- From: Kobayashi Toshi <binn@k.email.ne.jp>
- Date: Tue, 16 Sep 2025 15:53:26 +0900
- To: JLReq TF 日本語 <public-i18n-japanese@w3.org>
みなさま 小林 敏 です. “第8章 段落への文字の配置の実際”の草稿をお送りいたします.ご検討よろしくお願いいたします.GitHubにも掲載しておきました. ----------以下が草稿----------- # 8 段落への文字の配置の実際 ここでは,主に段落のそろえ,段落の区切りの示し方,行長と行間について解説する. ## 8.1 段落のそろえ 段落のそろえとしては,次がある. - 行頭・行末そろえ(justification) - 行頭そろえ - 中央そろえ - 行末そろえ - 千鳥組 日本語組版では,行長を字幅の整数倍に設定し,特に縦組では多くの行で,行の過不足は発生しないということもあり,通常は行頭・行末そろえ(justification)を選択していた. しかし,ラテン文字やアラビア数字の使用が多い場合など,行の調整処理が多く発生するすることがある.この極端な調整を避けるために行頭そろえの選択が考えれよう.また,分かち書きなどでも行頭そろえが選択されている例がある. また,プロポーショナルな文字の配意を選んだ場合,行頭・行末そろえ(justification)を選択すると行の調整処理がでる行が出ることがある.せっかく字間の調整を行ったのであるから,その字間の調整をくずさないように,行頭そろえの選択が考えれる. なお,行の調整処理は“〓〓〓”で解説している. ## 8.2 段落の示し方 段落は,1つ又は複数の文をまとめ,意味のまとまりを示す.そこで,読んでいく際に段落としてのまとまりが分かるように区切りを示す必要がある. 段落の区切りを場合,以下の3つの方法がある. - 段落ごとに行を改め(改行),さらに段落先頭行の行頭を全幅の1倍下げる. - 段落ごとに行を改め(改行),さらに段落の間を,その段落の行間より広げる.選択が簡単であることから1行アキとする方法をよく見かけるが,デジタルテキストでは,必ずしも1行アキとする必要はない. - 段落ごとに行を改めないで(改行しいで),段落の間に記号を挿入する.一般に“/”(U+FF0F)に使用している例が多い.引用する際などに使用されている. 注 1行アキとは,ドキュメントの先頭・末尾を除き,行間を次の大きさにすることである. 文字サイズ(行送り方向のボディのサイズ)+行間×2 注 段落先頭行の行頭を全幅下げる方法として,行頭に和字間隔(U+3000)を入力する方法があるが,テキストの扱いとして問題が発生するケースもあり,書式の選択で行う方が望ましく,和字間隔(U+3000)を入力する方法は避けた方がよい. なお,段落先頭行の行頭を全角下ガリとする方針であっても,段落先頭行の行頭を全角下ガリとしない次のような例がある. - 英語にならって,ドキュメントの先頭及び見出し直後の段落に限り字下げしない. - 独立した段落としての引用や数式・化学式の直後に配置される段落の先頭行の行頭は字下げしない.前の引用や数式・化学式を改行して“とあり……”,“となり……”のように文を続ける場合,文は続いているという解釈で字下げしない.ただし,引用の場合は改行であるとして,全角下ガリとする方法も行われている. ### 8.3 段落の間を広げる方法 段落の区切りを示す,あるいは見出しを立てないで,内容の区切りを示すために段落の間を広げる場合がある.次の2つの方法がある. - 1行分を確保する(1行アキ)にする. - 段落の間の大きさを指示する. 1行アキは,処理が簡単であり,利用されている.また,段落の間を大きさで指示する機能がないアプリケーションで利用されている. 注 書籍などでは行送り方向の幅もそろえていた.そこで,段落の間を大きさを指示する方法の場合,行の調整処理と似た,行送り方向の幅の調整処理が必要になる.しかし,行を単位に空けると過不足がでないことから1行アキが選択されていた.デジタルテキストでは,段組など隣の段の行位置とそろえたい場合などを除き,その必要はない.なお,行送り方向の幅の調整処理は,活字組版のような手作業では可能であるが,コンピュータ組版での自動処理は,困難な課題であるようだ.行送り方向の幅の調整処理は,通常は空ける処理だけなので,一定の幅にそろえるために,空けてよい箇所に,幅の調整処理のために空けてよいという指示ができるとよい. 段落の行間より広げる場合は,行間などとのバランスを考慮し,例えば,次のようにするとよい. - 行間の2倍にする - 行間に文字サイズを追加する - 1行アキの半分にする 注 1行アキの半分にする 1行アキの半分にするにするとは,ドキュメントの先頭を除き,行間を次の広さにすることである. 