Re: [jlreq-d] メモ5 文字を行に配置する処理 (#6)

●●2.日本語組版の基本 メモその5
 ―文字の行への配置

行頭の●などは見出しのレベルを示す
行頭の“*”の記号のあるものは注である.

■2.5 文字を行に配置する処理

●2.5.1 文字を行に配置する処理の問題点

文字を行に配置する場合,以下のような事項を決める必要がある.
1 前後する文字の字間(字詰め方向の文字と文字の間隔).
 日本語組版ではベタ組を原則とするが,その他の処理方法もある.
2 行の先頭または末尾の文字の配置方法.
 通常は,文字の外枠の先頭または末尾を文字を配置する領域の先端または末端にそろえる.しかし,括弧類や句読点などでは,いくつかの配置方法がある.

*日本語組版,特に本文の組版では,配置する文字列の行頭及び行末をそろえる行頭・行末そろえ(ジャステファイ)が普通であった.配置する文字列の行頭をそろえる行頭そろえ(行長に不足があれば行末側に確保する)や,配置する文字列の行末をそろえる行末そろえ(行長に不足があれば行頭側に確保する),配置する文字列の中心をそろえる中央そろえ(行長に不足があれば行頭側及び行末側に均等に確保する)は,特別の場合を除いて採用されていなかった.それは,文字の外枠が全角であり,また文字単位で行の分割を行う日本語組版では,行長の過不足の発生するケースは多くはなく,発生してもわずかなケースが多かったことが理由であろう.なお,視覚障碍者等のことを考慮し,アクセスビリティを向上させるために単語又は文節で文字間を分割する方法も考えられる.この場合は,行のそろえについては行頭そろえが選択される.今後は行頭そろえの方法の採用も増えていくと考えれる.

3 行に文字を配置する場合の行送り方向の配置位置.
 同じ文字サイズで特別な処理を必要としないのであれば問題とならないが,異なる文字サイズの場合に問題となる.一般には,文字の外枠の中心をそろえる.

*活字組版の時代には,本文9ポイントに対し,括弧書きを8ポイントするする例があった.この場合,文字の外枠の中心をそろえるためには,0.5ポイントのインテルを必要とした.通常は印刷所ではこの幅のインテルを常備していなかったので,縦組では文字の外枠の右側をそろえる方法(右寄せにする),横組では文字の外枠の下側をそろえる方法(下寄せにする)を採用していた.

*ラテン文字の行送り方向の配置位置は,文字の外枠の中心を揃える方法が原則であったが,手動写真植字やコンピュータ組版では,行送り方向の位置を比較的簡単に指示できることから,位置を調整する方法も行われていた.

4 定められた行長を超える場合,文字間のどこで分割してよいか.
 どこで分割可能か,どの箇所が禁止となるかは,組版の現場ではほぼ共通の理解があったが,ケースによっては判断が異なるケースもあった.

*文字間での分割の問題は,どの文字・記号について行頭または行末への配置を禁止するかのルールとして一般には考えられていた.行頭禁則,行末禁則という.

*文字間での分割問題の詳細は,JLReqで解説している.なお,ルビ処理は,JLReqとは異なる方法を“〓〓〓(案)”で解説している.

5 ベタ組を原則とする場合,行長は文字サイズの整数倍で設定する.行中に異なる文字サイズの文字等が配置されると,行長と実際の文字列の長さで過不足が発生する例がある.この過不足は,行の適当な箇所を空けるなり,詰めるなりの処理を行う(行の調整処理).どこを空けるか,どこを詰める,また優先順位の処理方針を決める必要がある.

*行の調整処理が問題となるのは,行頭・行末そろえ(ジャステファイ)の場合である.なお,行頭・行末そろえ以外でも,段落の末尾行でわずかな行頭の過不足があった場合は,行の調整処理を行うことも考えられる.

*行の調整処理の詳細は,詳細は,JLReqで解説している.なお,ルビ処理は,JLReqとは異なる方法を“〓〓〓(案)”で解説している.

6 文字列の強調のための圏点・下線,あるいは添え字やルビを付ける場合など,その他の指定も必要になる.

*日本語組版における強調の方法は次に示すようにいくつかある.それぞれの方法と強調の意味や強さの関係は,ニュアンスの差は多少はあるものの,慣行としては確立されているとはいえない.
—括弧でくくる(山かっこ,かぎ括弧等)
—書体を変える(ゴシック体,明朝体の太字等)
—文字サイズを大きくする
—圏点を付ける
—下線・傍線を付ける
—枠線で囲む
—文字に色を付ける
—文字の背景に色を付ける
—字間を空ける
—記号やダーシなどでで囲む など
最も一般的な方法は,対象の文字列をゴシック体にする方法である.いってみれば英文のイタリック体にする方法と似ている.ただし,翻訳書の場合は,原文のイタリック体を,日本語では圏点を付ける形式で示す方法とする例が多い.なお,英文では,ボールド体にする方法もあるが,これは強調の度合いが強く,あまり行われていない.他に英文では,大文字にする,文字の字間を空ける(レタースペーシング)という方法もある.なお,英文にならって,日本語でも斜体にする方法を,たまに見かけるが,この方法は,慣用としてはまだ定着しているとはいえないであろう.
圏点や下線は行間に配置する.ルビや注番号等も行間に配置するので,二重になる場合がある.強調の方法はいくつかの方法があるので,他の方法に変えることで対応できる場合がある

