●●2.日本語組版の基本 メモ  ―日本語組版のモデル   2022.3.10 行頭の●などは見出しのレベルを示す 行頭の“*”の記号のあるものは注である. ●目次 2.1 日本語組版のモデル  2.1.1 字詰め方向と行送り方向  2.1.2 字詰め方向の文字配置のモデル  2.1.3 字詰め方向の文字配置―“アキ”モデル  2.1.4 字詰め方向の文字配置―“送り”モデル  2.1.5 行送り方向の文字配置のモデルの種類  2.1.6 行送り方向の文字配置―“アキ”モデル  2.1.7 行送り方向の文字配置―“送り”モデル  2.1.8 行送り方向の文字配置―行高モデル  2.1.9 このドキュメントでのモデル 2.2 文字の大きさとフォント  2.2.1 文字のサイズは何を示すか  2.2.2 文字の大きさの単位  2.2.3 文字の大きと字面の大きさ  2.2.4 望ましい文字サイズ  2.2.5 日本語組版で使用する書体 2.3 日本語組版で使用する文字  2.3.1 漢字と仮名の使い分け  2.3.2 漢字の字数  2.3.3 漢字の異体字  2.3.4 平仮名と片仮名  2.3.5 アラビア数字  2.3.6 ラテン文字と和文文字との混植の問題点  2.3.7 縦組の中に挿入されるアラビア数字とラテン文字  2.3.8 約物の種類  2.3.9 括弧類の用法  2.3.10 日本語の約物と欧文の約物  2.3.11 約物の字幅とアキ  2.3.12 異なる文字サイズの約物の連続  2.3.13 注意を要する約物 2.4 横組と縦組の組版処理  2.4.1 組方向の変更  2.4.2 縦組と横組で字形等が異なる例  2.4.3 数字の表記と組版処理  2.4.4 ラテン文字等の処理  2.4.5 縦組と横組の句読点  2.4.6 縦組と横組の括弧類  2.4.7 縦組と横組で注意が必要な行処理等  2.4.8 縦組と横組で異なる注等の配置処理 2.5 文字を行に配置する処理  2.5.1 文字を行に配置する処理の問題点  2.5.2 ベタ組・詰め組・アキ組  2.5.3 ベタ組における括弧・句読点の処理  2.5.4 詰め組の場合の約物の配置  2.5.5 アキ組の場合の約物の配置  2.5.6 1行に配置する字数 2.6 行を領域に配置する処理  2.6.1 行間設定の必要性  2.6.2 行の間隔を指定する方法  2.6.3 行間の選択  2.6.4 領域内の余白の指示  2.6.5 行中に配置する異サイズの文字と行間  2.6.6 行間に配置するルビ等と行間  2.6.7 はみ出し等で重なりがでる場合の行間  2.6.8 行取りの処理  2.6.9 段落間の行間の変更  2.6.10 行送り方向のそろえと配置位置 ■2.1 日本語組版のモデル 文字を配置する際の基本的な考え方,その説明のモデルには何をもってきたらよいか.ここでは,具体的な説明の前に,そのモデルを示しておく.(実際の組版エンジンがどう処理しているかは考えないといけないが,あくまで説明のためのモデルということで,この点は無視する.) ●2.1.1 字詰め方向と行送り方向 日本語組版では,文字を行に並べる,あるいは行をある領域に並べていく方向(組方向)として縦組と横組がある.そこで,このドキュメントでは,文字または行を並べる方向を示す用語に,縦組・横組に共通する以下の用語を使用する(図〓参照). 字詰め方向:文字を行に並べていく方向.縦組では,上から下への方向,横組では左から右への方向. 行送り方向:行ををある領域に並べていく方向.縦組では,右から左への方向,横組では上から下への方向. ●2.1.2 字詰め方向の文字配置のモデル 文字を行に配置する説明のモデルとして以下がある.  A “アキ”モデル:文字のボディ(文字の外枠)を基本として,文字間のアキで説明  B “送り”モデル:文字の基準位置から次の文字の基準位置への移動量(送り)で説明  C その他:例えば,配置面にグリッドを設定し,そのグリッドにそって文字を配置 説明の方法としてはCは複雑になるので,ここでは除外する. ●2.1.3 字詰め方向の文字配置―“アキ”モデル “アキ”モデルは,現在のJIS X 4051やJLReqで採用しているモデルである.この場合,和文は正方形のボディが基本であるが,必ずしも全角ではなくてもよく,ラテン文字などは,字幅が文字により異なる.なお,文字のボディを,JIS X 4051では,“仮想ボディ”という用語ではなく,“文字の外枠”という用語を使用しているので,以下でもこの用語を用いることにする. この方式では,基本として文字を正立した場合の文字の外枠の天地のサイズ(以下では“文字の高さ”)と左右のサイズ(以下では“文字の幅”)の情報が各文字に必要になる(図〓参照).横組では,文字の高さが文字サイズ,文字の幅が字幅(文字を配置していく場合に,字詰め方向に占める領域のサイズ)となる(図〓参照).縦組では,文字の幅が文字サイズとなり,文字の高さが字幅となる(図〓参照). *文字の外枠が全角の場合,文字の高さも文字の幅も同じであるので,文字サイズは文字の高さとしても,文字の幅としてもよい.文字の幅がプロポーショナルの場合,どちらが文字サイズを示すかが問題となる.従来,文字の高さが文字サイズを示すとされてきたが,日本語の文字をプロポーショナルにする場合を考慮すれば,縦組にあっては,文字の幅が文字サイズと考えた方がよいであろう.ただし,ラテン文字については,文字を正立した場合の文字の高さが文字がサイズとなるので,文字を横転した場合は,そのままでよいが,正立させた場合は,文字の高さが文字サイズとなる. *和文のプロポーショナルな組版では,横組では文字の高さを一定にし,文字の幅が異なり,縦組では文字の幅を一定にし,文字の高さが異なるようにして文字を配置する. 細かい事項を除き,文字の外枠のサイズと字詰め方向の各文字間の情報により,文字を行に配置できる.字詰め方向ではアキ(字間,前の文字における字詰め方向の文字の外枠の末尾と次の文字の外枠の先端の間隔,図〓参照)をゼロにする例は多く,この配置方法をベタ組といい,特に指示がない場合は,この方法で文字は配置される. このモデルでは文字の高さと文字の幅(いってみれば文字の外枠)を想定しないといけないという欠点はあるが,見た目のアキ量で考えればよいので,文字の配置位置が直感的に理解できるという利点がある. ●2.1.4 字詰め方向の文字配置―“送り”モデル “送り”モデルは,文字の外枠は考えなくても説明は可能になる.文字サイズは,元となる大きさのサイズにある字面を決め(手動写真植字では16級または17級であった),あとは比例計算でサイズを決めればよい(ただし,これだと分かりにくいので,説明として文字の外枠を介しての説明も行われていた).さらに,文字の持っている情報としては,各文字の基本サイズの字面の字詰め方向の大きさ(それは文字の外枠に一杯ではなく,わずかな余白(ラテン文字ではサイドベアリングという),あるいは句読点等では後ろまたは前後の余白を含めた大きさ),または字詰め方向に文字を配置する場合の送り量,および以下で説明する文字の基準位置だけがあればよい. 文字の基準位置は,決まっていれば(一定であれば),どこでもよいが,各文字を配置する際の先端位置(以下ではトップという),または字詰め方向の大きさ(サイズ)の中心(以下ではセンターという)が考えられる(図〓参照). *各文字の基本サイズの字詰め方向の大きさとは,“アキ”モデルでいう文字の外枠の大きさである. *活字組版の場合,文字サイズが異なれば,元の字形(原図という)のサイズを変更していたが,文字サイズに応じて単純に比例させないで,各サイズごとに微妙に調整できた.しかし,手動写真植字やデジタルの組版の場合,通常,元の字面を単純に比例させて拡大・縮小する.こうしたフォントの設計では,通常に使用が予想される程度の文字サイズでベタ組にした場合に,望ましい結果になるように設計している.したがって,予想より大きな文字サイズに拡大した場合,字間がアキ過ぎに見える場合もある.こうしたことから,大きな文字サイズの見出しなどでは,字間をベタ組より詰める調整が必要になる場合もある. “アキ”モデルでいうベタ組にする場合,各文字の保持している送り量が同一であれば,この同じ送り量にすればベタ組となる.例えば,10ポイントの全角の文字をベタ組にする場合は,各文字の送り量を10ポイントにすればよい.しかし前後に配置する文字の保持している送り量が異なれば,トップ方式とセンター方式では異なる.トップ方式では,各文字の保持している送り量で文字を配置していけばよい.例えば,全角である10ポイントの文字,20ポイントの全角の文字,その後ろに14ポイントの全角の文字を配置する場合は,最初の文字を配置し,10ポイントの送り量で次の文字を配置し,さらに20ポイントの送り量で最後の文字を配置すればよい(図〓参照).これに対し,センター方式では,前の文字送り量の1/2の送り+次の文字の送り量の1/2の送り,となる.