグリフを、横と縦の両方向で機能させるために必要だからです。



「では縦組で、縦長の文字が欲しい時はどうするのか?」という疑問が起こるかもしれませんが、それに対する答えはシンプルで、「(今まで述べてきた意味で正しく実装された)平体(expanded)フォントを使えば良い」ということになります。そして、そのような長体・平体(condensed/expanded)フォントでは、字送り方向と直交する方向(行送り方向)での仮想ボディの高さは、文字サイズと等しくなり、実際のグリフの図形が占有する領域の矩形の大きさとも、ほぼ一致します。



(また、Nat McCullyが英文でコメントしていたように、このように、字送り方向と直交する方向(行送り方向)の仮想ボディの寸法と文字サイズとの関係を維持することによって、日本語テキストにおいて、行間と文字サイズとの対応関係がよりはっきりと明示され、主たる言語が日本語の場合に、他の言語の文要素との識別も容易となります)。



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何度も繰り返し述べてきたことをまた繰り返しますが、現時点で、そのような横組と縦組に正しく対応した長体・平体(この概念は写植での変形処理を想起させるため、むしろグリフそのものがデザインの段階から矩形の仮想ボディを持っているという意味でcondensed/expandedの用語を使うのが、より好ましいと考えますが)は、日本には現時点では存在しません。



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次に述べることも、既に述べたことですが、上に述べたことは、現存している日本語長体フォントや偏平新聞書体フォントが間違っているということでは、まったくありません。現存する長体フォントは、上で述べた意味においては縦組には対応していませんが、それらは、そもそも縦組を主な用途として作られたものではありません。同様に偏平新聞書体の場合は、横組みでの利用を主な用途として作られていません。しかし、だからといって、それらを縦組で用いることを禁止することは誰にもできません。ですから、現在実装されている長体フォントを縦組で用いると、90%の横組用の長体グリフには、グリフの形状が実際に占有する横幅とは関係なく、横組みと同じ「文字サイズ」が適用され、縦組みでの縦方向(字送り方向)では全角正方形の場合と同じ字幅で送られ、字送り方向と直交する方向(行送り方向)のグリフ図形が占有する幅は、文字サイズの幅よりも10%狭くなるのです。これは上の2で述べたことの繰り返しですが、それは、現在存在する横組用長体フォントの縦組での動作と完全に一致しています。これは、縦組でのcondensed/expandedフォントの本来あるべき姿とは異なりますが、グラフィックデザイナーが特殊効果として見出しなどで用いることはありえますし、それが有効な場合もないとはいえません。その意味で、現在存在するいわゆる「長体フォント」は、設計意図どおりに横組の主用途に完全に対応しつつ、縦組でも限定された形で利用可能になっているのだと考えます。



参考のため、上に述べたことを表した図を末尾に示します。



山本

p. s. [Nat, if you find anything that needs correction in what I wrote above, please let everyone know. Thanks. T. Y.]




[手紙 が含まれている画像  自動的に生成された説明]

Received on Sunday, 15 October 2023 02:11:36 UTC