行への文字の配置の実際

みなさま

 小林 敏 です.

第5章の草稿(前半)をお送りいたします.ご検討ください.すこし長いが木田さんが添付ファイルではなく,メール本文にいれろ,というのでご了解ください.Githubに掲載しておきました.

なお,これまで私が第4章といってきたものです.その前に別の章が入りますので,第5章となります.以下,順次,番号は変わります.

だいぶ進んだが,まだまだあるなあ.16日(水)に,第5章には入れればよいが,無理かも?

なお,章別構成は以下です.

第1章 この文書の目的・対象読者
第2章 デジタルテキストの基礎知識⸺文字とフォント
第3章 デジタルテキストの基礎知識⸺文字の配置
 縦中横の選択例や強調の方法は,この最後に入る
第4章 日本語組版の基本アーキテクチャ(Foundational Architecture of Japanese Line Layout)(いちおう議論はしている)
 以上は,第3章を除きGithubの“Code”→“drafts”にある
第5章 行への文字の配置の実際
第6章 ルビの組版処理(草稿はあり,議論はこれから)
第7章 縦組の組版処理(いちおう議論はしている)
第8章 段落の処理(そのうちに草稿をお送りいたします)
第9章 見出し,図版,表,段組など(入れるかどうか決まっていない)
第10章 アクセシビリティ(Accessibility)

-------以下が第5章の草稿(前半)------

# 5 行への文字の配置の実際

## 5.1 字詰め方向の配置を示す2つの方法

字詰め方向の文字の配置を示す主な方法としては,次の2つがある.

- 字間の大きさで示す.字間とは,ある行と隣の行に配置するの文字のボディの字詰め方向の間隔である(図〓参照).なお,字間の大きさとしてマイナスの値となる場合がある.
- 字送りの大きさで示す.字送りとは,ある文字の基準点から隣接する文字の基準点までの行送り方向の距離である(図〓参照).なお,基準点はフォントによるが,文字のボディの縦組では文字の上端,横組では文字の左端が多い(これでOKか?).字間の大きさとしてマイナスの値となる場合,字送りの大きさは,文字サイズより小さくなる.
その他に配置面にグリッドを設定し,そのグリッドにそって文字を配置する方法もある.

行に配置する文字のサイズが,すべて同じサイズの場合,2つは以下の関係がある.

字送り=文字サイズ+字間

以下では,主として字間で説明を行う.

## 5.2 全幅等幅以外の配列方法

前章で述べたように、全幅等幅での配列が理想である.しかし,字間の調整を行う,あるいはプロポーショナル幅を持った和文文字も利用されている.以下では,こうした文字の配置について解説する.

### 5.2.1 プロポーショナル幅を持った文字の利用

プロポーショナル幅を持った和文文字の配置は,ボディを密着させて配置する点では全幅等幅での配列と同じであるが,個々の文字により字幅がプロポーショナル幅である点が異なっている.

このプロポーショナル幅の文字を使用する主な目的は,和字の中でも特に仮名(片仮名と平仮名)の文字間の余白(空白)について,視覚的に均等に見えるようにするためである.主に仮名の字幅を変更するのは,日本語の平仮名の画線は自由曲線で構成され,ボディに対する余白(空白)の分布は均等ではないことによる.文字によって,横組の場合は文字の右側と左側又は両方の余白,縦組の場合の文字の上側と下側又は両方の余白が漢字等の余白に比べて大きくなる例がある.片仮名の字形も必ずしも左右又は上下が対称でないため,文字の左右又は上下の余白が不均等になる,あるいは他の文字に比べて大きくなる場合がある.

上下で余白が大きくなる例:い,つ,へ,エ,コ,ニ,ヘ,マ,ユ等

左右で余白が大きくなる例:う,く,し,も,よ,り,イ,ク,タ,ト,ノ,ミ,メ,リ等

上下・左右で余白が大きくなる例:ヨ,ロ等

これらの空白の不均等は,ある程度は書体のデザイン段階で,字形やボディに対する配置位置を工夫することによって調整している.しかし,こうした書体デザインの段階での調整は,一般に正方形のボディを密着して配置する文字配置において,読みの進行が妨げられたり,揺らいだりして読みにくくならないようにするために行われるもので,必ずしも,視覚的に字間が均等になっているわけではない.

そのために,字間を視覚的に均等にすることによって,組まれたそれぞれの行の視覚的な一体性や方向性の強調,あるいはそれらの行で構成される段落全体が一体感のあるページ内要素として見えるようにすること求められる場合があり,特に字間の不均等が目立つ,比較的大きな文字サイズで組まれる見出しなどで必要となる.

このプロポーショナル幅を持った和字を実際に使用する場合,大きく分けて,次の2つの方法がある.