前述の例でいえば,最初の文字を配置し,15ポイント((10+20)/2)の送り量で次の文字を配置し,さらに17ポイント((20+14)/2)の送り量で最後の文字を配置すればよい(図〓参照). “送り”モデルでは,文字のボディ(文字の外枠)を考えなくてもよいという利点があるが,異なった字幅の文字を配置する場合に,説明が複雑になる.また,文字の基準位置によっては,ある領域の先頭,末尾に配置する際に,ややめんどうな説明が必要になる. ●2.1.5 行送り方向の文字配置のモデルの種類 行をある領域に配置する説明のモデルとして以下がある.  a “アキ”モデル:文字の外枠を基本として,行間のアキで説明  b “送り”モデル:文字の基準位置から次の文字の基準位置への移動量(送り)で説明  c 行高:一定の指定した行の領域(行高)で行の配置領域を設定し,その領域の指定した位置(一般に中央)に配置  d その他:例えば,配置面にグリッドを設定し,そのグリッドにそって文字を配置 説明の方法としてはdは複雑になるので,ここでは除外する. ●2.1.6 行送り方向の文字配置―“アキ”モデル “アキ”モデルは,現在のJIS X 4051やJLReqで採用しているモデルである. この方式では,基本として文字を正立した場合の文字の外枠の天地のサイズ(文字の高さ,横組の場合),左右のサイズ(文字の幅,縦組の場合)の情報が各文字に必要になる.これらのサイズは,文字サイズに該当する. この方式では,文字の外枠の天地のサイズ(横組),文字の外枠の左右のサイズ(縦組),つまり文字サイズで配置した行と,次の行との間に指定されたアキ(行間)を確保し,ある領域内に行を配置していく(図〓参照). *行中に異なる文字サイズがある場合,“アキ”モデルでは,どの文字サイズを基準に行を配置してよいかが問題となる.日本語組版では,その段落で指定されている文字サイズを基準に配置していくのが原則である.“送り”モデルでは,指定された送り量で行を配置していけばよいので,“アキ”モデルのような問題は発生しない(ただし,文字の基準位置により調整が必要になる場合もある). 注や見出しのサブタイトルなど,本文とは異なった行間でも,前の行の文字の外枠と次の行の文字の外枠間を指定されたアキ量にすればよい. このモデルでは文字の高さ,または文字の幅.つまり文字の外枠のサイズを想定しないといけないという欠点があるが,見た目のアキ量で考えればよいので,行の配置位置が直感的に理解できるという利点がある.ただし,見出しなどを行の配置位置を基準に設定する“行ドリ”を行う場合,やや複雑な説明が必要になる. ●2.1.7 行送り方向の文字配置―“送り”モデル “送り”モデルは,文字の外枠は考えなくても説明は可能になる.字詰め方向と同様に,各文字の基準位置だけがあればよい(文字サイズないし各文字の行送り方向の送り量は必須としない).基準位置は,決まっていれば(一定であれば),字詰め方向と同様にトップ方式とセンター方式が考えられる(図〓参照). その他,ラテン文字にならい,ベースライン位置を基準点にする方式も考えられる.ただし,この場合,ベースラインを文字の上下のどこかに設定するかだけではなく,縦組にするためには,文字の左右位置にも設定しないといけない. この方式では,指定された文字サイズが一定で,行間も一定であれば,どこに基準位置があっても,行の送り量を文字サイズ+行間で処理すればよい.しかし,異なった文字サイズ,異なった行間のテキストが挿入される場合,それなりに複雑な送り量の計算が必要になる.字詰め方向と同様に,ある領域の先頭に行を配置する場合も計算が必要になる. なお,字詰め方向と異なり,日本語組版では行間をゼロとするケース(表組のヘッダー等)は少なく,なんらかの行間が必要になる.したがって,行を配置する場合,行の配置の送り量が必須の条件と考えれば,各文字の保持している行送り方向の送り量の情報はなくても行は配置できる. ●2.1.8 行送り方向の文字配置―行高モデル 行高モデルでは,行の前後のアキを含めた密着した領域を行高として確保し,その領域内に文字を配置していく方法である(図〓参照).その領域内の中央に行を配置するのが一般的であるが,領域内の配置位置を変更することも考えられる. この方式では,文字サイズが一定で行間も一定であれば,行高として文字サイズ+行間で設定し,処理すればよい(文字サイズの指示は必須でない). この方式では,“行ドリ”を行う場合,複数の行高で設定した領域を合併すればよく,説明も簡単になる. しかし,後注のように,異なった文字サイズと行間のテキストが段落の間に挿入される場合,それなりに複雑な送り量の計算が必要になる.字詰め方向と同様に,ある領域の先頭に行を配置する場合も計算が必要になる. ●2.1.9 このドキュメントでのモデル 実際の処理では,各モデル,あるいはそれ以外であっても,文字間の位置の変換は可能である.また,このドキュメントの目的は,組版の処理方法を説明するものではなく,組版の処理結果を示すのが主目的である.つまり表現された結果を問題としている. そこで,このドキュメントでは,説明も理解も簡単である,“アキ”モデル(字詰め方向も行送り方向も)とする.ただし,必要に応じて他のモデルによる解説も行う. ■2.2 文字の大きさとフォント ●2.2.1 文字のサイズは何を示すか 文字のサイズは,以下の2つが考えられる. 1 字面の大きさ 2 文字の外枠の大きさ(または送り量) *文字の外枠については,活字の場合は,実体としてのボディがあるが,デジタルの世界では,フォントの情報として与えられるものである. 日本語組版という技術的な世界では,これまでの慣習として字面の大きさではなく,2の文字の外枠の大きさで文字のサイズを示しており,今日でも同様である.字面の大きさ,または面積の大きさで文字サイズは示されてこなかった. 日本語組版では縦組と横組がある.横組では正立した文字の高さ,縦組では正立した文字の幅のサイズが文字サイズである.一般化すれば,行送り方向の文字の外枠のサイズで,文字の大きさを示す. *1の方法で文字のサイズを示す場合,文字の外枠の大きさの情報がなくても,文字サイズを示すことは可能である.例えば,基準となるサイズの文字を設計し,そのサイズと異なるサイズにする場合は,基準となるサイズの文字を元に比例計算を行えばよい. ●2.2.2 文字の大きさの単位 伝統的に文字の大きさを示す単位には,ポイントと級数があった.デジタルの世界では簡単に単位の換算が可能なので,様々な単位だけでなく,基準のサイズを決め,それとの相対的な大きさでも指定が可能である. *日本語組版では,活字では“ポイント”(1ポイント=0.3514mm),手動写真植字では“級”(1級(Q)=0.25mm)が使用されていた.なお,DTPでは主に1ポイント=1/72インチ(約0.3528mm)の大きさが使用されている. どちらが望ましいかは,各人による.どれだけ経験したかにより意見は異なる.目に慣れた単位が使いやすい.ただし,日本語組版の経験でいえば,本文9ポイントとする例が多く,この場合に小さくする括弧書きのサイズとして8ポイントが使用されていた.これで適度の差が示された.これに対し,級数では本文を13級とした場合,12級では差があまりなく,逆に11級では小さすぎるということもあった.その意味では,ポイントという単位は,人間の視覚能力に対応していたのかもしれない. ●2.2.3 文字の大きと字面の大きさ 前述したように文字のサイズは,その文字の外枠の大きさであり,字面の大きさはない.そこで,文字の外枠の大きさと字面の大きさとの関係が問題となる. 日本語フォントでは,それはフォントごとに異なる.フォントメーカーでは,通常,日本語をベタ組で組版した場合に適度の文字間が確保されるように設計している.なお,ゴシック体については,外枠内に占める字面が大きいものがある. *ラテン文字では,そのグリフに外接する長方形の左端から文字の外枠の左辺または右端から文字の外枠の右辺までの長さをサイドベアリングとよんでいる. また,文字の外枠の大きさと字面の占める割合は,文字種(漢字と平仮名,片仮名等)によっても異なり,さらに文字ごとにも異なる.一般的にいえば,漢字に比べ,仮名はやや小さい.このバランスは読みやすさにも影響する. *日本語組版では,通常,単語または文節単位での分かち書きはしない(単語単位での区切りはしない).しかし,漢字仮名交じり文であるので,漢字と仮名では基本的な字形の性格が異なるので,単語の認識を助けている.樺島忠夫著“日本の文字―表記体系を考える”(岩波新書,1979年)の中で,漢字から離れられなかった日本人として,漢字を使用することによる文字列の読みやすさをあげている.“文章を読む場合,目は文字を一字ずつ拾って読むものではなく,一回に幾つかの文字をまとめて見,次の点に視線が飛んで幾つかの文字を見るというように停留と飛躍をくりかえす.一回の停留で多くの意味を読み取るには,短い文字列で言葉が表されている方がよいし,早くも読める.”と指摘したうえで,“字形が異なる文字体系を交ぜて書くと,仮名は活用語尾,助詞,助動詞に使われるから,仮名から漢字への移り目が目立ち,文節分かち書きに近い効果を生み出す.”