*圏点や下線・傍線,ルビ,添え字等の組版処理の詳細は,JLReqで解説している.なお,ルビ処理は,JLReqとは異なる方法を“ルビの簡便な配置ルール(案)”で解説している.

●2.5.2 ベタ組・詰め組・アキ組

文字を行に配置する場合,前後する文字の字間どうするか.日本語組版では,以下のように分けられる.
1 漢字や仮名など,正方形の文字の外枠を密着させ(ベタ組という),配置していく(いくつか例外の処理がある).
2 1のベタ組より字間を狭めて文字を配置する.この方法では,1の配置に対し,一定の決まった量だけ狭める方法と,文字の字形に応じて狭める方法(字面詰め)とがある.後者の方法は,ラテン文字のそれぞれの異なった字幅に応じて配置する方法に似ている.
3 1のベタ組より字間を広げて文字を配置する.この方法では,1の配置に対し,一定の決まった量だけ空ける方法が一般に行われている.
1の方法は,日本語組版における原則的な配置方法であり,多くの書籍で採用されている.2の方法は雑誌・書籍などの本文組で採用されている例がある.特に2の文字の字形に応じて狭める方法が採用されている例が徐々に増えている.また,大きな文字サイズにする見出しなどでもツメ組の例を見かける.3の方法は,一部の書籍などの本文組で見かける.また,本文はベタ組であるが,見出しや柱,表組のヘッダー等で使われる例がある.

*第2次世界大戦以前,書籍の本文の文字サイズとして,主に五号(10.5ポイント)が使用されていたことがあった.この場合,字間として四分アキが採用され,“五号四分アキ”とよばれていた.

●2.5.3 ベタ組における括弧・句読点の処理

ベタ組において,括弧類や句読点などは,原則として全角の字幅で配置される.ただし,これらの前後にはアキを含んでおり,これらのアキは変更されることがある.そこで,こうしたアキの処理を説明する場合,括弧や句読点の字幅をどう考えるかが問題となる.
図〓にベタ組とした場合における句読点と括弧類の原則的な配置方法に示す.なお,日本語組版においては,ベタ組を採用した場合,通常は行長を文字サイズの整数倍として設定する.図〓の右側に示す正方形の枠は,行に全角の文字が整数個並ぶ場合の文字の外枠を示す(以下,同様).図〓に示すように,句読点と括弧類が単独で漢字や仮名の間に配置される場合,重なって配置される場合,行頭や行末に配置される場合で,句読点と括弧類の占める字詰め方向の領域が異なっている.
こうした事項を説明する場合,以下の2つの考え方がある(実際のフォントデータの字幅がどのようになっているかとは無関係であり,あくまで説明の前提としての考え方である).
1 句読点,中点,括弧類の字幅を半角(二分)と考える.通常は,その前又は後ろの二分または四分のアキを確保する.(JLReqやJIS X 4051では,この方法を採用している.)
2 句読点,中点,括弧類については,その前または後ろのアキを含め,字幅を全角と考える.
以下では,この2つの説明例を示す.

*活字組版における活字は,一定の高さのある台(ボディ)の上に字面がある.この台の字詰め方向のサイズが字幅になる.活字組版における句読点,括弧類および中点の台の字詰め方向のサイズとしては,半角と全角のものが準備されており,必要に応じて使い分けていた.なお,補足しておけば,日本語の活字組版では,植字(組版)作業に入る前に,原稿に従って活字を準備しておく“文選(ぶんせん)”という作業を行っていた.この文選では,仮名や漢字のみを拾い集め(採字という),句読点や括弧類,さらに字幅が全角でないアラビア数字やラテン文字などは採字しないで,植字作業で採字していた(文選は欧文組版では行われていない).

*括弧類や句読点などが連続した場合に調整が必要となるのは,空き過ぎになる,または不必要なアキがでるのを防ぐためである.例えば句読点や終わる括弧類と始め括弧類が重なると,アキが二重になり,アキ過ぎになる.終わり括弧類が連続する,または終わり括弧類と句読点が連続すると,括弧類の内側や句読点の前が空いてしまう.括弧類や句読点の前後のアキは特別な理由がないかぎり決まったアキ以上に空けない.また,括弧類の内側や句読点の前も特別な理由がないかぎりアキをとらない.こうしたことにより,一定の字間が確保でき,違和感を与えずに読んでいけるようになる.

