RE: web における和欧間スペース

各位、

和欧間のスペースについては、Nat McCullyが書いていたこととおおむね同意見ですが、私の考えを下記に述べます。

1. 欧文のワードスペース(0x0020)と和欧間のスペースとは、別の物です。ワードスペースの幅は、ragged rightで組んだ場合にはっきりと分かるように、組版が行われる以前の段階で、書体デザインの属性(x-heightやcap-height、condensedやexpandedなどの書体全体にわたる字幅の特性、モノスペースかプロポーショナルか、イタリック体/スラントかローマンか、スクリプト書体か、画線の太さ、等々)に大きく依存して書体がデザインされる時点で決定されます。
 その上で、組版が行われる時点では、印字サイズ、raggedかjustifiedか、本文か見出しか、広告やパンフレットの場合などでタイトに組むことが望まれているか、などの組版時点の要因によって、調整する必要があります。justifiedされる場合には、その影響を大きく受けます。
(私の記憶では、JIS X 4051では、ワードスペースの典型的な幅を1/3 EMとしていたと思いますが、上に述べたことから明らかなように、このような一般化には無理があり。しかも、1/3 EMという値自体も不適切です。一時期のThe Chicago Manual of Styleは、ワードスペースの標準値を1/3 EMとしていましたが、実はそれが書かれていた個所には、往々にしてjustificationの結果としてワードスペースが広がる傾向があるので、その場合でも1/3 EMほどに収めるのが良いが、現代においては、より狭いワードスペースが好まれる、ということが書いてありました。その部分を読み飛ばしてはいけなかったのです。
 では1/3 という数字はどこから来たのでしょうか、おそらくこれは、19世紀の活版時代の風習がそのまま継承されたのだと推測します。だから、The Chicago Manual of Styleも、一方では1/3 EMと書きつつも、現代においてはより狭いワードスペースが好まれていることを追記せざるを得なかったのかもしれません。これに懲りたのか、以後のバージョンでは、The Chicago Manual of Styleはワードスペースに特定の標準値を示さなくなったようです。
 ちなみに、1940年代にJan Tschicholdが決めたPenguin Booksの組版規則では、1/4 EMをワードスペースの標準値とし、1992年に初版が出た、Robert BringhurstのThe Elements of Typographic Styleも1/4 EMを標準値としています。(これらが1/4 EMというより狭いワードスペースを標準としたことには、おそらく19世紀末から20世紀前半の、ルネサンス期の初期印刷物を尊重する伝統主義の台頭の影響ではないかと推測します。とはいえ、それらはあくまで標準値であって、最適なワードスペースは、個別特殊の書体デザインと、さらにその後の組版時点においても調整されるべきものであることは上で述べたとおりです。)
 とはいえ、ワードスペースと和欧間のスペースは別物なのですから、ワードスペースを和欧間のスペースの代わりに用いるべきではありません。現在、そういうことが行われているのは、和欧間のスペーシングを行わないソフトウェアを、本来適切に組版される必要のある目的で使用しているからで、それは誤用でしょう。(反対に、テキストエディターのようなソフトウェアの場合では、逆に組版してくれない方が良いでしょう。

2. 和欧間のスペースは、和文と欧文書体の属性に影響を受けるとはいえ、スペーシング自体の操作は、組版段階で、組版ソフトウェアによって行われ、その調整は、組版上の属性を指定することで、やはり組版の段階で行われます。
 見出しなどで大きなサイズで印字する場合には、タイトなスペースが好まれるでしょうし、比較的小さな印字サイズでも、広告やパンフレットの場合などでは、タイトに組むことが望まれる場合も多いはずです。本文では1/4 EMが標準とされていますが、小林さんが書かれていたように、それ以上は広くならない方が良いと思います。
 適切に組版することが望まれる用途では、和欧間のスペースは必ず組版ソフトウェアによって行われる必要があると思います。

以上、私の考えを述べました。参考まで。

山本太郎
アドビ

Received on Tuesday, 28 June 2022 12:17:50 UTC