RE: 全角という用語の使用状況

コメントします。



> 基本は,デザインの問題です.たぶん,文字の外枠が文字サイズである,現在使用されているのパーレンのデザインの話です.ですけれでも,形が異なれば,“残りの半角が隣接文字とのアキとなる”という従来の方法は,そのままでいいのか,という問題提起です.(ただし,jlreq-dで書くことは考えていません.)



これは、現在では従来の正方形=全角の慣習、およびそれに基づいた書体デザインの慣習との互換性の上で、便宜的に従来の方法を踏襲するのが良いと考えられます。なぜなら、和文におけるプロポーショナルの組版が確立されていないということと、仮名文字以外に関して一般的なプロポーショナル和文組版・純粋なプロポーショナル日本語フォントの事例が極端に少ない現実があるためです。

しかし、逆方向から考えると、従来の方法は必ずしも非合理なわけではないでしょう。なぜなら、役物・括弧類の多くを半角で扱い、その前後のスペースを半角とすることは、全角が正方形のフォントをプロポーショナルフォントの特殊事例として考えれば、その場合でのスペースの字幅が半角で機能していることを意味します。そのため、全角が文字サイズでなくなった時にもその全角の1/2をスペースとして想定することには合理性があると考えます。



>それにしても、長体や扁平体で組んでいるときに、行間は何を基準とするべきなんでしょうか。実装のためには精密に解釈できる必要があります。私のような素人がちょっと考えると、それは文字の行送り方向の幅かなと思いますが、どうでしょう?



行間を指定する基準は、字送り方向に直交する(横組みでは縦方向の)ボディの幅(横組みでは高さ)が基準となるのではないでしょうか。ほとんどの場合、プロポーショナルフォントでも、それは文字サイズと等しくなります。



ただし、何が行間を決定する要因かといえば、それは文字サイズと書体ごとの字面(平均的なBBOX = Bounding Box)の大きさ(およびそれに伴う視覚的な文字の大きさ)と行長になるでしょう。行長が長いほど行間を空ける必要があるのは一般的な傾向です。改行する時に次の行を発見しやすくするためです。和文書体の場合、通常、漢字が全角の内に占有する領域は、書体によって全角の90%から96%程度の範囲にありますが、90%の書体と95%との書体では、同じ文字サイズで組んだ場合に、同じ行長でも、行間の空間は物理的に異なるので、当然、字面の大きな書体の方の行間をより空けることが好ましい場合が多くなるでしょう。ただし、書体デザイン(特に文字の中で画線で囲まれた空白=カウンタースペース=フトコロの大きさ、および画線の太さに起因する濃度)によっても、視覚的な文字の見えの大きさは影響を受けるため、行間の決定にも影響を与えます。



現代の本文用の和文書体の場合(典型的には細明朝体の場合)、行長が30字詰め程度の典型的な横組みの場合には、全角の0.75(二分四分)の行間スペースが多く用いられますが、これは伝統的な明朝体の場合には良いでしょうが、例えば字面の大きな小塚明朝Pr6N Rや新ゴやゴナの細いウェイトを用いた場合には、行間をさらに広げた方が良いでしょう。



欧文の場合、文字サイズ、行長、そして書体デザインに固有のcap. heightとx-heightとカウンタースペースの大きさと画線の太さが行間に影響を与えると考えられます。行間の設定は、書体デザインの属性と行長を含むページレイアウトの属性に依存することは和文と同じですが、欧文書体の場合には、文字の物理的な大きさ自体が、文字サイズの正方形の全角の制約をまったく受けずに書体デザインによって千差万別なため、書体デザインへの依存度はさらに高いと言えます。



行間の設定について、Robert Bringhurstは著書The Elements of Typographic Style, Hartley & Marks, (Vancouver, 1996), p. 37で、次のように書いています。

 Most text requires positive leading. Settings such as 9/11, 10/12, 11/13 and 12/15 are routine. Longer measures need more lead than short ones. Dark faces need more lead than light ones. Large-bodied faces need more lead than smaller-bodied one. Faces like Bauer Bodoni, with substantial color and a rigid vertical axis, need much more lead than faces like Bembo, whose color is light and whose axis is based on the writing hand. And unserifed faces often need more lead (or a shorter line) than their serifed counterparts.
 Extra leading is also generally welcome where the text is thickened by superscripts, subscripts, mathematical expressions, or the frequent use of full capitals. A text in German would ideally have a little more lead than the same text in Latin or French, purely because of the increased frequency of capitals.



和訳すると、次のようになるでしょうか。



 ほとんどの場合、本文は正の行間空き[行間を詰めるのではなく空けるという意味]を必要とする。文字サイズが9 ptで行送りが11 pt、10 ptで12 pt、12 ptで15 ptなどが通例である。行長が長いほど短い行長の場合よりも広い行間空きが必要となる。太い書体ほど細い書体よりも広い行間空きが必要となる。大柄な書体の方が、小柄な書体よりも広い行間空きが必要となる。バウアー・ボドニのような、重厚な調子の剛直な縦画線をもつ書体の方が、ベンボのように軽快な手書きの書風に基づいた書体よりも広い行間空きを要する。そして、セリフのない書体もまたしばしば、セリフ付きの書体よりも広い行間空き(あるいは短い行長)を必要とする。

本文のなかで上付・下付文字や数式が使われたり、大文字だけの語句が多用されたりする場合には、さらに広い行間空きが必要となる。理想的には、純粋に大文字の出現頻度が高いという理由から、ドイツ語の文章は同じ文章がラテン語やフランス語で書かれた場合よりも行間空きを少し広めにした方が良いであろう。



参考まで。



山本太郎

Received on Thursday, 11 July 2024 07:09:18 UTC