と述べている. つまり,漢字と仮名の字面の大きさを工夫することで,漢字と仮名の区切りがつき,読みやすくなる,ということである. なお,漢字と仮名の組合せが単語を認識を助けるからといっても,完全ではない.区切りがわかりにくい箇所には読点を挿入するといった工夫も必要である.また,読者によっては,単語または文節の字間に空白を挿入する“分かち書き”も必要になる. *漢字と仮名の区別は,字面の大きさだけではない.漢字と仮名における線のデザインが,やや異なることでも読みやすさにつながる.藤田重信は“文字のデザイン・書体のふしぎ”(左右社,2008年)の中で,“明朝体が,定番の本文書体に位置づけられたことは,明朝体の仮名と漢字のデザインが根本的にちがうということが決定的です.このちがいが,文章にするととても読もやすいのです”と述べている.さらに,ほかの“ゴシック体,……,多くの書体は,同じタッチとスタイルで平仮名,片仮名,漢字がデザインされている.すると,識別しづらいのです”と記している. なお,漫画(コミックス)の吹き出しで,漢字はゴシック体,仮名はアンチック体を組み合わせた例をよく見かけるが,こうしたことを考慮した結果かもしれない. ●2.2.4 望ましい文字サイズ 印刷されたものでは,長い文章と短い文章では異なる,短い場合は,少々読みにくくても,我慢ができるが,長文の場合は,そうはいかない.印刷されたドキュメントで大人が読む場合,一般に最低のサイズは8ポイントといわれていた.これに対し,読む分量の少ない辞書などでは,6ポイント程度も許された.また,判型によっても多少は異なるともいわれていた. モニタに表示する場合は,その読む条件の差異が大きいと予想される.また,読むドキュメントの長さ,内容も多岐にわたり,さらに読む人の条件によっても異なってくるであろう.したがって,今後,経験を重ねていくことによって最適な大きさが確認されていくと思われる.ただし,以下のことはいえるであろう. 1 読む目的,各人の状況が異なることから,文字サイズ等の組版の設定が簡単に変更できる仕組みが必要である. 2 モニタの大きさも影響する(見る距離でも異なる).印刷物では,判型が小さくなると,近い距離で読むことができ,文字サイズは,やや小さくできる,といわれていた. 3 文字サイズを大きくするのが望ましいとしても,モニタに一度に表示される分量も大切である.なぜなら,ドキュメントを読む場合,その文字または単語を読むだけでなく,ある程度の見通しを持って読んでいくので,一度に表示される,ある程度の分量も必要になるからである. 4 見出しなどでは,その内容に比重を示すために,文字サイズを変更してアクセントを付ける.この場合,どの程度の差を付けたらよいのかも問題になる. *活字組版におけるポイント単位では,次のような活字サイズが準備されていた.この文字サイズの種類は,サイズを選択する際の目安になる.つまり,差をつけたい場合の段階を示しているともいえる. ―0.5ポ差 5 4.5 4 3.5 ―1ポ差 10 9 8 7 6 ―2ポ差 20 18 16 14 12 ―4ポ差 40 36 32 28 24 *参考までに,ポイントサイズ(JISポイント)の文字サイズについて,書籍などにおける使用例を次に示す(括弧内に級数の小数点第3位を四捨五入した換算値を示す). ―6ポ(8.43Q) 注などの合印(あいじるし),割注 ―7ポ(9.84Q) 注,ページの欄外に示す柱・ノンブル,表の 本文,表・図のキャプション,図版中の説明文字,本文(雑誌などの情報ページ) ―8ポ(11.25Q) 注,ページの欄外に示す柱・ノンブル,表の本文,表・図のキャプション,図版中の説明文字,本文 ―9ポ(12.65Q) 本文,見出し ―10ポ(14.06Q) 本文,見出し ―12ポ(16.87Q) 本文(使用例は少ないが,子ども向けの本や豪華本などに使用例がある),見出し ―14ポ(19.68Q) 見出し *人間は,少々読みにくくても,努力して読んでしまう.したがって,読者からの読みにくさに対しての積極的な反応が多くないかもしれない.それだけに,文字組を設計する者の責任は重くなる.極端な例であるが,努力して読んでしまう例として,草双紙の例を図〓(十返舎一九著“的中地本問屋”,国立国会図書館デジタルコレクション)に示す.この例では,文字が読めるかどうか,言葉になじみがあるか,文はどこで切るのか,こうした点で問題がある. 図〓は,以下のように読める [……そのままで]くだされ”と,も(持)つて行けば,“これ,こちらへは,どふしてくださる”“イヤ今す(摺)つております”といふに,“いやいや(くの字点)す(摺)らずとよふござる.そのまゝでくだせへ”と.大きに,もふ(儲)かりけるぞ,いさぎよし.ヲツトこゝへこゝへ(くの字点) *読みやすさの評価は,読む分量により異なる.辞書のように短い文章であれば小さい文字で行間が狭くても,短時間で読むので読んでしまう.これに対し小説や一般の書籍のように長い文章を一気に読む場合は,小さい文字で狭い行間では,疲れてしまうであろう. *文字サイズなど組版の評価は,その目的によっても異なる.広告であれば,なんとしても注目してもらう必要がある.雑誌のように1本1本の記事が独立している場合は,そのタイトルも大きくなる.これに対し,書籍の見出しは,見出しのレベルの区別が付けばよいので,雑誌の見出しのように大きくする必要はない. ●2.2.5 日本語組版で使用する書体 日本語組版で使用される書体としては,代表的なものとしては明朝体とゴシック体がある.その他,楷書体と教科書体や,その他の装飾書体がある. 明朝体(みんちょうたい):明朝体の漢字は,横線に比べて縦線が太く,筆起しと,終筆部に三角形の筆押さえ(うろこ)が付いている.明朝体は,本来は漢字の書体であるが,これに調和するように設計された仮名がつくられている.本文などに使用する. ゴシック体:文字の線がほぼ同じ幅をもった書体で,明朝体のように三角形のうろこが付いていない.強調箇所や見出しなどに使用する. 楷書体:中国の漢代末期に隷書から転化した書風で,漢字の正体とされているのが楷書である.明朝体に比して読みやすさの点でやや劣るとされている. 教科書体:筆記を考慮し,楷書体をもとに小学校の教科書用としてデザインされた書体である. アンチック体:平仮名・片仮名だけの肉太にした書体で,欧文のボールド体(センチュリーボールドなど)に似ている.主として子どもの本や辞典の見出しなどに使用する.また,コミックの吹き出しに利用されている(漢字はゴシック体).一般の書籍でも,見出しなどでゴシック体と組み合わせて使用する例がある. 今日使用されている文字は,同一の原図から作成したデータを拡大または縮小して使用する.そのために,文字サイズに応じて縦線と横線の太さや比率(ウェイトという)変える必要がある.文字サイズを大きくした場合,線を太くしない小さい文字とのバランスがとれない.そこで,明朝体でもゴシック体についても,文字のウェイトを変化させたフォントを準備している. ウェイトの変化は,W3,W4などといった番号で示す方法と,EL, L, R, M, B, H(細い順,H が最も太い)などといった欧字の記号で示す方法がとられている. 印刷物では読みやすい書体は明朝体である,といわれてきた.特に長文の場合は明朝体はつかれなくてよいといわれてきた. モニタに表示する場合は,どうであろうか.ゴシック体の使用が多いが,どうであろうか.モニタの精細度やモニタの表示に適したフォントの設計にもよるが,文字サイズやウェイトなどと関連させ,これから検討を加えていく必要がある. ■2.3 日本語組版で使用する文字 ここでは,日本語組版で使用する文字としては,どんな種類があるか,その文字数など,組版に関連する事項を主に解説しておく.また,組方向(縦組と横組)により文字の使用法が異なる例があるが,デジタルの世界では,組方向の自動変換も予定されており,この使用法の違いに対応しておく必要がある.こうした組方向による文字使用の相違点は,主に次節で解説する. ●2.3.1 漢字と仮名の使い分け 日本語組版では,主に漢字と仮名を用いる(漢字仮名交じり文).漢字と仮名の使い分けは,文章の内容により異なるが,おおまかにいえば,以下のようになる. 漢字:概念を表す部分,例えば名詞・動詞・形容詞・形容動詞など. 平仮名:補足的に付く部分,例えば,活用する語の語尾,接頭・接尾語,助詞・助動詞,形式名詞(こと,ところ,もの,わけ等),補助動詞(あげる,ある,いる,する,なる,みる等)など. 片仮名:特別な表現を示す場合.例えば,外来語,外国の地名・人名,擬声語,動植物名,特殊な意味を表現する場合など. ●2.3.2 漢字の字数 ここでは,漢字の使用状況の参考として,参考までにいくつかの漢字集合の字数を示しておく. 常用漢字:2136字 一般の社会生活において、現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安を示す. *常用漢字は“常用漢字表”として内閣訓令・告示された(2010年).“訓令”とは,上級の官庁が下級の官庁に対して行う命令であり,訓令は官庁の業務を拘束する.