- From: Taro Yamamoto <tyamamot@adobe.com>
- Date: Wed, 6 Sep 2023 07:47:30 +0000
- To: 木田泰夫 <kida@mac.com>, Kobayashi Toshi <binn@k.email.ne.jp>
- CC: Makoto MURATA <eb2m-mrt@asahi-net.or.jp>, JLReq TF 日本語 <public-i18n-japanese@w3.org>
(さらにコメントを追加します)。 > ちょっと,村田さんの問題とは違ってきますが,ベタ組では,だめな例は,実はあります.それは大きなサイズにした見出しです.現時点の技術では,文字サイズは比例計算してサイズを変えます.文字サイズを比例計算で拡大すると,字間のアキも同じように比例して大きくなります.活字組版では,文字サイズに応じて,母型を作製する段階で,字間が適当になるように調整していました(ラテン文字についていえば,文字サイズごとに原図が異なっていました)が,手動写植とか,DTPでは,それができないのです.ですので,バランスをとるために,大きな文字サイズの見出しなどでは,字間の調整が必要になります. > また,それとは逆に,和文の見出しは,字数が少ない場合がけっこうあります.そこで,本文とのバランスをとるために字間を空ける方法をとる場合もあります. 小林さんが書かれたように、パンチカッター(父型彫刻師)が父型を彫刻していた時代、またはそれと同様にパントグラフの原理を利用したベントン彫刻機を使わずに母型を作成するためのデザインの原型を手で彫って作成していた時代においては、各文字サイズごとにデザインが異なっていて、原寸大の大きさで読みやすくしかもデザインの一貫性が保たれるように、文字の形がサイズごとに最適化されていました(もちろんこの出来不出来はその職人の技量とセンスに依存したわけですが)。また、その後、父型や母型の製造が機械化されるようになった時点でも、基となる文字のデザイン(原字パターン)は同じでも全角の中での大きさ(字面率)を調整するなどして、サイズごとに微調整が行われました。しかし、これらのことはサイズごとに活字を製造する必要があるためで、光学的に原字から作成した文字盤上の文字を拡大縮小する手動写植機やデジタルフォントを用いる電算写植やDTPにはあてはまりません。同じ原字パターンを拡大縮小するだからです。これまで、この問題に対する解決策として、次の方法が用いられてきました。 a. 想定する印字サイズのレンジを決めて、それらのレンジごとに、最適化したデザインを作成して、異なるフォントを作成して、用途に応じて使い分ける。これは欧文フォントで行われてきました。次の例はGaramond Premier Proの例で、キャプション、本文、見出しの3つのレンジごとに最適化したデザインのフォントを用意しています。 https://flic.kr/p/2p1ixPs b. 字幅の送り機構の最小単位を細かくして、文字を組む段階で微妙に文字の間を空けたり詰めたりして、書体デザインが作成された時に想定されしていた印字サイズと実際の印字サイズが異なる場合に、字間のスペーシングを調整できるようにします。このことは欧文の字幅の送りユニットが1/18 EMからどんどん細かく指定できるようになっていった歴史が示しています。また、送り機構の最小単位を十分に細かくすることによって、対象とする装置とは異なるユニットでデザインされたデザインを移植する際にも、誤差を最小化できます。現代のデジタルフォントでは全角あたり1000ユニットか2048ユニットが多いですが、さらに大きなユニット数を採用することも可能です。InDesignなどでは、トラッキングの機能を使って字間の全体的な調整を行うことができます。日本語組版でも、いわゆる写植時代に「1歯詰め」と呼ばれたように、字送り量を1歯減らして、均等に詰める方法が、商業印刷物などに用いられました。(ただし、この方法は推奨できません。単純に1歯詰めるだけだと、日本語のフォントは通常プロポーショナルでないため、特に漢字のあいだで詰まり過ぎる箇所が発生してしまうためです。ただ、一見よりタイトに見える版面が得られるのでグラフィックデザイナーが多用しました。) c. 現在では、 Variable Fontsのように可変軸をもつフォントを用いることで、印字サイズに最適化したデザインのインスタンスを生成して利用可能にする方法が考えられます。 d. これは日本語のフォントにも言えることですが、太さが細いフォントは本文用、太いフォントは見出し用を想定して、ウェイト(太さごとに)仮想ボディの中でどれぐらいの大きさでデザインするか、及び明朝体などでの縦画線と横画線の太さの対比(コントラスト)を変えています。これは書体のデザインの段階で一般的に広く行われていますが、これも印字サイズに書体デザインを最適化する一つの方法といえます。 e. 特に見出しにおいては、文字の詰まり方とスペーシングはデザイン上の重要な要素なので、書体デザイナーがフォントの中で設定した詰まり方とは関係なく、それぞれ個々のデザインに応じて、詰めたり空けたり、必要であれば一文字づつ手で詰めたり空けたりする作業が行われます。このことは、最適なスペーシングはレイアウトやデザイン全体と相互に連関し依存しているということを示しています。 つまり、この問題については、書体をデザインする際に対処できることと、それを組む側が対処できることがあると考えられます。 山本太郎
Received on Wednesday, 6 September 2023 07:47:40 UTC