Re: 行頭約物

石井 様

 小林 敏 です.

この件,判断材料の参考に,これまでの経過を少し詳しく書いておきます.

出てくる箇所は,以下の2つ
 段落の先頭行(全角下ガリ)とする場合 以下,“段落先頭”という
 段落の2行目以下 以下,“折返し先頭”

考えられる組合せとしては以下の5つ,なお,括弧の字幅は二分として説明
 a 段落先頭:全角二分下ガリ 折返し先頭:二分下ガリ
 b 段落先頭:全角二分下ガリ 折返し先頭:ベタ(以下,天付きという)
 c 段落先頭:全角下ガリ 折返し先頭:二分下ガリ
 d 段落先頭:全角下ガリ 折返し先頭:天付き
 e 段落先頭:二分下ガリ 折返し先頭:天付き

bとcは,組合せとしては考えられるが,実際にこのようにした例はない,といえよう.そこで以下の説明では除外する.(ただし,岩波書店の児童書ではcだったようにも思う.)

活字組版では,字幅やアキが全角以外になると行の調整処理は出るので,その配置は避けたい.そのような組合せは,避けたい配置はdとeです.dは段落先頭でも折返しの行でも発生する.ということでaが好まれた.実際にも,そのような配置が多かった.代表的には岩波書店(ただし,岩波書店の横組では,並びが気になったのかdであった).私も若い頃はaを選んでいた.

ところが,このaは,下がりすぎる印象を与える.特に小説などでは,会話文を括弧でくくり,その括弧が段落先頭に配置されることが多い.この場合,とても下がって見える.そこで活字組版時代でも,eとする出版社があった.それは小説を多数出版する出版社,ということは大手の出版社でeとしていた.具体的にあげれば,新潮社,講談社,中央公論社,筑摩書房(角川書店は今ではそうだが,当時はaではなかったかな)など.今でもこれらの出版社はeです.ですので,現在でもeを見る機会は多いでしょう.

なお,たしか当時の白水社はdで,今でもそうではないかな.

簡単に当時の事情を言えば,大手はe,中小出版社はaということになる.

そして,1990年前後になりコンピュータ組版が一般化した.そうなると行の調整処理は,それほど面倒ではなくなった.(正確な年代は当時の出版物を調べてみないといけない)まあ,1990年ごろだったと思いますが,岩波書店がaからdに変更した.私も,その頃,aからdに変えた.つまり,字面で考えれば,もっともdが理屈にあっている.見た目のアキは,段落先頭では全角下ガリだし,折返し先頭はアキをとる必要はないということです.

そして,この頃から,他の出版社でもaからdに変わる例が増えている.つまり,中小出版社でdにするようになった.最近では,よほどの(つまりあまり考えない人)場合以外はaという例は見ない(Wordで作成したドキュメントなどではaがあるかもしれない).

1993年に制定された“JIS X 4051”の第1次規格でどう規定していたか調べないとわからないが,1995年に制定された第2次規格では,a, d, eの3つの方法が示されていたと思うが,dがまず示されていたので,その影響も多少あったのかもしれない(つまりaとeは処理系定義で採用することは可能という説明).また,当時の編集・校正関係の技術書での説明も影響したかもしれない.

つまり,現在は,主にdかeであるということになる.

で,どちらがよいか,といえば,JIS X 4051の立場ではdで,私もdがよいと思っている.つまり前述したように,字面で考えれば,これしかないでしょう,となる.

ただ,eが大手出版物に多く採用されている現状は無視できない.これも実現されないと困る.

aは,考えなくてもよいと,私はいいたいが,その例は残っており,そうはいかないでしょう.選択肢としては残す必要がある.

次に実際の処理を考えると,dは素直であるが,eは,段落先頭に括弧がない場合とは別処理が必要になる.

なお,実際のその配置を実現する方法として,dでは段落先頭に全角スペースを入れる方法がある.この場合,全角スペース+始め括弧の場合,始め括弧の行頭側の二分アキは削除されるはず(括弧の連続処理ができれば,ここもそうなる).この点では問題は出ない.ただし,私は段落先頭の全角下ガリの実現は書式で行うのが原則だろうと思っている.この書式の設定でも行頭の括弧の前の二分アキは削除されということを考えれば,書式で全角下ガリを指定すればdでは段落先頭でも折返し先頭でも,指示した配置が可能になる.その意味でも1つの書式で配置が決まるdの方がよい,1つの理由になる.

Received on Tuesday, 17 October 2023 06:43:29 UTC