Re: 異体字の使用例

木田泰夫さま
小林 敏さま
みなさま

漢字の細かい字形の差違につきまして、各出版社さまごとに「この字形を正しい字形とする」という規定があり、本文印刷を担ってきた印刷会社はその細かな差違を正しく反映するための仕組みを時代に合わせて作って対応して来ています(いわゆる「出版正字」などとも呼ばれるようです)。
弊社にも出版社さまからご支給いただいた「正しい」字形のリストはあり、現在でもそれを反映させるためにカスタムフォントの作成や組版ソフト内でのスタイル等の整備で対応しています。歴史的にはJIS等で漢字の字形が標準化されるよりずっと前からあった各社の印刷物内での字形の統一の文脈なので、昔はもちろん意味がありましたし、そちらが先にあった以上この先もそう簡単にはなくならないだろうと思っています。
ただ、あまりにも細かな字形の差違に過ぎないこと、多くはJIS X 0213やAdobe-Japan1の登場でカバーされているはずであることを考えると、JLreq-dのような出版に留まらない広い範囲を対象とする文書としては記述しないのが順当かなと思います(多少は「作字しないと出せない」文字もあったりはしますが)。そのあたりの文字はどこも具体的な字形は社外秘扱いだったりもしますし、「そういうものもあるよ」ぐらいの話と思っていただければ。


> 2024/05/31 13:45、Kobayashi Toshi <binn@k.email.ne.jp>のメール:
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> 木田泰夫 様
> みなさま
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>  小林 敏 です.
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> 先日の会議で,異体字の使用は固有名詞が主という話がありましたが,一般の書籍では,固有名詞の例というよりは,それ以外の以下の使用例がけっこうあります.固有名詞も含めて,あげておきます.
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> 1 “当用漢字字体表”以前の出版物からの引用や利用
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> “当用漢字字体表”で整理されて字体(今でいう常用漢字体,新字体ともいう)でなく,いわゆる康煕字典体(旧字体ともいう)が使用されていたので,原文のまま引用する場合は,常用漢字体でなく,いわゆる康煕字典体にする必要がある.私の若い頃は,いわゆる康煕字典体で引用する例が多かったが,最近の人は康煕字典体が読めないということも考慮され,常用漢字体で表記する例が多くなっているのが現状です.
> 
> 引用でなく,古い小説などを再版する際も常用漢字体にするか,いわゆる康煕字典体かが問題となるが,文庫では,ほとんどが常用漢字体にしている.ただし全集などではいわゆる康煕字典体を使用している例がある.
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> 青空文庫でも,こうした作品では,いわゆる康煕字典体を使用している例がけっこうある(仮名遣いも旧かな).
> 
> 2 漢文
> 
> 白文,読み下し文を含めていわゆる康煕字典体を使用する例がある.
> 
> 3 “常用漢字表”に2010年に追加された一部の漢字
> 
> “常用漢字表”に2010年に追加された漢字で,表外漢字表の印刷標準字体が採用された漢字は,表(“常用漢字表”)に示されている字体(印刷標準字体)を使用するのが原則であるが,印刷標準字体が使用されない例もある.
>  例:葛 嗅 遡 遜 溺 填 賭 謎 剥 箸 餅 頬
> 
> 4 表外漢字
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> 表外漢字は,一般の出版物では多く目にする.この際に,従来の字体を使用するか,“当用漢字字体表”の字体整理の考え方に倣った字体を使用するかが問題となる.
> 従来の出版の現場では,“当用漢字字体表”の字体整理の考え方に倣った字体を使用しないとする考え方が一般的であった.しかし,前述したようにJIS X 0208の1983年の改正で,例示字形(例示字体)に,“当用漢字字体表”の字体整理の考え方に従った字形が多数採用され,そうしたフォントが作成され,さらにDTPでは,従来の字体の使用が困難であった時期があった.(こうした混乱もあり,“表外漢字字体表”の答申も行われた.)
> 最近の出版物では,従来の字体(表外漢字字体表に示された印刷標準字体)を使用している例が多いが,表外漢字字体表で簡易慣用字体,“3部首許容” として示されている字体や,表に示されていない字体を使用している例も,かなり存在する(漢字によっては,印刷標準字体を使用するのにやや手間をかけないといけないという事情もある).なお,前述したように初期のDTPでは,印刷標準字体にするのが,かなり困難な時期もあったが,今日では,印刷標準字体を使用できる技術的な環境は整ってきている.
> 例:溢 噂 摑 騙 俠 噓 迂 祇 飴
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> 5 固有名詞
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> 人名には常用漢字に示されている漢字のいわゆる康煕字典体(旧字体)を使用している例がある.実際の出版物での扱いは様々で,従来のいわゆる康煕字典体(旧字体)を使用している例と使用していない(常用漢字体,新字体)例がある.
> 
> なお,現在の人名用漢字としては,字種としては常用漢字であるが,“常用漢字表”に示されている括弧で囲まれて示されている字体(いわゆる康煕字典体(旧字体))で,使用できる字体がある.(括弧で囲まれて示されている字体のすべてが使用できるわけではない.それは人名用漢字の過去のそれなりにややこしい制定の事情が影響している.)
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> なお,人名用漢字は,あくまで出生の届け出の際に問題となる事項なので,姓は,人名用漢字に制限されていない.
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> 地名にも同様な例がある.
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> おまけ “曾”と“曽”について
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> “表外漢字字体表”では“曾”,ただし簡易慣用字体として”曽”が示されている.この字は,“常用漢字表”に2010年に追加されたが,簡易慣用字体の”曽”が“常用漢字表”に示された字体である.(“表外漢字字体表”に示されている漢字で,2010年に“常用漢字表”に追加された漢字は,“表外漢字字体表”に示されている印刷標準字体であるが,例外として“曽・痩・麺”の3字の字体については簡易慣用字体が採用されている.)
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> そこで,“未曾有”いった表記の場合,“未曾有”とするか,“未曽有”とするかが問題となる.私が本を読む限りでは,両方が行われている.新潮社は“未曾有”(新潮社は“曽・痩・麺”は使わないというのが社の方針のようです),中央公論社は“未曽有”,岩波書店は“未曽有”のようであるが,一部では“未曾有”も使用されている.
> 

Received on Friday, 31 May 2024 05:21:26 UTC