- From: Kobayashi Toshi <binn@k.email.ne.jp>
- Date: Sat, 27 Jan 2024 13:46:46 +0900
- To: 小林龍生 <tlk@kobysh.com>, JLReq TF 日本語 <public-i18n-japanese@w3.org>
小林龍生 様 木田泰夫 様 みなさま 小林 敏 です. 小林龍生 さんwrote >先日の手書きとデジタル書きの違い。簡単にまとめてみました。 いくつか気が付いた事項をコメントしておきます. 1 手書き原稿では,原稿の段階での点検(原稿編集,原稿指定)と指定,組版の段階での選択,校正の段階での点検と3つの点検過程がありました.しかし,デジタルテキストでは,この3段階の点検を行う場合もありますが,それが標準かといえば,そうでない例もあります.こまかい事項でいえば,次のような違いもあります. 1.1 活字組版では,文選又は植字の段階で,ある意味で文字が読まれており,点検作業も行われていたのですが,デジタルテキストでは,作成されたテキストデータがそのまま組版で使用され,活字組版における組版段階での点検は期待できません.) 1.2 手書き原稿とデジタルテキストでの原稿編集作業では,いくらかの違いがある.手書き原稿でのある意味での読みにくさが,1字1字の点検を丁寧に行うことにつながる.デジタルテキストでは,読みやすいので,1字1字の点検というよりは,意味内容の点検が主になる.中国の校正作業では,“正否の点検”か“是非の点検”か,という仕事の分けかたがあるが,これにならえば,手書き原稿では“正否の点検”が,デジタルテキストでは“是非の点検”が行われがちといえるかもしれない. 2 この3つの点検の段階で,一般的な誤りや疑問箇所の整理以外に,以下のようなデジタルテキストでは,一般に予想されない処理があります. 2.1 手書きでの原稿は,文字又は記号としてはあいまいさを含んでいます.そのあいまいさは文字組版の専門家により点検され,標準的なものが選択されていく.デジタルテキストのように文字コードで文字又は記号が確定するようにはならない例がありますが.これらは文字組版の専門家により標準的なものが選択されていくようになるということです. 例1 “桧”と書かれていれば,一般にゲラでは“檜”,“斗争”と書かれていれば,ゲラでは“闘争”となることが多い.これは,前述のいずれかの過程で選択されます.つまり漢字の手書きの略字が書かれていれば,標準的な漢字の字体に直されます.丁寧な原稿編集が行われれば,その段階で直され,それがなくても,組版段階で直され,それに漏れても,校正段階で指摘されるでしょう.デジタルテキストでは,入力された文字が“斗争”のように文字コードが存在すれば,校正で修正がない限り,そのまま使用される可能性があります. 注 最近は,あまり見掛けない(でもたまに見掛ける)が,初期のデジタルテキストの段階では“ー”(U+2015)と“—”(U+2014)と相互の混用が,よくありました.手書き原稿では,この2つの区別はつきませんが,文脈から判断され,3つの点検作業で正された(活字組版では,見落としはあり,この誤植もゼロではなかったが).これは手書きでデジタルテキストとの違いからきたものでしょう. 例2 “〇”(漢数字のゼロ,U+3007)と“○”(記号のマル,U+25CB)は,この文字1字だけの場合,手書きでは区別が難しいでしょう.しかし,文脈から判断でき,前記の3つの点検過程で正しいものが使用されていた(ただ,見逃しもごくたまにあった).デジタルテキストでは,入力が間違えれば,そのまま使用される可能性がある.つまり,似た記号や文字の誤りの出現の原因は異なっているともいえる. 例3 句読点は手書き原稿ではあいまいです.縦組では,何も指示がなくてもい“、”と“。”が組版の段階で選択されます.横組では3つの方式があります.そこで,通常は,原稿編集段階で方針が決まり,その方針が原稿に書き込まれ,指示されます.原稿の状態とかかわりなく,その示された方針で句読点は選択されます.デジタルテキストでは,横組の場合,原稿編集段階で整理されない限り,原稿のままになります. 注 その結果,現在の横組では“、”と“。”で原稿が使用され(仮名漢字変換ソフトのデフォルトが“、”と“。”