- 正方形のボディの字幅情報を書き換えて,疑似的にプロポーショナル幅を持った文字として配置する.
- 最初からプロポーショナル幅を持った文字としてデザインされたフォントを利用する.

### 5.2.2 和字のカーニング処理

プロポーショナル幅の文字を利用するとしても,さらに文字の組合せによっては,特に仮名の場合などで他の字間と比べてアキが大きくなる場合がある(フォントにもよるが,例えば横組で“ほ”と“は”の並びと,“く”と“り”の並びでは,見た目の字間の印象は異なる).

そこで,ラテン文字のカーニングと同様に,予め設定されている文字の組合せに応じて詰める量を設定したカーニングテーブルに従って,字間を調節する方法もある.

この方法は,ボディを密着させて配置したうえで,さらに字間を詰める処理を行うものである.

### 5.2.3  大きい又は小さい文字の問題

デジタルテキストにおいてフォントは同一比率で拡大縮小される.しかし,そのように拡大した場合,視覚的に,文字間の空白が開きすぎになる,あるいは日本語の明朝体における縦線と横線の比率も変えないと,バランスの悪い文字になる(明朝体等での縦画線と横画線の太さの比率を以下では“縦・横画線のコントラスト”と呼ぶ).また,文字を縮小した場合は,読みやすさに欠ける場合もあるので,字形等を工夫する必要もでてくる.

こうした視覚的な文字間の空白や縦・横画線のコントラストを調整する方法としては,次のような方法がある.利用できる環境や,文章の目的,表示の状況などにより適宜選択して利用するとよい.

- 想定する使用文字サイズの範囲を決めて,その範囲ごとに,最適化したデザインの異なるフォントを作成し,文字サイズに応じて使い分ける.この方法は,日本語フォントに比較して収録文字数が少なくてすむ欧文フォントで主に採用されてきた.

図〓に示したGaramond Premier Proの例で,キャプション,本文,見出しの3つのレンジごとに最適化したデザインのフォントが用意されている.

図〓 Garamond Premier Proの例

- アプリケーションの字間処理の最小単位を細密にして,文字を配置する段階で微妙に字間を空ける,あるいは詰める処理を行う.これにより,書体デザインの作成時点で想定されていた文字サイズと異なる文字サイズの字間の最適化を行う.現在のデジタルフォントの字間(または字送り)調整の単位としては,文字サイズの1/1000又は1/2048が広く用いられている.

ただし,この方法で改善できるのは字間だけであって,縦線と横線の比率など,文字サイズに最適な文字のデザインが利用できるわけではない.また,テキスト全体に適用すると,仮名だけでなく漢字の字間を調整されるので,フォントによっては漢字の視覚的な字間が詰まって見えることもあるので注意が必要である.

注 漢字と仮名の字面のサイズ 漢字と仮名の平均的な字面のサイズは,特に一般的な明朝体においては,漢字にくらべ,仮名の方がいくらか小さくデザインされていることが多い.日本語の文章の中では,主要な意味の表現には漢字が使用され,仮名はどちらかといえば,補助的な役割を果たしている.漢字と仮名の字面のサイズが異なる,あるいは,その他,線や字画の性質もやや異なることにより,漢字がいくらか強調され,単語の区切りを読み取る助けにもなっている.

- 書体デザインの段階において,複数の異なる画線の太さのバリエーション(以下,“ウェイト”と呼ぶ)のフォントから構成されるファミリーを作製する.これを使用状況の中で適宜選択する.通常,ウェイトが細いフォントは通常の大きさのテキストに,太いフォントは見出し用,つまり,細いウェイトのフォントは小さな文字サイズでの使用が,太いウェイトのフォントは大きな文字サイズでの使用が想定されている.

この想定する文字サイズに応じた最適化した書体デザインを行う方法は,活字組版や写真植字で採用されてきた伝統的な方法である.

この方法では,ボディに対する字面の平均的な大きさ,及び明朝体等での縦・横画線のコントラストについて,ウェイトごとに変えて設定する.細いウェイトのフォントでは,字面の平均的な大きさは正方形のボディに対して相対的に小さめに,縦・横画線のコントラストは低く,つまり横画線の太さは相対的に太めにデザインする.他方で,太いウェイトのフォントでは,字面の平均的な大きさは正方形の文字の外枠に対して相対的に大きめに,縦・横画線のコントラストは高く,つまり横画線の太さは相対的に細めにデザインする.

- バリアブルフォントを利用する.バリアブルフォントでは,1つ又はそれ以上の文字の形の属性に対応した可変軸をもつフォントを用いる.これによれば,文字サイズに最適化したデザインの文字を生成して利用できることになる.

この方法の単純な例としては,小さな文字サイズに適したデザインを可変軸の一方の端に位置づけ,大きな文字サイズに適したデザインをもう一方の端に位置づけ,それらの中間の形状を自動的に計算によって生成する方法がある.こうした方法は,バリアブルフォントの技術で実現可能である.

