* もしもOSやライブラリが修正されて、正しい仕様に沿う動作(例:ペアカーニングを有効にしようとしても、ペアのグリフの少なくともどちらかにpaltが設定されているならpaltを有効にしないかぎりkernを有効にしない)に変わったら、日本語テキストの表示がそれまでと違う結果になるので互換性の問題が生じます。
正しい仕様に沿う動作をしている環境で作成され読まれていた文書が、正しくない動作をする環境に持ち込まれた場合にも互換性の問題が生じます。どちらの場合の互換性の問題も、正しくない動作をする環境が原因になって発生する問題であり、正しい仕様に沿う環境に責任はありません。
* 発生する互換性の問題としては、それまで仮名文字のペアカーニングがデフォルトで効いていたのが効かなくなることで、ある領域に収まっていたテキストが収まらなくなりオーバーフローして読めなくなるなどです。これは和欧文間スペースがデフォルトで入ることになることでの互換性の問題とも同じことですが、和欧文間スペースの場合はそれによって読みやすさが改善するというメリットがあるのに対して、仮名文字のペアカーニングがデフォルトで効いていたのが効かなくなることのメリットがそれほどあるのかどうかが問題です。
こちらの互換性の問題についても同じことがいえます。たしかにpaltとkernをもつフォントを使ってkernだけ適用した場合にも、特定の字間が詰まりますが、その「ペアカーニング」の値は、不十分でありかつ不正です。それを「ペアカーニング」が効いている状態と認識するのは誤りだと思います。また、その不十分でおかしな詰まり方が「効かなくなる」ことにメリットがないのは、当然です。なぜなら、単に普通の正常な状態に戻っただけだからです。
* 現状のAppleのOSなどの標準の日本語テキスト表示は、paltを有効にしないでkernだけを有効にするものですが、それなりによいテキスト表示結果になっていると思います。完全なベタ組で仮名文字が全角固定ピッチで表示されるよりも、むしろ好ましいといえるかもしれません。フォント制作者の意図ではkernはpaltの詰め組みのためものだとしても、それを全角固定ピッチに適用すると少し補正されたべた組という結果になって、そんなに悪くはない気もします。
paltを有効にしなければ、kernの効果が半減するため、それほど見栄えが大きく変化することはありません。だからといってそれを好ましいと認識するのは、もはや主観の問題・あるいは偶然性の問題であって、フォントやテキストエンジンがどう動作すべきか、という一般的で予測可能な事柄からは離れてしまうと思います。
また、デフォルトでそのような動作をする環境を許容してしまうと、プロポーショナルフォントでもないのに、日本語をベタで組めなくなる状況を将来することでしょう。
* 設計者が意図していない間違った使われ方がされて、それが案外役に立って普及してやがて標準になるということはあるものだと思います。
どんな使われ方をされるかは多様で、使い方を強制することは不可能です。しかし、設計者の意図を知ってしまった後でも、知らないふりをして、それを「標準」にしてしまって良いとは考えません。
特に、途方もない時間と手間をかけて日本語の書体をデザインし、正しくフォントを実装をした書体デザイナーや開発者の前で、そんな「標準」もありだとは、とても言えません。
山本
アドビ