であり,そのまま使用するものが多い),原稿編集段階で整理されない限り,そのまま使用されます.そこで,横組で“,”と“.”を使用するのは誤りと考える人も増えています. 3 手書きでは,どんな文字記号も指示できます.しかしデジタルテキストでは入力しないといけないので,似た記号を代わりに入力する方法がとられる場合があり,それが,見逃される,あるいは許容されるといった例がある. 例1 “–”(U+2013,EN DASH)は,JIS X 0208に含まれていなかったので,入力できなかった.“-”(U+002D)で代用するか,別の工夫をしていた. 例2 “いわゆる拡張新字体”しか使用できなく(“嘘”と“噓”,“繋”と“繫”,“蝉”と“蟬”など),それを許容する例が多かった. 注 “いわゆる拡張新字体”は,活字組版時代にも使用されていた.しかし,それは避けるのがよいという考え方もあり,前述の3つの点検過程で標準的な字体に直されていたので,その使用は多くはなかった.最近は,“いわゆる拡張新字体”ではなく標準的に漢字の字体を使用できる環境にありながら,その使用がそれなりにあるので,デジタルテキストと手書き原稿の作業の違いが1つの原因となっていると思われる.(ちなみに,私は読んで本について“いわゆる拡張新字体”の使用状況をメモしているが,今年1月,これまでに読んだ43冊のうち,“いわゆる拡張新字体”を使用している本は16冊あった.) 4 手書き原稿とデジタルテキストとの違いというわけではないが,多少は関係していると思われる事項で約物の使い方の問題がある.以下,いくつか示したおく. 4.1 波形(~,U+FF5E)とダーシ(—,U+2014) 二一から二五日を示す場合,二一~二五日,二一—二五日と2つの方法がある.今日は,ほとんど“~”で“—”は減っている.かつては“—”が多かった.最近はアラビア数字でも“~”の使用が多い.さすが索引では“–”(U+2013)がほとんどだが,本文では“~”が一般的でる.これも専門家の点検・整理が行われる手書きとデジタルテキストとの違いもある程度は影響していると思われる.つまり,表記方法は変わるものであり,誤用,表記の揺れ,何が標準かは,簡単にいえない問題でもある.かつては,範囲を示す“~”は誤用であるとの考え方もあったが,今は範囲を示す“~”は標準になったともいえる. 4.2 “……”(3点リーダ,U+2026)と“・・・”(中点,U+30FB) 文章の省略を示す場合,かつては“……”しか使用していなかった.最近は,中点を使用した例も見掛ける.“……”は,やや入力が面倒であり,デジタルテキストでは見た目に似た“・・・”が使用され,それがそのまま使用されているということであろう.これは誤用か,あるいは表記の揺れか,という判断はむつかしい.この使用が多くなれば,誤用とはいいきれなくなるかもしれない. 4.3 “–”(U+2013,EN DASH)と“-”(U+002D) “–”(U+2013,EN DASH)は,アラビア数字で範囲を示す場合に使用される.ただ,これは前述したように入力できない時代もあった.最近は入力がやや簡単になったとはいえ,面倒でもあり,“-”(U+002D)で代用されるデジタルテキストは多いでしょう.これは,誤用か,許容できるか.日本語で英語の表記を解説したある本でも,この2つは,“どっちでもよい”と書いた本があったので,許容される傾向にありつつあるのかな,その一歩手前かなということです. 4.4 “<>”(山括弧,U+003C,U+003E)と“<>”(数学記号U+FF1C,U+FF1E) 山括弧として数学記号を使用する例がある.これは誤用か.この使用法を主に見掛けるのは新聞である.それは,新聞では1行の字詰め数が少なく,できるだけ行の調整処理を避けたいということが影響しての判断と思われる.そのような使用目的から考えると,この使用を勧めるわけではないが,誤用とはいいきれないかもしれない. 4.5 ー(音引,U+2015)と~波形(波形,U+FF5E) コミック(ス)での使用が多いが,これはどう考えたらよいか.ある意味で表現の工夫であり,その使用が増えており,一般的であるならば,これは,そういうものだと考えるしかないように思える. 以上です.
Received on Saturday, 27 January 2024 04:47:28 UTC