RE: JDLReq(仮称)のメモ

小林 様

コメントをいただきありがとうございます。

> 現実にも,字面の大きなフォントもあれば,そうでないフォントもあります.ラテン文字には,文字設計の基準となるラインがありますが,日本語にはないので,日本語ではむつかしいでしょうが,何か,それを表現する方法は考えられないかなあ,という願望もあり,問題にしたものです.

写真植字やデジタルフォントになってから、物理的なボディが存在しなくなったため、欧文の場合、揃えの基準位置は、ベースラインしかなくなりました。そして、サイズは字母の座標系の (x, y) = (0, 0)の位置を中心に拡大・縮小をする倍率(単純な座標変換)で決まるだけです。そのため、字母の大きさには、ほとんど制約がなくなりました。そのため、同じサイズを指定しても、書体デザインによって大きさは極めて不均等になります。

「同じ文字サイズを指定しているのに、こんなに書体によって大きさが違うのなら、何のために文字サイズを指定しているのだろうか?」という疑問は、もっともなことで、そのために、小文字や大文字の高さを文字の大きさとして指定する方法が60–70年代に提案されました。しかし、何百年続いた慣習には勝てなかったのか、普及しなかったようです。

他方で、日本語の印刷書体の場合、ほとんどの書体は、全角の正方形にある程度合うようにデザインされていて、漢字の場合、字面率はおよそ88%から95%のあたりに偏っています。また、異級数・異サイズ揃えの位置は、全角の正方形を水平方向または垂直方向(縦組みの場合)に貫通する中心線か、上と下の辺または左右の辺(縦組み)に限定され、そのどれもが、全角の正方形の仮想ボディの一辺の位置を参照します。そのため、版面の位置指定も、全角の正方形のどれかの辺とページの端からの距離をマージンとします。また、ベタ組みの場合、行長を字詰め(一行の文字数)で指定する必要があることも、全角の仮想ボディに依存しています。そのため、欧文で行われた提案のように、文字の形が実際に占める領域(字面)をサイズや位置指定の参照点として用いる方法は、日本語組版の慣習とうまく調和しないように思います。

ただし、字面を、図版などの他のページ要素と揃えたいという場合は、ないわけではありません。そのために、OpenTypeではICF (Ideographic Character Face)の情報(和文の平均字面)の情報を持つことができます。

> ポイントのメートル法でのサイズは,何をもってきてよいか悩んだのですが,とりあえずJISに従ったのです.現状では,細かい話はおいておいて,単純にメートル法で示すとした場合は,0.3528mmでいいのでしょうか?

メートル法だと割り切れないので、メートルを使うのは良い方法ではないと思います。JISは何か一つの値に決めた方が良かったので、アメリカンポイントは0.3514 mmと決めることができましたが、厳密には0.35136666. . . mm(国際フィートを基準にした場合)ですし、国際フィートができる前に決まっていたアメリカンポイントを国際フィートを基準にしてメートル換算することに意味があるのかどうか、などと考え始めるとキリがありません。(それに比べると、1 Pica = 0.1660インチというその後定着したアメリカンポイントの定義よりも、制定当初に言われた83 Pica = 35 cmという定義の方が賢明でした。英米でのフィートの違いを避けることができたので。)

同様に、現在のコンピュータ上で用いられている1 pt = 1/72 インチ(国際フィート)も、「0.3528 mm」というように小数点以下5位を四捨五入した数は用いない方が良いのではないかと思います。あくまで私見ですが。(国際フィートの1インチ = 25.4 mmのところまでは、メートル換算も明快で良いのですが。1/6して1/12するところが辛いですね、割り切れないので)。

また、同様に、専門的な印刷史に関する書籍や記事などでも、ポイントシステムが標準化される以前の活字のボディを「Pica」と見本帳に書いてあったからといって「12 pt活字」などと書いているのを見かけますが、そういう記事を読むと「ナンセンスだなあ」といつも思います。活字の寸法の基準が曖昧で、地域や鋳造所によってばらついていたために組版ができなくなる非互換性の問題が、特に米国などでは19世紀以後活字が商品として流通するようになって、顕著になって、それを解消するためにポイントシステムを制定したわけで、昔の活字をポイントで呼んでしまったら、寸法が間違っているだけでなく、歴史を逆行することになってしまいます。

蛇足のまた蛇足まで、失礼しました。

山本

Received on Tuesday, 19 October 2021 00:21:17 UTC