なお,前述したプロポーショナル幅を持った文字の利用は,文字の拡大・縮小に伴うの字間の調整としても,利用できるとしても,この方法は,文字サイズを変える場合,単純に拡大・縮小するものなので,本質的に文字の拡大・縮小に伴う調整に対応したものではないことに注意する必要がある.

## 5.3 約物の処理

和文用の括弧類や句読点は,一般に字幅の半分よりやや小さい字面を持っており,その字幅の半分程度の空白がある.そのため,この字間の調整が必要な場合がある。この処理の巧拙が日本語組版処理の読みやすさ、美しさに大きく影響する。

### 5.3.1 約物の配置の基本

始め括弧類では前側,終わり括弧類や句読点では後ろ側に空白がある.この空白は,文の区切りや語句のまとまりを示すためである.また,中点類は前後に字幅の1/4ずつの空白がある.これらの約物は全幅のボディを密着させて配置していけば空白は確保される.

注:日本語の中に使用する括弧類や句読点,中点類には,ラテン文字用の括弧などがある例もある.特に必要があるために使用する場合を除外し,日本語の中では和文用の括弧類,句読点,中点類を使用する.たとえば,“索引(index)を”とあった場合も,たまたま小括弧内の内容がラテン文字であるが,小(丸)括弧は和文と考える.

### 5.3.2 括弧類・句読点等の空白を削除する例

次のようなケースでは,括弧類や句読点などの空白を削除、または幅の調整をする処理が必要になる.

- 括弧類や句読点を連続して配置する場合
-括弧類が行頭に配置する場合
- 行の調整処理をする場合

また、下の文脈の場合、この空白を削除する場合がある。(例)

- 漢数字の間に読点(U+3001)を用いる場合
- 中点(U+30FB)で漢数字の小数点を示す場合
- 文中に現れる小(丸)括弧などの外側の空白を削除して配置する方法がある

### 5.3.3 括弧類や句読点が連続した場合の処理

括弧等が連続した場合,処理の対象となる括弧類や句読点等に次がある.同じ処理となるものをまとめ,3つのグループとして示す(この項及び次項に限る).このように空白を調整するのは,これらの約物が単独で表示される場合と連続した場合とで,その表示される空白の大きさをそろえるためである.

- 始め括弧類(この項及び次項では“始め括弧”という)
- 終わり括弧類,読点,句点(この項及び次項では“終わり括弧等”という)
- 中点類,和字間隔(この項及び次項では“中点等”という)

どのように空白を削除するかは,別表に示す.

> 以下が別表

〈後ろ〉       始め括弧  終わり括弧等  中点等

〈  始め括弧    後の前-1/2    密着    密着

前  終わり括弧等  -1/2(要説明) 前の後-1/2  前後-1/2

〉  中点等     後の前-1/2    密着    密着

用語の説明:
 後の前-1/2:後ろに配置する始め括弧の前を文字サイズ(字幅)の1/2だけ詰める
 前の後-1/2:前に配置する終わり括弧の後ろを文字サイズ(字幅)の1/2だけ詰める
 -1/2:文字サイズ(字幅)の1/2だけ詰める.ただし,基準量は前に配置する文字サイズか,後ろ配置する文字サイズかが問題となる(項を改めて解説する)

注 和字間隔以外の空白 Unicodeには,ラテン文字用のSPACE(U+0020)をはじめとして多くの間隔を空けるものがある.これらを日本語組版で使用した場合は,通常は空白の調整はしなくてよく,ボディを密着させて配置していけばよい.

### 5.3.4 終わり括弧等と始め括弧が連続する場合の処理

終わり括弧等と始め括弧が連続する場合,終わり括弧等の後ろに空白があり,さらに始め括弧の前に空白がある.2つの文字サイズが同じであれば,どちらの文字であろうと字幅の1/2だけ詰めればよい.

しかし,その2つの文字サイズが異なる場合は,どちらを詰めるかが問題となる.通常は,大きなサイズのものが優先されると考えられるので,並んだ2つのうちの大きな文字サイズの空白を優先し,小さい文字サイズの字幅の1/2を詰める処理でよい.

この場合は,前か後ろかは,状況による.そこで,大きなサイズと小さいサイズを平均して,その平均の1/2という方法でもよい.空間の大きさは,一般の読者にとっては,それほど正確に認識するのは難しいので,多少の差異は問題とならないであろう.

これ以外に次のような方法もあるので,紹介だけしておく.

- 後ろに配置する括弧類等の文字サイズを基準とし,その文字の字幅の1/2だけ詰める.従来から行われていた方法である.従来は挿入する括弧書きは,小さい文字サイズのものが多かったので,この方法で処理すれば,小さい文字サイズの字幅の1/2を詰める処理となった.
- その段落で使用している文字サイズの1/2だけ詰める.
- 大きい文字サイズの字幅の1/2を詰める.

