RE: 行長は全角の整数倍であらねばならないか

木田 様
山本 様
みなさま

 小林 敏 です.

行長は全角の整数倍であらねばならないか,その理由を示しておきます.

1 和文フォンは,全角の文字の外枠を前提の,その文字をベタ組した場合に読みやすく,見た目にバランスがとれるように設計している.したがって,文字を配置する場合,全角の文字の外枠を持った文字をベタ組に配置するのが望ましい.

2 行頭・行末そろえにする方法は,日本語組版の多くで採用されている.したがって,その採用には,絶対とはいえないが,ある種の合理性がある.この行頭・行末そろえを採用すると,行長は全角の整数倍にしないと,全ての行で行の調整処理が必要になる可能性がある.
 また,多くの読者が,この行頭・行末そろえにする方法に慣れている.慣れた方法が読者にとって読みやすいといえる.

3 行の調整処理で字間が詰められる,あるいはアキが入る.これは読みやすさに影響がある.特に,読書では流れるように一定のスピードで読むケースが多い.この場合,できるだけ異質なものは避けた方がよい.つまり,できるだけ字間に乱れがないことが望ましい.
 もちろん,その影響は,調整量による.例えば,全角あるいは二分の調整を40字の字間(39箇所)で行う場合,ベタ組との差はわずかで,ほとんど気づかないともいえる.しかし,可変レイアウトでは,行長も可変であり,すべての行で行の調整処理が行われると,その調整量もさまざまである.かなりのアキがでる場合がある.いってみれば,すべての字間がすべて異なる.これは全角でベタ組という選択をした場合は,決して好ましいことではない.
 もちろん行長を全角の整数倍にし,行頭・行末そろえにした場合でも,行の調整処理は発生する.しかし,この場合,多くの字間が一定で,一部だけが乱れる,ということになる.これは,すべての行で異なることとは比較にならない.

4 行頭そろえにすると,行の調整処理は回避できる.しかし,前項に述べたように,その採用は以下の問題もあり,行頭そろえの採用は避けたいという場合がある.
 行頭そろえにした場合は,データにもよるが,多くの行は行末がそろう(全角の文字が整数個となるので).一部の行で乱れがでる.また,その乱れも,ラテン文字の組版のラグ組のようにかなりの量のアキが行末に出るのに対し,和文の行末では,全角+α,二分+αといったアキが多い.ちょっとだけ異なる,ということはいいように思えるが,そうではなく,これは見た目のバランスがよくない.
 また,日本語組版はベタ組が原則で,例外的に行中にアキ(意味のあるアキ)が入る場合がある.行頭そろえで,行末のアキが出た場合,意味のあるアキと誤解される恐れがある.
 なお,箱組,図版の回り込み,リード文,段組,その他で,デザイン上で行頭・行末そろえを選びたい場合がある.

5 文中にラテン文字やアラビア数字が入れば,行の調整処理が必要になる場合が多い.行長を全角の整数倍にし,行頭・行末そろえにした場合でも,この行では,行の調整処理は発生する.これを考えれば,行長を全角の整数倍にしなくてもよいと考えられないか.
 これも程度問題で,ラテン文字やアラビア数字が入らないテキストも多く,特に縦組ではアラビア数字が挿入されても,縦中横または縦向きに配置する方法が多く,行の調整処理は発生しない.
 日本語組版では,矛盾が多い.あちらを立てると,こちらの問題がでる,というケースである.その場合,できるだけ,問題がでないいように工夫するとともに,ある種の判断も必要になる.例えば,ラテン文字を使用する場合,次が考えられる.
 a 全角のラテン文字を使って行の調整処理を回避する
 b プロポーショナルの文字を使い,ある程度の行の調整処理は,やむを得ないと考える.
 いってみれば,ラテン文字の読みやすさを優先するか,行の調整処理を回避するか,という選択の問題である.過去においては両方が行われていた.今日ではbが多い.
 アラビア数字の場合,文字幅を二分にすれば,奇数桁(前後四分アキ)または偶数桁(前後ベタ組)で行の調整処理を回避できる.付属書体に二分の字幅をもったフォントもある(すこしデザインとしてよくないかもしれないが,OpenTypeフォントで,その機能を使用しても字幅が二分にできる).
 したがって,できれだけ行の調整処理を回避する工夫はするが,解決できないということで,ある程度の行の調整処理は認めるしかない.これを理由に行長を全角の整数倍にしなくてよいということにはならない.

Received on Friday, 1 September 2023 07:18:11 UTC