これに対して,告示とは公の機関が必要な事項を公示する(一般に周知させる)ことである.簡単にいえば,告示とは国民にお知らせする,という意味である.したがって,こうした施策に従うか,従わないかは個々の判断となる.一般に,放送・通信・新聞などのジャーナリズムでは,固有名詞などの例外を除き,いくつか細部の修正を加える例もあるが,ほとんどそのまま受け入れてきた.書籍や雑誌などにおいても,大筋ではこれらの施策に従ってきているが,出版物の内容は一律なものではなく,表外漢字(“常用漢字表”に含まれていない漢字,表外字ともいう)は,出版物の内容によては,使用されている例も多い. 教育漢字:1026字 すべて常用漢字に含まれている.小学校の学年別に学習する漢字として“小学校学習指導要領”の“学年別漢字配当表”として示されている.児童書などでは,ルビを付ける漢字の目安としても利用されている. 表外漢字字体表:1022字 国語審議会より2000年に答申された漢字表であり,常用漢字とともに使われることが比較的多いと考えられる表外漢字(1022字)について,一般の社会生活において表外漢字を使用する場合の字体選択のよりどころを,印刷標準字体と簡易慣用字体(22字)として示している. 人名用漢字:745字,字体の字数としては863字(2017年) 子どもが出生したときは“出生の届出”をしなければならないが,その際に“子の名”に使用できる常用漢字以外の漢字(常用漢字の異体字も含む).一般の出版物では,人名だけでなく,一般の用語にも使用されている.また,字体の使用等で,一般の出版物における漢字の表記にも影響を与えている. 角川 新字源 改訂新版:約1万3500字(異体字を含む) 2017年にKADOKAWAより刊行された学習用を兼ねるハンディ版の漢字字典. JIS X 0208:6355字 当用漢字(常用漢字の前身),人名用漢字のほか,“行政情報処理用基本漢字”などの漢字表から選ばれた漢字.“この漢字集合は,主として,データ処理システムと関連する装置との間及びデータ通信システム間での情報交換用とする.”と説明されている. JIS X 0212:5801字 JIS X 0213:1万0040字 現代日本語文脈で,安定して用いられ,印刷された用例が確認できる,ことを前提に文字の収集が行われている.JIS X 0208に含まれている漢字はすべて含まれ,JIS X O212に含まれる漢字2741字を含む. AJ1–7:1万4670字(組合せ文字および記号付き漢字を除く) アドビが日本語フォントとして定めた文字集合.日本語フォント業界の実質的な標準となっている.微細な差異を含む異体字を多く含んでいる. ●2.3.3 漢字の異体字 字体とは,漢字の抽象的な点画の構成のあり方(文字の骨組み)をいう.また,“学” と“學”,“恵” と“惠”のように音(読み)と義(意味)は同じでありながら,標準的な字体と異なる字体のものを異体字とよんでいる.なお,標準的な字体のA以外に,義と音が同じ別の字体の漢字B, Cがあった場合,Aに対してB, Cだけを異体字という場合と,A, B, Cすべてを相互に異体字という場合がある. この異体字の問題と使用の状況について簡単にふれておく. 異体字は長い漢字使用のなかで,様々な要因により発生したもであるが,今日の日本で使用されている漢字については,以下が異体字の問題に大きく影響している. 1 “当用漢字字体表”の内閣告示(1949年) “当用漢字字体表”は,今日の“常用漢字表”の元となったひとつであるが,この表では,当用漢字(現在の常用漢字)の標準的な字体を定めた.その際に,異体字の統合,略体の採用,点画の整理などをはかるとともに,筆写の習慣,学習の難易をも考慮し,同時に,印刷字体と筆写字体とをできるだけ一致させることを建前として,字体の整理を行っている.その中には,従来活字として普通用いられていなかったもの(新しい活字字体)を定めたものがある.この新しく定めた字体を一般に新字体といい,従来の字体を旧字体とよばれている. その後,当用漢字は,1973年に常用漢字と名称を変え,95字の漢字が追加されている.この追加された漢字も“当用漢字字体表”の字体整理の考え方が踏襲され,整理されている. なお,人名用漢字も,2004年の追加以前については,“当用漢字字体表”の字体整理の考え方が踏襲され,原則として整理された字体が採用されている. 2 JIS X 0208の1983年の改正 この改正で,第1水準の表外漢字の例示字形(例示字体)に,“当用漢字字体表”の字体整理の考え方に従った字形が多数採用された. 3 “表外漢字字体表”の答申 2000年に“表外漢字字体表”が国語審議会から答申された.これでは,“当用漢字字体表”の考え方は採用されていない.従って,2004年に人名用漢字に追加された漢字,2010年の“常用漢字表”の改正で追加された漢字については,“当用漢字字体表”の字体整理の考え方は採用されていない(2010年の“常用漢字表”では,“表外漢字字体表”に含まれる漢字から154字が採用されている.その際に使用された字体は印刷標準字体であるが,例外として“曽・痩・麺”の3字の字体については簡易慣用字体が採用されている). *簡易慣用字体の“曽・痩・麺”の3字については,出版社によっては,“曽・痩・麺”の簡易慣用字体を採用する方針のところと,採用しないで,印刷標準字体である“曾・麵・麵”を採用するところとがある. こうしたことから,一般の出版物では,以下のような問題がある 1 常用漢字(および一部の人名用漢字) 通常は“常用漢字表”に示された字体を使用すればよい(2000年に追加されて一部の漢字を除く).ただし,以下の場合,“常用漢字表”に示された字体ではなく,従来の旧字体を使用する場合がある. 1)“当用漢字字体表”以前の出版物からの引用 “当用漢字字体表”以前に刊行された旧字体を使用した書籍等から引用する場合,かつては従来の旧字体を使用している原文に倣い,旧字体を使用する方針が多かった.しかし,最近は旧字体に慣れていない読者が増えていることもあり,特別な理由がない限り,原文が旧字体であっても,新字体(常用漢字表に示されている字体)に改めて引用する方針が一般的となっている. 2)固有名詞 人名には常用漢字の旧字体を使用している例がある.実際の出版物での扱いは様々で,従来の旧字体を使用している例と使用していない例がある. 2 “常用漢字表”に2000年に追加された一部の漢字 2000年に追加された漢字で,表外漢字表の印刷標準字体が採用された漢字は,表に示されている字体(印刷標準字体)を使用するのが原則であるが,印刷標準字体が使用されない例もある.  例:葛 嗅 遡 遜 溺 填 賭 謎 剥 箸 餅 頬 3 表外漢字 表外漢字は,一般の出版物では多く目にする.この際に,従来の字体を使用するか,“当用漢字字体表”の字体整理の考え方に倣った字体を使用するかが問題となる. 従来の出版の現場では,“当用漢字字体表”の字体整理の考え方に倣った字体を使用しないとする考え方が一般的であった.しかし,前述したようにJIS X 0208の1983年の改正で,例示字形(例示字体)に,“当用漢字字体表”の字体整理の考え方に従った字形が多数採用され,そしたフォントが作成され,さらにDTPでは,従来の字体の使用が困難であった時期があった.(こうした混乱もあり,“表外漢字字体表”の答申も行われた.) 最近の出版物では,従来の字体(表外漢字字体表に示された印刷標準字体)を使用している例が多いが,表外漢字字体表で簡易慣用字体,“3部首許容” として示されている字体や,表に示されていない字体を使用している例も,かなり存在する(漢字によっては,印刷標準字体を使用するのにやや手間をかけないといけないという事情もある).なお,前述したように初期のDTPでは,印刷標準字体にするのが,かなり困難な時期もあったが,今日では,印刷標準字体を使用できる技術的な環境は整ってきている. 例:溢 噂 摑 騙 俠 噓 迂 祇 飴 なお,異体字では,Unicodeでそれぞれにコードポイントがあるものと,コードポイントがなく,別の仕組み(IVSなど)を使用したいと区別できないものがある. 常用漢字でコードポイントがある例(右側が旧字体)  悪(U+60AA) 惡(U+60E1)  為(U+70BA) 爲(U+7232)  営(U+55B6) 營(U+71DF)  羽(U+7FBD) 羽(U+FA1E)  益(U+76CA) 益(U+FA17) 常用漢字で従来の字体のコードポイントがなく,IVSなどを利用しないと区別できない例  悦(U+60A6)  翁(U+7FC1)  謁(U+8B01)  違(U+9055)  餓(U+9913) 表外漢字でコードポイントがある例(左が表外漢字表に示された印刷標準字体)  俠(U+4FE0) 侠(U+4FA0)  嘔(U+5614) 呕(U+5455)  摑(U+6451) 掴(U+63B4)  檜(U+6A9C) 桧(U+6867)  鶯(U+9DAF) 鴬(U+9D2C) 表外漢字でコードポイントがなく,IVSなどを利用しないと区別できない例  迂(U+8FC2)  晦(U+6666)  祁(U+7941)  巷(U+5DF7)  酋(U+914B) ●2.3.4 平仮名と片仮名 今日の平仮名の表記は,1986年に内閣告示された“現代仮名遣い”がよりどころとされている.