行間+(文字サイズ+行間)/2 段落の間を広げて,内容の区切りを示す方法では,1行アキまたは2行アキにしている例が多い.段落の間を広げて,段落の区切りを示す場合は,2行アキまたは3行アキにするとよい.なお,この部分にアステリスクなどの記号を入れる方法もある. ## 8.4 段落の行長 ### 8.4.1 行長を示す方法 行長を示す方法としては,次の2つがある. - 1 そこに使用する文字サイスの全幅の整数倍に設定する.つまり,行長を1行に配置する文字数で決める.この方法では行長を何字詰めという字数で形式で示すことが多い.以下でも字詰め数(字数)で説明する.なお,行長は,次の計算による. 行長=文字サイズ×字詰め数 注 行長を全幅の整数倍に設定するのは,行の調整処理がでないようにするためである. - 2 そこに使用する文字サイズに関係ない単位で設定する. ### 8.4.2 望ましい行長 デジタルテキストでは,行長を固定して表示する方法と,ウィンドウサイズなどに応じて可変とする方法がある. いずれにしても,行長は読みやすさに影響する.極端に短い行長は,行末から行頭への移動回数が多くなり,また,単語が分割されることが多くなり,読みやすさが損なわれる.また,極端に長い行長は,行末から行頭に移動する距離が長くなり,また,行の途中で読みとどまるケースも増える.このように読みとどまる際には,位置があいまいになり,読みやすさを損なう恐れがある. その文書の目的,デザイン上の工夫で行長は変わってくる.ここでは,最短の字詰め数と最長の字詰め数について,簡単に触れておく. - 1 最短の字詰め数 新聞では11字,あるいは12字としている例がある.書籍では,図版等を配置する際に図版等の字詰め方向のサイズにより,縦組では図版等の天地,横組では図版等の左右に文字を配置することがある(回り込みという).この回り込みの字数が10字以下の場合は,回り込みを行わないで空けておく方がよいと言われている. こうした事情から考えると,最短の字詰め数は,10字前後となろう. - 2 最長の字詰め数 最長の字詰め数については,デジタルテキストでは,よくわからない事項であり,今後の課題である.ただし,書籍等と大きくは異ならないとも考えられるので,ここでは書籍でよく見掛ける例を示す. - A5,縦組1段組:52字くらい(主に専門書) - B6,縦組1段組:40字から43字くらい(小説など) - A5,縦組2段組:25字くらい - A5,横組1段組:35字くらい - B5,横組2段組:22字くらい こうした例を見ると50字くらいまでは考えられるが,こうした例は専門書であり,小説などでは40字くらいで,小説で52字とする例は少ない(小説をA5で刊行する場合,文字サイズを大きくして,字詰め数を少なくしている).横組でも,読みやすいのは30字から35字くらいであるともいわれていた. 注 書籍の仕上りサイズは以下である. - A5 横:148 mm,縦:210 mm - B6 横:128 mm,縦:182 mm - B5 横:182 mm,縦:257 mm ただし,実際に刊行されている小説はB6ではなく,四六判(縦がB6より6mmほど大きい)が採用されている例が多い. こうした事情を考慮すれば,最長の字詰め数は50字も考えられるが,40字くらであると考えた方がよいであろう.特に横組では,35字程度,多くても40字程度に止めておいた方がよいであろう. 行長が可変の場合,ある行長を超えた場合は段組にするといった方法も考えられる. ## 8.5 段落の行間 ### 8.5.1 行間の設定 字詰め方向の字間は,通常は文字のボディを密着させて配置していく,あるいは文字サイズと同じ字送り量で配置していけばよい.これに対し,行送り方向の行間は,そのドキュメントの目的,内容,表示の方法,さらに読者などにより異なってくる.それぞれのドキュメントに応じて,何らかの値を設定しないといけない.また,行間の大きさは読みやすさに大きく影響する.ここでは,どのような行間は望ましいのか,まとめてみた. なお,ラテン文字には,デッセンダーとアッセンダーがあるが,日本語組版に使用する漢字や仮名にはデッセンダーもアッセンダーはない.したがって,ラテン文字を主にしたテキストと漢字や仮名を主にしたテキストでは,行間は大きく異なる.ラテン文字を主にしたものに比べ,日本語組版では行間を広くとる必要がある.さらに,行間の選択の幅も大きい.全幅の1倍から1/4の範囲で設定する例が多い. 注 行間をゼロ ラテン文字を主にしたテキストでは,行間をゼロにすることも可能である.これに対し,漢字や仮名を主にしたテキストでは,行間をゼロにするケースは,2行で示す文中に挿入される割注など,その例は限られている. ### 8.5.2 行の配置を示す3つの方法 行送り方向の行の配置を示す主な方法としては,次の3つがある. - 行間の大きさで示す.