JIS X 8341-3 改正における変更案

みなさん、

先日、Fwd: JIS X 8341-3 改正に関する基本原則(たたき台)
をお送りしました。そこで示した原則に従い、JIS X 8341-3
改正時に WCAG 2.2からどう変更すべきかという具体的な案を
お送りいたします。

皆さんのご意見をお伺いしたのち、JIS原案作成委員会に送ろう
と思っています。コメントをお待ちしています。

JIS X 8341-3:202X(MOD案)で実施すべき変更一覧

1) 達成基準 1.3.1 情報及び関係性
<https://waic.jp/translations/WCAG22/#info-and-relationships> レベルA (MOD)

理由:
ルビ(ruby)と親文字(base text)の対応関係は、日本語
アクセシビリティの核心。
WCAG本文は英語圏の構造モデルを暗黙に前提としており、
ルビの情報構造が読み取れない場合の失敗事例(PDFなど)は
W3C でも問題視中。

JISで追加する内容(要点):

ルビと親文字の対応関係がプログラム的に決定できることを要求する一文を追加

これは WCAGの意図にも合致し、技術的負荷も小さい

2) 達成基準 1.3.4 表示の向き <https://waic.jp/translations/WCAG22/#orientation>
レベルAA(備考追加するがIDT)

理由:
本文の要求は変えず、用語の誤読(orientation=縦横表示、writing-mode=縦書き/横書き)を防ぐ必要がある。

JISで追加する備考(要点):

orientation は端末の縦向き・横向きを指すものであり、書字方向とは別概念

誤読防止の注記なので、本文の規範要求は100%維持(IDT)

3) 達成基準 1.4.4 テキストのサイズ変更 <https://waic.jp/translations/WCAG22/#resize-text>
レベル AA(備考追加するがIDT)

理由:
縦書き・ルビ・圏点など日本語特有の組版は、200%拡大時にブラウザ実装依存の問題を起こしやすい。
WCAG本体の理解文書でも「これは UA(ユーザエージェント)の責務である」と明確に書いてある。

JISで追加する備考(要点):

日本語組版では表示品質が UA 実装により不安定になる場合がある

コンテンツ制作者はそれを妨害しないことが責務

規範要求は変えない → IDT の範囲

4) 達成基準 1.4.8 視覚的提示
<https://waic.jp/translations/WCAG22/#visual-presentation> レベル AAA(MOD)

【1】本文の MOD:利用者が選択できる色に「ルビ色」を追加する

■ WCAG 2.2 原文

Users can select foreground and background colors.

■ JIS(MOD後)本文

利用者が、前景色および背景色、ならびにルビの色を選択できる。

✔ 変更の趣旨

これは 日本語組版のアクセシビリティに本質的に必要な項目 であり、
象徴的意味が非常に大きい最小限の規範変更です。

ルビは読みの補助として必須
コントラスト不良のルビは“情報欠落”と同義
WCAG本体では未定義 → JISが世界に先んじて正式化
著者側・実装側への負担はゼロに近い
AAA の中ではもっとも技術的負荷の低い部分のみを限定的にMOD
W3C への重要なメッセージとなる

【2】本文はそれ以外いっさい変更しない(行長・行間等は触れない)

以下の 欧文前提の数値規定 は AAA であり、実務でほぼ使われない ため、
IDTとして維持し、本文の変更は行わない:

行長(80文字 / CJK40文字)
行間(1.5倍)
段落間隔(1.5倍)
コントラスト要求(本文にはなし)

✔ 理由

AAA を大きく書き換えると国際整合性を損なう
実務的にはほぼ使われないため“問題視されない”
数値規定は WCAG 本体で将来見直される可能性が高い
ここに手を入れることは得るものより失うものが大きい

【3】日本語組版における不適切性を明示するための JIS 注記(IDT扱い)を追加
■ JIS 注記案

注記(日本語組版に関する補足)
本達成基準で示されている行長、行間、段落間隔などの数値は主として欧文
組版を前提として設定されたものであり、日本語の縦書き、ルビ、禁則処理
などの組版特性とは整合しない場合がある。

これらの値は AAA レベルの任意達成基準であり、実務的な適合要件として
必須とされるものではないため、本仕様では改変を行わない。
日本語組版に適した指標については、将来の WCAG 本体の改訂における国際
的な議論を待つことが望ましい。

✔ この注記の効用

日本語組版における不適切性を公式に明示
しかし、規範要求には触れない → IDT に留まる
改訂の矛先をW3C本体へ向ける
日本国内の出版社の誤読(WCAGは縦書きに不適)を防止
作者の負担が不必要に増えることを避ける

5) 達成基準 1.4.10 リフロー <https://waic.jp/translations/WCAG22/#reflow> レベル
AA(MOD)

理由:
原文は完全に横書き前提で書かれており、
縦書き環境では誤解を生むどころか 不適切な条文 となる。

ここは本文の書き換え(MOD)が必須。

JISでの本文 MOD(要点):

「320px幅」を「書字方向に応じた寸法」に中立化

「2次元スクロール禁止」を writing-mode に依存しない概念へ一般化

横書き・縦書き両方の reflow 条件を条文上で明確に定義

規範の趣旨を変えず、誤読だけを排除する最小限MOD

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東日本国際大学客員教授
村田 真

Received on Sunday, 7 December 2025 08:41:19 UTC