片仮名は外来語に使用され,その表記は,1991年に内閣告示された“外来語の表記”がよりどころとされている. 片仮名には,字幅を半角にした文字がある.しかし,この文字は,文字の幅だけを半分にしたもので,字形としてのバランスはよくない.今日では,文字サイズの変更が可能なので,この半角の文字を使用しなくてもよく,使用は少なくなっている. 平仮名と片仮名と片仮名には,拗促音などを表示するために小書きした仮名がある.かつては拗促音は小書きにされないこともあった.1946年に告示された“現代かなづかい”で,“ 拗音をあらわすには,や,ゆ,よを用い,なるべく右下に小さく書く.促音をあらわすには,つを用い,なるべく右下に小さく書く”とあることから,小書きにする用例が増えている.(“現代かなづかい”は,その後に改訂され“現代の仮名遣い”となった). 法令では,その後も小書きにされなかったが,1988年より小書きされるようになった. なお,小書きの仮名は,平仮名,片仮名ともに,縦組では文字の外枠の右寄りで天地の中央の位置,横組では下寄りで左右中央の位置に字面を配置する(図〓参照).今日では,この処理は自動的に変更されるようになっている. *外来語の片仮名表記では長音を示す場合,“ー”(音引)が使用される.この音引は縦組と横組で字形が異なるが,この処理は自動的に変更されるようになっている. *平仮名で長音を示す場合,“現代の仮名遣い”では,“おかあさん”のように長音になる仮名の母音を添えるのが原則である.しかし,平仮名でも音引を用いた表記例も見かける. *長音を示す方法として“~”(波形)や“〰”(WAVY DASH)を,1つだけでなく複数使用した例もある.なお,音引の行頭への配置を禁止する処理方針もある.この方針を採用する場合は,同様の機能を果たす,“~”(波形)や“〰”(WAVY DASH)も行頭に配置することを禁止とする必要がある. ●2.3.5 アラビア数字 数字の表記に使用する文字は,従来は,縦組では漢数字,横組ではアラビア数字の使用が原則であった.縦組でのアラビア数字の使用は,特別な場合に限られていた.しかし,今日では縦組でも,アラビア数字の使用が徐々に増えている. なお,ラテン文字を使用するローマ数字は,箇条番号その他に使用される例がある.小文字のローマ数字は,書籍の前付を別ノンブルする場合によく使用されている. *前付を別ノンブルにするのは,活版印刷では,ノンブル(ページ番号)の修正に手間がかかるが,前付のページ数の確定が遅れ,そのために本文のノンブルの修正も多いからである.また,別ノンブルの場合,前付と本文に同じアラビス数字を使用すると,活版印刷では切り離された鉛版を印刷機に組付ける際に誤る可能性があったことによる.今日では,その必要性は少なくなっているが,慣行としてとして使用されている. アラビア数字を使用する場合,位取りの“万”などの単位語の使用が問題になる.一般には4桁ごとに万・億・兆の単位語を使用しているが,理工学関係では,3桁ごとにコンマを入れる(または四分アキに「する)方式が採用されることがある.また,アラビア数字で小数点を表示する場合,日本語組版ではピリオドを使用する.ただし,縦組で文字を正常な向き(縦向き)でアラビア数字を配置する場合の小数点には中点を使用する(図〓の〓の例ように中点の前後のアラビア数字との字間はベタ組とするのが望ましい). *位取りとコンマを併用する表記例もあるが,そこまで行う必要はないと,いえよう. アラビア数字を使用する場合,縦組,横組にかかわらず二分の字幅(またはプロポーショナル)のアラビア数字を使用するのが原則である.なかには横組で全角のアラビア数字を使用している例もあるが,これは出来るだけ避ける(フォントによってはアラビア数字の字間が空いてしまうからである).ただし,縦組で1字1字縦向きに配置する場合は,全角のアラビア数字を使用する例が多い. *日本語組版で二分の字幅のアラビア数字がよく使用されてきたのは,アラビア数字と和文文字の間を四分空ける方式が採用されており,この場合は,二分の字幅であれば,奇数桁のときは,その字詰め方向に占める幅が整数倍となり,行の調整処理が避けられたからである. *横組で,1桁に限り全角のアラビア数字を使用する方法がある.これは手動写真植字において,1桁のアラビア数字の処理がやや面倒であったからである.したがって,コンピュータで処理する今日では,その必要はない.また,事務用のドキュメントでもアラビア数字を使用することも,似た事情があり,和文文字とアラビア数字の字間処理を行わないというからきている.その限りのことと考えた方がよい. アラビア数字では,字幅を狭くして使用する場合もあり,従来から三分角や四分角のアラビア数字も使用されていた.OpenTypeでは,こうした数字も準備されており,行間に配置する注番号が3桁になる場合など,特別な場合に利用できる. アラビア数字には,ライニング数字とオールドスタイル数字(ノンライニング数字)があるが,日本語組版の本文では,オールドスタイル数字を使用する例もあるが,欧文の小文字をとそろえる必要性が少ないので,ライニング数字を使う方法が一般的である. ●2.3.6 ラテン文字と和文文字との混植の問題点 2.3.6.1 和文に挿入されるラテン文字と組版処理の問題 日本語組版の中に挿入されるラテン文字には,以下のような例がある. 1文字 例:ビタミンA 2文字の記号 例:単位記号のcmは 小文字の単語 例:傍注はsidenoteと 複数の単語列 例:にはhair spaceを用いる 大文字の頭字語 例:OECDはOrganisation for Economic Co-operation and Development(経済協力開発機構)の略称である その他,文章やP. A. サムエルソンなどの人名の表記でも使用されている. *人名表記においてラテン文字の後ろの省略符は,横組ではピリオドを使う場合が多いが,縦組では,一般に省略符は付けないで,区切りの中点とする場合が多い.横組でもこれに習い,省略符は付けないで中点のみとする例もある. *日本語組版では,ラテン文字以外にギリシャ字は1字の記号,あるいはギリシャ語の単語などに使用されている.キリル文字はロシア語の単語,人名,書名などに使用されている.その他の世界の言語を解説した語学書等で,日本語とともに他の言語の文字が使用される例がある. 和文文字とラテン文字は,文字設計の考え方が基本的に異なっている.つまり,和文文字とラテン文字はデザインの面からみると異質な文字である.それを組み合わせる組版では,縦組における文字の配置方向以外に次のような問題が出てくる. 1 ラテン文字と和文文字を混植する場合,どのようなフォントを選択したらよいのか 2 横組でラテン文字と混植する場合(縦組で文字を横に回転した場合を含む),和文文字とラテン文字の行送り方向の位置をどこにそろえるか. 3 行の中に挿入されるラテン文字と和文文字との字詰め方向の間隔(字間)は,どのように処理したらよいのか. 4 縦組のラテン文字を挿入する場合,どのように配置したらよいのか(この問題は次節で解説する). 2.3.6.2 和文文字と混植するラテン文字のフォント ラテン文字のフォントは,和文文字のフォントの選択にもよる.まず,和文文字の本文によく使用される明朝体とラテン文字の混植におけるフォントの選択について解説する. 和文文字の明朝体とラテン文字の混植では,以下の事項を考慮するとよい. 1 画線の太さが変化している(一様でない)和文文字の明朝体とそろえ,ラテン文字はローマン体を選ぶ. 2 文字の画線の太さも似たものを選ぶ(和文文字のブロックの濃度とラテン文字のブロックの濃度をそろえる). 3 明朝体では,平仮名が読者に対し見た目の印象を変え,またフォントの特徴も出る.そこでラテン文字も平仮名とのバランスを考慮し,その線のカーブが似たものを選ぶ.例えば,ボドニーのように直線的な画線のフォントを選択しない(漢字だけだと似ている感じはあるが,仮名とのバランスはよくない). *明朝体の仮名は漢字の明朝体とは画線の設計がやや異なる.その意味で仮名は明朝体とはいえないかもしれないが,漢字と合う仮名が作製されてきた. 4 字面の大きさを考える.通常は混組に使用されるラテン文字は小文字が多くなるので,和文文字とラテン文字の字面について,その大きさのバランスを考慮する.そこで,ラテン文字はできるだけ“x-height”の大きなものを選ぶ. *和文文字よりラテン文字の文字サイズを大きくする方法もあるが,通常は,同じサイズでよい. 5 和文フォントの文字集合にはプロポーショナルのラテン文字を含んでいる例が多い(以下,付属書体という).そこで,ラテン文字に,この付属書体を選ぶ方法と,別のラテン文字のフォントを選ぶ方法がある.特にデザインを考慮する場合以外は付属書体を選ぶ. *和文文字と組み合わせるラテン文字の条件は前述したが,付属書体は,そのことを考慮して設計されていると思われる.