行間とは,ある行と隣の行に配置するの文字のボディの行送り方向の間隔である(図〓参照).この方式では,基本として文字を正立した場合の文字の外枠の天地のサイズ(文字の高さ,横組の場合),左右のサイズ(文字の幅,縦組の場合)の情報が各文字に必要になる.これらのサイズは,通常は文字サイズに該当する. - 行送りの大きさで示す.行送りとは,ある行の文字の基準点から隣接する行の文字の基準点までの行送り方向の距離である(図〓参照).なお,基準点はフォントによるが,横組では,ベースラインの位置,縦組で左右中央が多い(これでOKか?). - 行高(line height)で示す.行高とは,行を配置するための一定領域(行高)を設定し,その領域の指定した位置に行を配置する(図〓参照).一般に,行は領域の中央に配置する. その他に配置面にグリッドを設定し,そのグリッドにそって行を配置する方法もある. 行に配置する文字の行送り方向のサイズが,すべて同じサイズの場合,3つは以下の関係がある. 行間=行送り-行送り方向の文字の幅=行高-行送り方向の文字のサイズ 以下では,主として行間で説明を行う. ### 7.5.3 段落内の行の配置は一定にする 特別な事情がない限り,読みやすをそこなわないように,1つの段落内の行の配置は一定にする.段落の区切りとして段落間の行間を大きくする場合や,段落の途中に文字サイズを小さくした注などを挿入する場合を除き,通常,同一のテキストでは,段落間の行間も段落の行間と同じにする. 行中にサイズの小さい,あるいは大きい文字やインライングラフィックが挿入される場合の処理が問題になる.次のようにする.. - 行間の場合:その段落で設定している文字サイズを基準とする.したがって,小さき文字サイズの箇所の見た目の行間は広くなり,大きな文字サイズの箇所の見た目の行間は狭くなる.また,ルビや圏点など行間につく要素も無視する.この箇所の見た目の行間は狭くなる(図〓参照). - 行送りの場合:同一の行送りで行を配置していく.結果は行間の場合と同じになる. - 行高の場合:同一の行高で行を配置していく.ただし,ルビや圏点がついた場合でも,文字サイズが変わった場合にも,その段落で設定している文字サイズを基準にし,その文字を領域内の中央に配置する.結果は行間の場合と同じになる. なお,行中に異なるサイズの文字などを挿入する場合,通常は,行送り方向の中心をそろえて配置する.インライングラフィックでは,どちらかに寄せる方法もある. 注 活字組版では,本文が9ポイントで,括弧書きを8ポイントとする例が多かった.この場合,縦組では,8ポイントの部分を右に寄せ,右そろえにし,横組では,8ポイントの部分を下に寄せ,下そろえにしていた.これは,組版材料の問題によるものである. ### 8.5.4 異なった行間の段落が挿入される場合の処理 段落の途中に注や引用文について,文字サイズや行間を替えて挿入する方法がある.この場合,前述したように書籍などでは行の配置位置に乱れないようにしていた.一般に,注など前に配置する段落の行間は,通常の行間にし,注など後ろに配置する段落の行間を広げて調整し,後ろに配置する段落が所定の位置に配置できるようしていた. デジタルテキストでは,通常は行位置をそろえる必要はないので,注などの前後に配置する段落との行間は同じ行間とし,通常の行間または,すこし広げて選択した行間にすればよい.ただし,段組などで,隣の段との行位置をそろえる必要がある場合は,書籍などの行位置をそろえる方法によることになる. 段落の途中に回り込みをしないで図版や表を挿入する場合も,同様に考えていけばよい.図版や表の前後の段落とのアキを選択し,設定し図版や表を挿入する.この場合,図版や表の直後の段落が所定に行位置に配置されなくても,デジタルテキストでは問題はない.ただし,所定に位置に配置する必要がある場合は,前及び後の段落とのアキを均等に広げる.なお,図版や表の前後の段落とのアキは選択によるが,その最小のアキは,そこで使用されている文字サイズとする,とよい. ### 8.5.5 行間を決める際に考慮する事項 行間は決める際には,以下のような事項を考慮するとよい. - 1行の行長:行長が短い場合は,読んでいく際に,行末から行頭に移動する距離が短く,また,途中で読みとどまるケースも少ないので,ある程度は行間は狭くできる.これに対し行長が長い場合は,読んでいく際に,行末から行頭に移動する距離が長くなり,また,途中で読みとどまるケースの頻度も増え,読んでいる箇所でとまどいがでないように(隣の行との行間が狭いと,隣の行に視線がいくケースもある),ある程度は行間を広くしておく必要がある. - 使用するフォントの字面の大きさ:文字の字面のボディに対する平均的な大きさはフォントにより異なる.