- From: Taro Yamamoto <tyamamot@adobe.com>
- Date: Wed, 4 Oct 2023 02:22:26 +0000
- To: 木田泰夫 <kida@mac.com>, JLReq TF 日本語 <public-i18n-japanese@w3.org>
- Message-ID: <DM8PR02MB8070E59CDB6D73796DC33171CECBA@DM8PR02MB8070.namprd02.prod.outlook.com>
木田さん * ここですが、「古活字版」を検索してみると、確かに嵯峨本のようなプロポーショナルなものもありますが、明らかに等幅のものもありますので、西洋式の活版印刷術が等幅の始まり、とは言えないのではないでしょうか? * ですが、以前「台頭」の話題で田嶋さんが送っていただいたリンクの例など、「科挙の答案」を画像検索してみると、枠なしで等幅進行です。下の例でも、特に幅の大きい/小さい字が出てくるとそこで少々乱れますが、原則は等幅進行といえましょう。 手書きの文字があったところから木活字が発明され、同様に金属活字が発明されました。ですから、たしかに、手書きの時代に「文字数を揃えて書くこと」、「できるだけ均整に文字の大小を均等にして書く」という意識が、特に楷書などの書法の場合にはあったとことは自然なことです。その意識は活字とは無関係に、活字の発明以前からあったに違いありません。そうでないと、引用された図版の例で示されているような書は書けません。 それは、ある意味で文字の形の「定型化」に対する意識だと考えらえますが(書法の確立も含めて)、文字の形の定型化ということそのものは、むしろ西洋式の金属活字の発明において、母型→活字という活字鋳造の技術が発明された時点で、技術的に可能となりました。それによって、日本語は縦組みも横組みも効率的に行えるようになりました。しかしここで西洋式の活字鋳造技術が達成した「定型化」においては、手書きの文字における「定型的に書く」や木活字を使えば「定型的な文字が刷れる」というものとは別次元の正確さが実現されただけでなく、定型化された文字を大量に複製することを可能にしました。しかもその技術は500年以上にわたって発展していったのです。 楷書の文書などが「等幅」に見えるのは、それらが寸法的に精密に等幅であるためではありません。そこで目指された「等幅」は、正方形の活字ボディがもつ「等幅」とは異質のものだったと言えないでしょうか。たしかに、端正に、均整に、均等に、丁寧に、厳正さをもって書くことが意識されたでしょうが、それは、我々がデジタル文書で用いるフォントがプロポーショナルであるとか等幅であるとかを議論している意味と、連続しているでしょうか? 実際、引用された下の図版で、漢数字の「一」はかなり字幅に変化があります。「一」と同様に「以」などはかなり字幅を狭く書けますが、画数の多い文字「嚴」や縦に長い「舉」、「學」などの文字は、それらのようには融通を利かせて字幅を圧縮することはできないでしょう。では、なぜ、「一」や「以」の場合、字幅を変化させているのでしょうか。おそらくここに働いているのは、個々の文字の占有領域の幅=字幅を均等にしようということ以上に、一行に決められた文字数を正確に収容しなければならない、という意識ではないでしょうか。すなわちここには暗黙の格子が存在しているのです。もちろん、各文字の大きさの変化を一定以下に抑制することは必要ですが、そのことが必ずしも最優先の課題ではなかったのではないでしょうか。だから、実際に「一」の周りのスペースは、それぞれの行に等しい文字数を収めるための調整箇所として利用されているのではないでしょうか。ここに見えている、「均整さ」や「端正さ」、「均質性」が、直接、我々が考えて議論している「等幅」とは異質なものではないかと、私は考えるのですが。 他方で、「均整さ」や「端正さ」を求める意識が働くのであれば、楷書を書く場合には、暗黙であれ明示的であれ、格子に沿って書こうとするはずです。そのことで、文字はある程度は「等幅」になるはずです。しかし、そのことは、活字の製造と組版が効率的に行え、横組みにも縦組みにも対応できる、だから漢字や仮名はすべて全角のボディの範囲内に文字をデザインしているのだ、という状況とは異なるでしょう。後者の場合の制約は、あきらかにタイポグラフィ(西洋式の活字鋳造と組版)の技術に全面的に依存していると考えられませんか。 山本 [cid:image001.jpg@01D9F6AE.5698B0D0]
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Received on Wednesday, 4 October 2023 02:22:37 UTC