その意味では,通常は,この付属書体を選べばよい.別のフォントを選ぶ場合,専門的な知識や経験が要求されるので,その条件がある場合,ラテン文字のフォントを選ぶ方法が選択できる. 和文文字の(ある程度の画線の太い)ゴシック体との混植について,少しだけ補足しておく.和文文字のゴシック体との混植では,以下の2つの方法がある.  a ラテン文字のサンセリフと混植する  b ラテン文字のローマン体で画線の太いボールドと混植する この場合,aは画線のデザインと画線の太さをそろえているのに対し,bは画線の太さだけをそろえている.和文文字でもゴシック体の漢字とアンチック体(画線を太くした明朝体風の仮名だけの書体)の仮名を組み合わせる例があり,それなりにバランスがとれているので,bの選択もありえる.通常は,aの方が望ましいといえよう. *ゴシック体の漢字とアンチック体の仮名の組合せは活字組版時代にも行われていた.ただし,その当時は仮名のゴシック体のデザインに優れたものがなかったので,やむなくアンチック体を選んだことによる.今日では漫画の台詞では積極的にゴシック体の漢字とアンチック体の仮名の組合せが選ばれている.これは漢字と仮名との差異をある程度とることにより,漢字という語句のまとまりをはっきりさせるという効果を考えたものと思われる. 2.3.6.3 和文文字とラテン文字の字詰め方向の字間 フォントにもよるが,ラテン文字の字面と文字の外枠との字詰め方向の空白(サイドベアリング)は,和文文字より狭いのが一般的である(1字1字の独立性がややある和文文字と主に単語を単位に読んでいくラテン文字との差異による).そのような和文文字とラテン文字をベタ組で配置すると,和文文字とラテン文字の字間が詰まった印象を与える.そこで,活字組版時代には,和文文字とラテン文字の字間として四分アキにしていた.今日では,この和文文字とラテン文字の字間は,フォントにもよる.今日の和文フォントでは,文字の外枠一杯にデザインされたものもあり,ベタ組でもよい例もある.一般的には,四分アキを厳守する必要はないが,適度のアキを確保するのが望ましい. *混植のパターンもラテン文字1字の場合,単語の場合,複数の単語の場合,文字種もアラビア数字,小文字,大文字といったように各種のパターンがある.一律の処理を前提にした場合,個別ケースでは多少のバランスを欠く配置となるケースも出るが,それはやむを得ないことであろう. 2.3.6.4 和文文字とラテン文字の行送り方向の位置 和文とラテン文字の行送り方向の位置については,活字組版時代から意見の相違があり,共通の認識に到達することは難しい面があった.なぜなら,ラテン文字列が,大文字だけ,小文字だけ,しかも短字(a,c,eなど)だけと条件がそろっていれば,ある程度の正解はでてくる.小文字の短字を和文文字と合う位置にすると,大文字だけの頭字語とのバランスを壊す.逆に大文字だけの頭字語(この使用は日本語組版では多い)と合わせると,小文字とのバランスを壊す.また,位置を変えるとアッセンダーとデッセンダーがある小文字が行間にはみ出してしまうかもしれない. そこで,以下の方法が考えられる. 1 和文文字とラテン文字の文字の外枠の位置をそろえる. 2 ラテン文字のベースラインを和文文字の外枠,横組でいえば下端,縦組でいえば左端にそろえる. 3 和文文字とラテン字の位置を適切な位置に調整する. 活字組版では,長い間,1の方法で処理してきた.多少は不満が残るがやむをえない,という考え方である.2の方法は,特に縦組でラテン文字が左側によりすぎるという印象を与え,また,デセンダーの部分が行間にはみ出す.3の方法は,調整量の設定について,どのような文字列を想定するかにもより,その調整は簡単ではない.機械的な処理をする場合は,ある程度の線で妥協しないといけない.見出しなど文字列の内容が決まっている場合は,利用価値がある. このように縦組におけるラテン文字との混植では,いろいろと問題がでる可能性がある.そこで,ラテン文字の使用が多い場合は,組方向を横組に限定する方法も考えられよう. ●2.3.7 縦組の中に挿入されるアラビア数字とラテン文字 アラビア数字とラテン文字を縦組に配置する場合,3つの配置方法がある(図〓参照).なお,以下では正常に文字が読める配置を“縦向き”に配置といい,これを90度回転して配置する場合は“”横転して”配置という.  a 1字1字を縦向きに配置  b 横転して配置.  c 縦中横で縦向きに配置  d 図版のように領域を作成,あるいは1ページを当てて,そこに横組にしたテキストを配置 アラビア数字を縦組で使用する場合は,多くは縦向きに配置する.1桁はよいとして,2桁以上が問題となる.一般に図〓参照のように配置する例が多い.2桁はbの縦中横,3桁以上は,aの1字1字を縦向きして配置する.なお,範囲を示す場合や,書籍の書誌を示す場合等では,bの横転して配置する例もある. ラテン文字の場合,文字を縦向きに配置するaの方法は,単語などの場合,1文字1文字読むことになり,ラテン文字は一般に単語単位で読むということを考えるとあまり好ましくない.それを考慮すれば,文字が横転して,やや読みにくいという問題があるが,bの横転させる方法となる.そこで,ラテン文字の状況に応じて配置配置方法を選ぶ.以下のような方法が考えられる. 1 ラテン文字が1字の場合は,aの縦向きにする 2 ラテン文字が2文字程度で,文字列の長さがあまり長くない(行間にはみ出さないか,わずかにはみ出す)場合は,cの縦中横で縦向きにする 3 ラテン文字の単語または複数の単語列の場合は,横転するbとする 4 ラテン文字の大文字の頭字語は,aの縦向きにする 5 ラテン文字の単語や複数の単語列は場合は,cの横転させる 6 ある程度の分量のある文章の場合はd(または全体を縦組にしないで,横組だけに限定する) *横転して配置したラテン文字などを校正する場合,校正刷を90度回転させて点検作業を行えと,きつくいわれている(校正では正確さが要求されるため).これを逆に考えれば,回転した文字を普通に読むのであれば,横転した文字が短いものであれば,それほど無理なく読むことができる,ということを示している. *頭字語でも,特に省略していない形を同時に示す場合などでは,bの横転して配置する例もある.また,語間が入るFOOD ACTION NIPPON(農水省),つなぎ符号の入るNDL–OPAC(国会図書館書誌カタログ),1語として読むJASRAC(日本音楽著作権協会),字数の多いCOMECON(経済相互援助会議)といった場合は,横転させるbとする方法もある.また,fMRI(機能的磁気共鳴画像法)のように小文字を含んだ例でも,aとすると,字間を調整しないと,小文字と大文字の字間が乱れるという問題があり,bにする方法もある. *Windows,Web,iPhoneなど,見慣れた単語はaとする例もある.ただし,先頭文字が大文字,あるいは長字の文字を含む単語の場合,aにすると,特に字間を調整しないと字間が乱れる. *ラテン文字に添え字やアポストロフィが付く場合,縦向きにするには縦中横か1字1字縦向きにする.1字1字縦向きにする場合,添え字やアポストロフィも縦向きになるが,これはバランスがよくない.すべて横転して配置するとよい. *人名のラテン文字1字の省略語は,省略を示すピリオドは使用しないで一般にaとする.ピリオドを使用する場合は,縦中横で処理するか,ラテン文字の直後にピリオドを配置することになるが,いずれもバランスはよくない. アラビア数字やラテンを縦組で縦向きに配置する処理は,次の方法がある. 1 全角のアラビア数字やラテン文字を使用する. 2 縦中横処理の書式を設定する. 3 プロポーショナル(または字幅の二分)のアラビア数字や,プロポーショナルのラテン文字を使用し,書式を設定して1字1字を縦向きに配置する. 縦組において全角のアラビア数字やラテン文字を使用すると縦向きに配置される.しかし,プロポーショナル(または字幅の二分)のアラビア数字や,プロポーショナルのラテン文字を使用した場合はデフォルトでは横転した配置となる.そこで,これらの文字を使用し,縦向きにする場合は,縦中横処理を含めて書式での設定が必要になる. *全角のアラビア数字やラテン文字を使用するのは,活字組版において縦組で1字のプロポーショナルのアラビア数字やラテン文字を正立させて配置するのが面倒であったからである.今日では,その面倒さはないと考えてよい.なお,横組では全角のアラビア数字やラテン文字にする理由はない.全角のアラビア数字やラテン文字にすると字間が空いてしまう. *縦組では,縦向きの場合は全角のアラビア数字を使用し,縦中横や横転した配置にする場合は二分の字幅(またはプロポーショナル)とすると,使用すフォントによっては字形にある程度の差異が出ることがある.アラビア数字に日本語フォントの付属書体を使用すれば,字形の幅がやや異なる程度で,差異はあまり目立たない.これはラテン文字の場合でも同様な問題が出る. *全角のアラビア数字やラテン文字を使用した場合,組方向を横組に変更するときは,データを機械的にプロポーショナル(または二分の字幅)の文字に修正するか必要になる.