ボディ一杯にデザインされているフォントもあれば,いくらか余白をもったフォントもある.字面の大きいフォントの場合は,通常は行間を広くするが,視覚的な字間は狭くなるので,それとのバランスを考慮すると,ある程度は狭めることも可能になる. - 字間を詰めて配置した場合,行間はいくらか狭める処理が可能になる.逆に字間を空ければ,行間も広くする必要がある. - そのテキストの長さはどれくらいか.特に長いテキストで,読むことを重視するのであれば,読みやすさを第一に考慮しないといけない.短いテキストであれば,多少の読みにくさは問題にならない場合もあり,ある程度は行間を狭めてよい. 注 短い文章の行間 短い文章は,短時間で読んでしまえるので,少々のことは我慢できる.辞典などでは,小さい文字サイズを使用し,行間も狭くする例が多いが,読むことは可能である.読みやすさの評価は,一度に読む文章の量も影響する. - 表示する文章の量:一つの画面で一度に見えるように,ある程度のまとまった量を表示する必要がある場合がある.読んでいる箇所の前又は後ろにある程度のテキストを表示した方がよいケースもある.この場合は,文字サイズの調整と合せて行間でも調整できる. - 複数行になる見出し,複数行になる図版のキャプションなど,そのテキストがまとまりとして読まれるものがある.こうしたテキストでは,ある程度は行間を狭くした方が一体性を保つことができる. 注 表のヘッダーなど 表のヘッダーなど,一部のテキストだけ長く,複数行になり,他とのバランスを壊す場合,2行程度であれば,行間をゼロにしてよい. - 表示する文字サイズ:表示される際の文字サイズは,どのくらいか.表示される文字サイズが大きくなれば,ある程度は行間は狭めることができる. - 行中や行間に配置される要素:行中に,その段落に適用されている文字サイズより大きな文字やその他,行間に配置するルビや注番号といった要素が入っていないか.こうした要素がある場合,前後の行と重ならないように,行間を決める必要がある. - 予想される読者:読者によっては,広い行間を求める人もいるので,こうしたことを考慮して,行間を決める必要がある.また,アクセシビリティへの対応として,特別に広い読者もいるので,読者が行間を変更できる仕組みが必要になる. ### 8.5.6 行間の選択例 使用している文字のサイズ又は行送り方向の文字のボディの大きさを基準に,その1/2をスタートに行間を選択する方法を次に紹介しておこう. - 行長が,ある程度長い場合,行間を広げる必要がある.文字のサイズ又は行送り方向のボディのサイズの1/2より,さらに広げる.特別な事情がない限りは,最大でも1倍程度であろう. - 行長が短い場合でも,通常は1/2程度に止めておく. - スペースに限界がある,キャプションや見出しのように,そのテキストがブロック(固まり)として認識されるとよい,といったケースでは,文字のサイズ又は行送り方向の文字のボディのサイズの1/3,あるいは1/4にするとよい. ### 8.5.7 段落内の行間の変更 前述したように段落内の行間は一定にする必要があるが,行中に大きな文字サイズの文字・インライングラフィック,水平線のあるやぐら組の分数を挿入する,あるいはルビ等が付く場合,隣の行に掛かるケースもある.この場合は行間を広げる必要がある.行間を広げる方法としては2つある. - 隣接する行の文字,ルビや圏点が重なならないように該当する行間だけを空ける. > 該当する行間だけ空ける例 - 該当する行の行ドリを2行ドリ又は3行ドリにする. > 該当する行2行ドリにした例 なお,行ドリとは,その段落で設定されている文字サイズおよび行間で,複数の行を行送り方向の領域とする方法である.文字サイズを10ポイント,行間を8ポイントとすると,以下のようになる.いずれも,行ドリをする行が段落の途中にある場合である. - 2行ドリの領域の大きさ 8+10+8+10+8=44ポイント この場合,隣接する行との行間は,以下の計算からそれぞれ17ポイントとなる. - 2行ドリの場合の行間 (44-10)/2=17ポイント 領域の先頭または末尾に行ドリをする行が配置される場合,先頭または末尾の行間の8ポイントがなくなることに注意が必要である. > これ図解をする. 行ドリの方法は,行間を変更した行に隣接する行が,段落で指定した所定の位置に戻るので,段組など,行位置に乱れが出ないようにする場合に採用できる方法である.しかし,必要でない行間があいてしまうという問題がある. なお,見出しなどの配置領域を設定する場合,行単位での設定が簡単であり,行ドリの設定が行われている.この場合,見出しを行ドリの中央に配置する方法と,行ドリ内に選択した(指定して)位置に配置する方法がある.
Received on Tuesday, 16 September 2025 06:54:09 UTC