送りかアキか

みなさま

 小林 敏 です.

“送り”か,“アキ”か.JDLReq(仮称)の準備も考慮し,この問題について少し考えてみました.説明するためには,ここを最初に決めておく必要があるように思います.

文字を配置する際の基本的な考え方というか,その説明のモデルには何をもってきたらよいかという問題です.(ここでは,実際の組版エンジンがどう処理しているかは考えないといけないのですが,あくまで説明のためのモデルということで,この点は無視します.)

なお,以下では,活字組版は“活版”,手動写植は“写植”という用語を使用します.

文字配置の説明のモデルとして以下があります.
 A 活版モデル:文字のボディを基本として,文字間のアキで説明
 B 写植モデル:文字の基準位置から次の文字への移動量(送り)で説明
 C その他:例えば,配置面にグリッドを設定し,そのグリッドにそって文字を配置
ここでは,Cは考えないことにします.

Aは,現在のJIS X 4051やJLReqで採用しているモデルです.この場合は,和文は正方形のボディが基本ですが,かならずしも全角ではなくてよく,ラテン文字などは,字幅が文字により異なります.なお,文字のボディを,JIS X 4051では,仮想ボディという用語ではなく,文字の外枠という用語を使用しています.

この方式では,細かいことは除外すれば,基本として文字を正立した場合の天地のサイズ(以下では高さ),左右のサイズ(以下では幅)の情報があればよいことになります.横組では,高さが文字サイズ,幅が字幅(文字を配置していく場合に,字送り方向に占める領域)となります.縦組では,文字のボディの高さが文字サイズであり,同時に高さが字幅となります.ただし,横転して配置した場合は横組と同じです.

この方式では,文字の高さが文字サイズになり,文字の高さと幅の情報があれば,各文字間,あるいは行送り方向も,細かい事項を除き,アキが指示されていれば文字の配置位置は決まります.アキがゼロであるということは多いので,ベタ組という概念は重要になります.

このモデルでは文字の高さと幅(いってみれば文字の外枠または仮想ボディ)を想定しないといけないという欠点がありますが,見た目のアキ量で考えればよいという利点があります.

では,写植モデルでは,どうなるか.

この方式では,文字の外枠または仮想ボディは考えなくても説明は可能になります.文字サイズは,元となる大きさのサイズにある字面を決め(写植では16級または17級でした),あとは比例計算でサイズを決めればよいことになります(ただ,これだと分かりにくいので,説明として文字の外枠または仮想ボディを介してもよいかもしれない).文字の持っている情報としては,基本サイズの字面の大きさと,以下で説明する基準位置だけがあればよいということです.

次に,このモデルでは,各文字の基準位置を決めないといけません.基準位置は,決まっていれば(一定であれば),どこでもよいのですが,写植では仮想ボディの天地左右の中心(センター・センター方式という)と,仮想ボディの字送り方向の先頭,行送り方向の中心(トップ・センター方式という,縦組と横組で基準位置が変わる)がありました(ここは記憶ですので,文字の左右中央と天地中央で,縦横で変わらないであったかもしれない).

ここから,活版モデルでいうベタ組の場合も,送り量(写植では初期のモデルが歯車で印画紙の位置を動かしていたことか歯送りといった)の計算が必要になります.同じ文字サイズの場合は,文字サイズと同じ歯送りでよかったが,ベタ組で10級の文字の後ろに20級の文字を配置する場合,センター・センター方式では15歯,トップ・センター方式では10歯と,送り量は異なる.

また,ある領域の先頭,あるいは行頭をそろえるといった場合,トップ・センター方式では,文字配置位置をゼロで開始すればよいが,センター・センター方式では文字サイズの1/2の送りを行ったうえで配置しないといけない.文字サイズが異なれば,この送り量も異なる.約物の連続の際の計算でも,両方式での送り量は異なってくる.

ですので,写植モデルの場合は,和文組版では,山本太郎さんにいうように全角という概念をというか,定義が必要になる.これに対し,活版モデルでは,文字の幅さえわかればよいので,必ずしも全角という概念(もちろんアキなどでは必要になるが),ある意味でなくてもよいことになる.

写植モデルでは,文字のボディを考えなくてもよいという利点がありますが,約物連続の際のアキ,あるいは和欧文間のアキといった場合に送り量だけでの説明は,かんり面倒になる,あるいは,基準位置の方式によっては,ある領域の先頭,末尾に配置する際に,ややめんどうな説明が必要になるように思います.

どちらかの方式を選択するか,ケースにより混用するか,なんらかの説明が最初に必要のように思います.

Received on Wednesday, 6 October 2021 04:17:02 UTC