最初からプロポーショナルの文字を使用し,縦向きに配置する部分は書式で設定しておくとよい. 横組でアラビア数字を配置する場合,その字間では2行にわたる分割は禁止されている.アラビア数字では漢数字のように単位語を使用しないで,位置で数字の位取りを示すからである.また,ラテン文字の単語も,そのまとまりで読むので原則として2行にわたる分割は禁止されている. これに対し,縦組でアラビア数字を縦向きに配置した場合,横並びしていないことから2行にわたる分割を認めている。ラテン文字でも縦向きに配置した場合,特に頭字語で1字1字読むことが多く,2行にわたる分割を認めている.しかし,縦向きに配置したアラビア数字やラテン文字の場合,そのまとまりを重視して,分割禁止としている例もある. 横組でアラビア数字やラテン文字を挿入する場合,和文との字間を四分アキにする方法がある.しかし,縦組で縦中横,または1字1字縦向きにして配置する場合は,四分アキにする必要はない.文字の外枠に対し,ラテン文字の字詰め方向のアキと行送り方向のアキには違いがあるからである. ●2.3.8 約物の種類 約物とは,日本語組版で使用する語句や文章の区切り,つながり,強調などを示す記述記号類の総称である(その他の記号類を含めて約物と呼ぶ場合もある). 日本語組版で使用する約物には,その使用方法から,以下のような種類がある. 1 区切り符:語句や文章の区切り,つながり,文章の意味を示すために付ける.句読点,中点(・),疑問符(?),感嘆符(!),コロン(:),セミコロン(;),斜線(/)など. *句読点は,縦組では読点(、)と句点(。)が使用されるが,横組では,コンマ(,)とピリオド(.),コンマ(,)と句点(。),読点(、)と句点(。)を使用するという3つの方式がある.公用文では,以前はコンマ(,)と句点(。)であったが,文化審議会国語分科会による2021年の“新しい「公用文作成 の要領」に向けて(報告)”で,”読点(、)と句点(。)を原則とすることに変更された.ただし, 横書きでは事情に応じてコンマも使用できるとの説明がある.コンピュータの文書作成のデフォルトが読点(、)と句点(。)であり,この方式が増えている結果であろう. 2 括弧類:文章中の語句や一部の文をくくる,箇条書き・見出し・注記などの番号を囲む場合に使用される.かぎ括弧や小括弧など,いろいろなものがある.特に引用のために使用する括弧類は,引用符と呼ばれている. *括弧類は一般に前後で囲むが,箇条書き・見出し・注記などの番号では,番号の後ろのみに使用する例は,横組で多い.また,長い複数の段落を含む文章を引用する場合,各段落の先頭に括弧類を付けるが,途中の段落の最後の括弧類を省略する方式がある. 3 つなぎ符:範囲を示す,語と語をつなぐ,欧文の音節を示す記号.波ダッシュ(~),ダッシュ(―,–),ハイフン(‐),リーダ(…)など. 4 参照符:アステリスク(*)など注記,参照箇所を示す記号. その他,記号文字(しるい物ともいう)には,学術記号(数学記号,生物学記号など),商用記号などがある. ●2.3.9 括弧類の用法 括弧類は,多くの種類があり,ある程度の用法は決まっている.使用例の多い括弧について主な用法を以下に示す. かぎ括弧:「」 —会話を示す —引用文を示す —強調や意味を限定する語句を示す —論文名を示す —文中で見出しを示す など 二重かぎ括弧:『』 —かぎ括弧でくくる引用中で更にくくる必要がある場合 —書名,雑誌名を示す など *かぎ括弧を入れ子にする場合は,以下のような方法がある.  「『 』」または「「 」」 なお,「「 」」の方式を採用する場合,内側のかぎ括弧に小カギとよばれる行送り方向の線の長さを短くした字形のものがあるので,これを使用した例もある.引用する元の文で「」と『』を使用していた場合,「」と『』の2つとも小カギを使用すれば,原文のまま引用できる. 小(丸)括弧:() —語句の後ろに補足説明,関連情報を示す —文中での補足説明を示す —箇条書き・見出し・注記などの番号をくくる など *小括弧は,出版の現場ではパーレンと呼ばれことが多い. *小括弧を入れ子にする場合は,以下のような方法がある. ([{ }])または((( ))) すみ付き括弧:【】 —強調したい語句を囲む —見出し番号や見出しそのものをくくる *最近は使用がやや増えている.文化審議会国語分科会の“新しい「公用文作成 の要領」に向けて(報告)”でも,その用法が記述されている. ブラケット:[] —引用文中で引用者の注記・補足を示す —翻訳書で翻訳者の注記・補足を示す —箇条書きの番号をくくる など きっこう括弧:〔〕 —引用文中で引用者の注記・補足を示す —翻訳書で翻訳者の注記・補足を示す *きっこう括弧は,ブラケットに似せて縦組用に作成されたものであり,主に縦組で使用するものであるという考え方もある.しかし,今日では横組でも使用されている.用法もブラケットと似ているが,翻訳書で,ブラケットは原著者の補足,きっこう括弧は翻訳者の補足というように使いわけされている例もある. コーテーションマーク:`“` ’”’または“`“ ”’” —横組で会話を示す —横組で引用文を示す —横組で強調や意味を限定する語句を示す —横組で論文名や書名・雑誌名を示す —横組の文中で見出しを示す など このようにコーテーションマークは,主に横組で使用され,かぎ括弧や二重かぎ括弧を使用しないで,その代わりとして使用する.また,横組で,かぎ括弧は使用するが,言葉の意味を特別に示すためにダブルコーテーションマークでくくるという用法もある.このような用法は,縦組ではダブルミニュート(〝〟)を使用する. *横組でのかぎ括弧のバランスがよくないとの考え方もあり,横組での使用はそれなりにあった.しかし,コンピュータでの文書作成が一般化し,入力にやや面倒なコーテーションマークの使用は減っている. ●2.3.10 日本語の約物と欧文の約物 日本語組版では,日本語独自の約物以外に英語など外国語由来の約物が使用されている.外国語由来の約物の多くは,仮名や漢字とそろえた字幅が全角のものが使用されている. 1 日本語の文脈で主に使用される約物 読点(、),句点(。),疑問符二つ(⁇),感嘆符二つ(‼),疑問符感嘆符(⁈),感嘆符疑問符(⁉),二重ハイフン(二分二重ダッシュ)(゠),二点リーダ(‥),波ダッシュ(〜) ダブルミニュート(〝〟),二重パーレン(二重括弧)(⦅⦆),きっこう括弧(亀甲括弧)(〔〕),二重きっこう括弧(〘〙),山括弧(〈〉),二重山括弧(《》),かぎ括弧(「」),二重かぎ括弧(『』),すみ付き括弧(【】),すみ付き括弧(白)(〖〗) *半角片仮名として,半角の読点(、,U+FF64))と句点(。,U+FF61)がある. *二分二重ダッシュ(゠,U+30A0)は,JIS X 0213では二重ハイフンの名称も掲げている,二分二重ダッシュは複合性の区切りに使用されている.別にダブルハイフン(⹀,U+2E40)がある. *波ダッシュは,範囲や経路を示すほかに,長音記号,語句省略の代用記号としても使用されている.なお,波ダッシュに似たものに,SWUNG DASH(U+2053)がある. *かぎ括弧と二重かぎかっこには,行送り方向の線の長さを短くしたものが使用されている.“小かぎ”とよばれている.括弧を入れ子にする場合に使用されている. *ダブルミニュートは,縦組で主に使用される括弧類であるが,横組でも使用されている.この横組での文字の方向は,いろいろな処理が行われている. *山括弧には,いくつか似た記号があるので,混用に注意する. *二重山括弧はギュメ(U+00AB«,U+00BB»)とは異なる.ギュメは欧文文脈で使用される. 2 外国語の文脈(欧文文脈)で主に使用される約物 逆疑問符(¿ ),逆感嘆符(¡),ハイフン(-),ギュメ(U+00AB«,U+00BB») *ハイフンには,互換性を維持するためにハイフンとマイナスの複数の図形文字に使用するハイフンマイナス(-,U+002d)がある. *日本語の語句のつなぎ符号としてハイフンの前後を空け全角としたハイフンを使う例もある. 3 日本語の文脈にも外国語の文脈にも使用される約物 3.1 UNICODEでコードポイントが複数あるもの コンマ(,),ピリオド(.),中点(・),コロン(:),セミコロン(;),斜線(/),逆斜線(\),小括弧(パーレン)(()),波括弧({}),ブラケット([]) *中点には,全角の中点(・)以外にラテン文字のMIDDLE DOT(·,U+00B7)と半角カタカナ(・,U+FF65)がある. 3.2 UNICODEでコードポイントが1つしかないもの 二分ダーシ(–),全角ダッシュ(―),シングルコーテーションマーク(‘’),ダブルコーテーションマーク(“”),三点リーダ(…) *これらは,和文文脈か,欧文文脈かで使用する字形または字形の位置が異なる場合がある.なんらかの処理が必要になる.たとえば,シングルとダブルのコーテーションマークは,ラテン文字文脈ではプロポーショナル,和文文脈では,原則として二分のアキを持った全角の字幅の文字を使用する. *二分ダーシは日本語の文脈では,アラビア数字で範囲を示す場合や,図2–3のように図版番号のつなぎなどに使用される.