### 5.3.5 行頭の括弧類の配置処理

行頭に配置する括弧の配置では,始め括弧類の前にある空白をどう扱うかが問題になる.その際に考慮しないといけない主な事項は,以下である.

- 行頭(横組でいえば行頭の垂直線,縦組でいえば行頭の水平線)はそろえた方がバランスがよい.一部の行頭に不必要な空白が出ないようにするのが望ましい.
- 行頭以外の箇所で,横組でいえば縦の並び,縦組でいえば横の並びは,可能ならそろえた方がよい.つまり,行に配置する2字目以下の文字位置もそろっていれば,きれいな配置に見えるが,これは,あまり重視されていない.
- 段落の先頭を空白(1字分下げる)にするのは,段落の区別を付けるためである.改行の行頭に括弧類がない行と,括弧類のある改行の行頭の空白の大きさはそろっている方が望ましい.
- 異なる字幅のものが含まれていると,行頭・行末そろを選択した場合,行の調整処理が生じ,ケースによっては字間に不必要な空白が生じる場合がある.これはできれば避けたい処理とはいえ,これも行の調整処理が自動で行われていることを考えれば,それほど重視されていない.

一般的に言えば,1と3は重視されるが,2については,あまり重視されない.4については,行長にもよるが,ある程度の長さがあれば,重視されないが,行長が短い場合は,字間の乱れが発生するので,考慮したい事項になる.

こうした事項を考えると,次のような配置になる(図〓参照).なお,段落の先頭で全幅の1字分下げない場合は,段落の2行目以下と同様に処理する.

図のテキスト例

  「原稿編集」の問題 ←(行頭の全角下ガリの小見出し)

  「原稿編集」は,著者から入手した……

 であるので注意が必要となる.そこ……

 「原稿」をどのようにして行えばよい……

 した作業を行うには,著者の意向をま……

- 段落の先頭で全幅の1字分下げる場合:括弧類の前にある空白(字幅の1/2)を削除する.
- 段落の2行目以下:括弧類の前にある空白(字幅の1/2)を削除する(以下,天付きという).

この方式は,視覚的にそろって見えるが,段落先頭行でも2行目以下でも,行長に字幅の1/2の過不足が発生する可能性がある(詳細は〓参照).

これ以外に,次のような方法がある(図〓参照).この方式は,括弧で括る会話の多い小説等で,その括弧が下がり過ぎないようにするために考えられた方法である.小説の出版点数の多い出版社では,こう方式を採用している例が多い.

- 段落の先頭で全幅の1字分下げる場合:括弧類を字幅の1/2だけあげる.結果として段落先頭行の字下ガリは,視覚的に見て,字幅の1/2となり,他の括弧類が行頭にない場合と異なる.
- 段落の2行目以下:天付きとする.

この方式は,2行目以下で,行長に字幅の1/2の過不足が発生する可能性がある.

さらに,次のような方法もある(図〓).

- 段落の先頭で全幅の1字分下げる場合:括弧類の前の空白を削除しない.結果として段落先頭行の字下ガリは,視覚的に見て,字幅の1.5倍となり,他の括弧類が行頭にない場合と異なる.
- 段落の2行目以下::括弧類の前の空白を削除しない.結果として,視覚的に見て,字幅の1/2倍だけ,他の括弧類が行頭にない場合より下がって見える.

この方式は,視覚的にそろって見えないが,段落先頭行でも2行目以下でも,行長の過不足は発生しない可能性がある.

他に,段落の先頭は1番目,2行目は3番目の方式を採用した例は,ないわけではないが,少ない.

従来の書籍では3番目の方式は多かったが,行の調整処理の自動処理が可能になり,ほとんど見掛けなくなった.今日では,行長が極端に短く,行の調整処理で,字間の乱れが多くなり,それを避けるるために採用している新聞などを除外して,使用例は少なくなっている.

注 小見出しの下ガリと改行行頭 小見出しは,文字サイズの1字だけ下げるという方法が選択されることが多い.この場合,小見出しの行頭に括弧類がある場合,一般に,小見出しの前に余分な空白がでないように配置する.こうした小見出しと段落の先頭の括弧類の配置を図〓に示す.こうした例からも,一番目に示した方法が望ましいであろう.

## 5.4 ラテン文字の処理(後送)

## 5.5 文字間での分割(後送)

## 5.6 行の調整処理(後送)

## 5.7 行送り方向の文字位置(後送)

## 5.8 分かち組(後送)

## 5.9 文字クラスの変更と簡略化(後送)

Received on Tuesday, 9 September 2025 04:46:50 UTC