- From: Kobayashi Toshi <binn@k.email.ne.jp>
- Date: Wed, 19 Jun 2024 13:01:58 +0900
- To: 木田泰夫 <kida@mac.com>, 小林龍生 <tlk@kobysh.com>
- Cc: Yamamoto Taro <tyamamot@adobe.com>, JLReq TF 日本語 <public-i18n-japanese@w3.org>
木田泰夫 様 みなさま 小林 敏 です. 木田泰夫 さんwrote >そもそもそんなに字体にこだわる必要があるの?というのがもっと重要な問いのように思います。歴史を通して、王の名前を避けるために点を加えたり、人名地名の字体に執着を見せたり、字体に対する鋭敏な意識を垣間見ることができます。が、一般のコミュニケーションにおいて、多大なコストをかけてまで、字体にこだわる意味はどこにあるのか、その辺りをもっと知りたいように思います。 要約して示すと,以下 そもそも“当用漢字”が悪い,というか混乱の元を作ったように思います.“当用漢字字体表”で600字ほどの字体を改めた.しかも,その字体は,“常用漢字表”でいう“通用字体”という言い方ではなく,“日常使用する漢字の字体の標準を,次の表のように定める”という言い方をしている.“標準”,つまり漢字の正体を決めたということです. *漢字の字体の区別に正・通・俗という言い方がありますが,“当用漢字字体表”は“正”,“常用漢字表”は“通”といえなくもない. それでは,“当用漢字”でない漢字の字体は,どうするの,という問題がでるが,これには何も触れていない.そもそも,“当用漢字”では,“日常使用する漢字の範囲を,次の表のように定める”とあって,“当用漢字”でない漢字の使用は制限しようとした.制限する漢字の字体は,考える必要がなかった. 漢字の使用を制限することから,以下のようなことが考えられた. ・この表の漢字で書きあらわせないことばは,別のことばにかえるか,または,かな書きにする(当用漢字表・使用上の注意事項) ・固有名詞については,法規上その他に関係するところが大きいので,別に考えることとした.(当用漢字表・まえがき) ・ふりがなは,原則として使わない.(当用漢字表・使用上の注意事項) ・動植物の名前もかな書きにする.(国語審議会幹事長保科孝一の朝日新聞“声” 欄に掲載された記事による).“ ・同音の漢字による書きかえ(国語審議会報告,1956年) でも実際には表外漢字も使用されていた.そこで,表外漢字も“当用漢字字体表”にならった字体のものを印刷所で準備した(たぶん,出版社で使いたいといったのではないかな?).その例は,書籍では,それほど多くない(新聞での使用例が多い).例えば,“標準 校正必携 第三版”(1973年)では,“いわゆる拡張新字体”という用語で,81字の例が掲げられている. ただし,“いわゆる拡張新字体”の使用は避けた方がよいという考え方が多数派であった.表外字のどこまでの字体を改めればよいのか,決めようがない.新たに母型を作製しないといけない,といったこともあり,一部では“いわゆる拡張新字体”が使用されていたが,多くは“いわゆる拡張新字体”は使用されないでいた. “当用漢字字体表”は,1981年に“常用漢字表”に改められたが,表外漢字の字体については,特に規定していない.将来の課題とした. ところが,JIS X 0208の1983年の改正で,第1水準の表外漢字の例示字形(例示字体)に“いわゆる拡張新字体”が多数採用され,それにならった字形のフォントが作成され,DTPの普及とともに,この“いわゆる拡張新字体”の使用が増えてきたという状況になった.初期のDTPでは,特別な処理をしない限り,この“いわゆる拡張新字体”を使用せざるを得ない状況であった. こうした,状況から,表外漢字の字体について,2000年に“表外漢字字体表” が国語審議会から答申された.その要点は, ・適用範囲は,法令,公用文書,新聞,雑誌,放送等,一般の社会生活において表外漢字を使用する場合 ・印刷文字(情報機器の画面上で使用される文字や字幕で使用される文字などのうち,印刷文字に準じて考えることのできる文字を含む)を対象として示す(印刷文字と筆写文字の字体とは別のものであるという考え方をとる) ・標準的な字体(印刷標準字体)としては,従来から使用されていた“いわゆる康熙字典体”を採用する. 2010年の“常用漢字表”の改正では,“表外漢字字体表”に含まれる漢字が追加されているが,原則として印刷標準字体又は簡易慣用字体が採用されている. ということで,“当用漢字”で字体を改めた(この評価は,いろいろあると思うが,今や定着しているといえよう). 表外漢字については,2つの考え方 A “当用漢字”での字体にならった字体は使用しない,“いわゆる康熙字典体”を使う(私も含めて,主に書籍関係) B “当用漢字”の字体にならい,字体を改め,“いわゆる拡張新字体”を使う(主に新聞). このAとBのせめぎ合いが,1949年“当用漢字字体表”以来,続いてきたわけですが,それに決着を付けたのが,“表外漢字字体表”だったわけです. 必ずしも“表外漢字字体表”に従う必要はないが,それに従った方が混乱はないでしょう,ということです.(“朝日新聞”は,Bであったが,一部の漢字を除き,“表外漢字字体表”に従うようになった.) そして,基本的にJIS X 0213もそれに従っていると思います.(ただ,フォントによっては,山本さんの画像に示した“JIS 1990”がデフォルトで,IVSを使用しないと“JIS 2004”字形にならない文字があり,現在も両方の字形が出版物では使用されています.私の観察によれば,2つの比率は半々かな(当然,1冊の本の中でも別の漢字ですが混用されている例も多い). ある程度の混乱,ゆれは,言語につきものとは思うが,今後は,たぶん,時間はかかるが,“表外漢字字体表”に従った字体になっていくのではとも思っているし,そうなってほしい,とも思っている.
Received on Wednesday, 19 June 2024 04:03:07 UTC