図〓に示した配置例について,字幅を半角とする考え方による説明例を図〓に示す.なお,図〓 における約物をくくった長方形(正方形でない)は,半角と考える句読点,括弧類および中点類の文字の外枠,グレーで示した枠はアキ量を示す.
句読点,括弧類及び中点類の字幅を全角とすれば,図〓の説明は,図〓のようになる.
字幅を半角とする,あるいは全角とする場合であっても,どちらも結果として図〓になるのが,日本語組版としては望ましい形である.そこで,以下の説明では,フォントデータの字幅としては,句読点,括弧類および中点類の字幅を全角としている例があることから,括弧類や句読点の字幅として,括弧類,句読点および中点類の字幅を全角とし,それを前提に解説する.

*ベタ組の場合の約物を含む字間処理の詳細は,JLReqで解説している.なお,約物の字間処理につて,JLReqとは異なる方法を“〓〓〓(案)”で解説している.

●2.5.4 詰め組の場合の約物の配置

詰め組の場合,括弧類や句読点などのアキを含んでいる約物の配置が問題となる.今日のところ確立された方法はない,といえよう.
均等に行う詰め組では詰める量は小さいので,通常は括弧類や句読点などのアキを含んでいる約物も,漢字や仮名と同様に処理している.
字面詰めの場合は,括弧類や句読点などのアキは,いくらか詰めるのが望ましい.例えば,括弧類の外側および句読点の後ろの二分のアキは四分に,中点の両側の四分のアキは八分に変えるとよい.ただし,このアキはフォント,特に括弧類などの字形にもよるので,選択できることは望ましい.

*括弧類および句読点の二分のアキは,活字組版時代から空きすぎであり,すこし詰めたいという意見はあった.しかし,このアキを四分にすると,行の調整処理が発生する可能性があり,一般に採用されてこなかった.ただし,パーレンなどについては,その前にある語句などの補足説明であり,パーレンの字形を変えて(円弧の深さを浅くする),パーレンなどの外側のアキをなくして配置する方法が行われていた.この方法は,今日のコンピュータ組版でも採用している例がある.

*字面詰めの場合は,括弧類や句読点などのアキをなくして配置する例もある.しかし,これらは区切りとしての役割があり,いくらかのアキがあるのが望ましい.特に句読点は,区切りとしての役割大きいの,アキをなくすのは望ましくない.

●2.5.5 アキ組の場合の約物の配置

アキ組の場合,括弧類や句読点などのアキを含んでいる約物の配置が問題となる.今日のところ確立された方法はない,といえよう.
特に見出しなどのアキ組において,例えば二分アキや全角アキなど,かなりのアキ量を各字間に確保する場合もあるので,括弧類や句読点などは,漢字や仮名と同様に扱うと,バランスを壊す場合がある.3つの方法が考えられる.
1 括弧類や句読点などのアキを含んでいる約物については,それらの前および後ろの字間は,アキ組の対象としない.
2 括弧類や句読点などのアキを含んでいる約物も,漢字や仮名と同様に処理する.
3 括弧類や句読点などのアキを含んでいる約物については,それらの前および後ろの字間は,それぞれの約物について漢字や仮名の字間とは異なるアキ量とする.

*1のような処理法を行うのは,アキ組の場合,括弧や句読点の字間,特にその後ろにはアキがあり,そのアキは,規定のアキよりは大きくするのは望ましくない,また,括弧類など,その内側を空けるのも同様に望ましくないというのが理由である.

●2.5.6 1行に配置する字数

ベタ組を採用した場合,1行の行長は使用する文字サイズの整数倍に設定する.この場合,行長は制限はあるのだろうか.モニタに表示する場合については,どの程度が望ましいか議論はあまりされていない.今後,検討していく必要がある.参考までに,印刷される書籍における行長(字詰め数)の例を示しておく.
―縦組,四六判(B6判)で,1段組,9ポイント前後の文字サイズの場合,40字から44字くらい.
―縦組,A5判で,1段組,9ポイント前後の文字サイズの場合,49字から52字くらい.
―横組,A5判で,1段組,9ポイント前後の文字サイズの場合,35字くらい.
これから考慮すると,印刷物の縦組で50字を超えない,あるいは横組で40字を超えないのが望ましいといえよう.これを超えた場合は,段組を考えた方がよい.
行長が長いと,同じ行を認識する作業に努力が必要となり,それなりに疲れが大きくなるので,モニタに表示する場合も,40字は超えないのが望ましいといえよう.
逆に,行長が極端に短い場合も読みやすいものではない.印刷される書籍では,図版等の回り込みで,10字以下になった場合は,文字を配置しないで空けておくのがよいといわれていた.また,新聞では,12字くらいである.これらから考えると,モニタに表示する場合でも,行末から行頭への移動回数が増え,また,単語や文節が分断されることが多くなるので,10字以下にしないのが望ましいといえよう.


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