“仁科–クラインの式”といった使用例もある.また,語句のつなぎ符号として,二分ダーシの前後を四分アキ(字幅を全角)にして使用する例もある. *二分ダーシは,日本語の文字コードとしては,JIS X 0213で採用されたもので,DTPでは,使用がむつかしかった.今日でも,入力が簡単ではなく,ハイフンと混用される例も多い.そこで,二分ダーシとハイフンは,どちらでもよいと説明した本もある. *二分ダーシは,アラビア数字の合わせ,ベースラインとキャップラインの中央に配置するものと,小文字に合わせエックスハイト(ベースラインとミーンラインの間)の中央に配置するものとがある.日本語文脈でのアラビア数字は,一般にオールドスタイル数字(ノンライニング数字)が使用されるので,二分ダーシはベースラインとキャップラインの中央に配置する字形が望ましい. *全角ダッシュ(―)は,和文中では,文字の外枠の中心である.欧文の場合は,ベースラインとミーンライン(またはキャップライン)の中心と考えられる.なお,全角ダッシュは,日本語組版では2倍ダーシにも使用される.この場合,2つの全角ダッシュの字間が空いてしまうことがあるので注意する. *三点リーダには,他にVERTICAL ELLIPSIS'(U+22EE)とPRESENTATION FORM FOR VERTICAL HORIZONTAL ELLIPSIS(U+FE19)がある. *シングルコーテーションマークは,U+2018とU+2019以外にU+0027(APOSTROPHE)がある.U+0027は,アポストフィおよびシングルコーテーションマーク(始めと終わりを区別しない)の3つ複数の文字の代替表現に使用されていた.したがって,今後は,コーテーションマークとしてはU+2018とU+2019を使用するのが望ましい. *ダブルコーテーションマークは,U+201CとU+201D以外U+0022(QUOTATION MARKU)がある.U+0022は,ウムラウトおよびダブルコーテーションマーク(始めと終わりを区別しない)の3つ複数の文字の代替表現に使用されていた.したがって,今後は,ダブルコーテーションマークとしてはU+201CとU+201Dを使用するのが望ましい. *三点リーダは,語句や文の省略を示す.ピリオド3つで,ピリオドの字間にスペースを入れて省略を示す方法もある.なお,単語の一部を省略する場合はピリオドは1つである.したがって,和文用の三点リーダは文字の外枠の中心であるが,欧文用はベースラインにそろえる.フォントの選択で区別する. ●2.3.11 約物の字幅とアキ 日本語組版で字幅が全角の仮名と漢字を用い,ベタ組にする場合,行長を文字サイズの整数倍として設定する.こうした場合の句読点などの原則的な配置方法を図〓に示す.なお,図〓の右側に示す正方形の枠は,行に全角の文字が整数個並ぶ場合の文字の外枠を示す(以下,同様). 図〓に示すように次のような場合,句読点などの占める字詰め方向の領域は異なる. —単独で漢字や仮名の間に配置する場合 —連続して配置する場合 —行頭や行末に配置する場合 JLReqでは,句読点などの字幅を半角(二分)として説明している.これはJIS X 4051にならったものである.この考え方は,実際のフォントデータの字幅がどのようになっているかとは無関係であり,あくまで説明の前提としての考え方である.図〓に示した配置例について,字幅を半角とする考え方による説明例を図〓に示す.なお,図〓における約物をくくった長方形(正方形でない)の白い枠は半角と考える句読点,括弧類および中点類の文字の外枠を示し,グレーの枠はアキ量を示す(次の図〓も同様). 実際のフォントデータの字幅としては,句読点,括弧類および中点類の字幅を全角としている例がある.句読点,括弧類および中点類の字幅を全角とすれば,図〓の説明は,図〓のようになる. 実際のフォントデータの字幅が全角である例も多く,このドキュメントではJLReqの説明方法を改め,原則として句読点,括弧類および中点類の字幅は全角としている説明を行うことにする. *約物,特に括弧類のアキを検討する場合,それらの字形も同時に考えていかなければならない.アキを含めて全角にする場合,あるいは和文文字をプロポーショナルな配置にする場合等に応じた字形にする必要がある.しかし,このような検討は,これまであまり行われてこなかった.なお,活字組版時代の括弧類に比べ,今日の字詰め方向の括弧の字形が浅く(狭く)なったように感じている. ●2.3.12 異なる文字サイズの約物の連続 約物が連続した場合,文字サイズが異なる場合はどう処理したらよいのだろうか.約物間のアキとして,基準にするアキは,前の文字サイズか,後ろの文字サイズか,それとも,平均かという問題である.現行のJLReqでは,“」”と“(”の字間は,前の文字,つまり“」”の文字サイズの二分アキと規定している.(ここでは,JLReqとの連続性を顧慮し,句読点,括弧類および中点類の字幅を二分を原則として説明を行う.) *現行のJLReqの前の文字を基準とする考え方は,「……」(……)とあった場合,後ろの括弧の文字サイズを小さくするのが書籍では一般的であることによる.活字組版では,行中に,その段落で使用している文字サイズより大きなサイズにすることは,かなり面倒であり,異なる文字サイズの文字を挿入する場合,一般に小さくしていたことの反映である. 今日では行中に,その段落で使用している文字サイズより大きなサイズの文字を挿入することは簡単にできる.こうした事情も考慮した組版処理の方法,つまり,どんな場合でも適用できる方法を考える必要がある.また,約物の前後のアキが二分でない場合も含めた処理方法としている. 約物が連続し,字間の調整を必要とするケースは,大きく分けると,以下の3つがある. A 句読点や括弧類(以下,句読点と括弧類を併せて括弧類等という)が連続する場合 B 中点類と括弧類等が連続する場合 C 全角スペースと括弧類等が連続する場合 BとCは,原則として,中点類や全角スペースの前後に配置される括弧類等の後ろまたは前にあるアキを削除して配置すればよいので,文字サイズ等の差異があっても問題とはならない.なお,プロポーショナルの中点類でアキがない場合も,同様に,その前後に配置される括弧類等の後ろまたは前にあるアキを削除すればよい. 問題はAである.ただし,Aは以下の4つのケース(実例が考えられるのはa, b, cの3つ)があるが,問題となるのはaのケースだけである.(なお,句読点は“終わり”に含める.) a 終わりの括弧類等の後ろに,始めの括弧類等が連続 b 始めの括弧類等と,始めの括弧類等が連続 c 終わりの括弧類等と,終わりの括弧類等が連続 d 始めの括弧類等の後ろに,終わりの括弧類等が連続 dは,実例はほとんどない(あれば2つの括弧類等の字間をベタにすればよい).bとcは,前または後ろの括弧類等のアキを削除すればよいので,文字サイズ等の差異があっても問題とはならない. *以上のB, CとAのaは,アキとアキが連続するので,見た目で,規定のアキより大きくなってしまう.そこで,調整が必要になる. これに対し,Aのb, cは,理由が異なる.句読点の前,括弧類の内側は,それに連続する文字との接続の関係が強い.そこで句読点の前,括弧類の内側にはアキを入れることは,特別の場合(ルビのはみ出しが多い等)を除き,アキがあるのは望ましくない.そこで,行の調整処理の空ける調整でも,調整の優先順位をできるだけ低くしている.Aのb, cでは,前または後ろに配置する括弧そのものがアキを持っているので,句読点の前,括弧類の内側は空けないという原則を実現するために調整が必要になる. 以下は,aに限り,その処理を考えてみる.aの場合は,前または後ろの括弧類等との間にアキを確保する必要があり,文字サイズ等の差異があった場合,そのアキの大きさが問題になる. *aのアキを詰めない処理(全角アキとなる)は,bやcの処理を行わない(二分アキとなる)と比べると,いくぶん見た目のバランスの悪さは低いと考えられる.ベタとアキのある場合の差異は誰でもが気がつくが,アキの大きさは,注意しないと気がつかないことでもある.例えば,bやcの調整は行っている(ベタにする)が,aの調整は行わないで,全角アキを許容している書籍もある.(このことからいえば,aの調整したアキの量は,ある意味,許容範囲があるといえよう.) 文字サイズ等が異なる場合のaの調整では,前後に配置する括弧類等の後ろおよび前にある括弧類等のアキ(一般に二分)を削除,その間のアキを決める必要がある.このアキを決める基準としては,以下のような方法が考えられる. *プロポーショナルの括弧類等で,アキを確保しない括弧類等を含む場合は,字間の調整は行わない.両方ともにアキがない場合はベタとなり,片方にアキがない場合は,アキのある括弧類のアキをそのまま維持する. 1 前に配置する括弧類等の文字サイズを基準とした二分アキ,または,前に配置する括弧類等の文字の後ろにあるアキ(例えば三分)とする.つまり前に配置する括弧類等を基準にする.(この方式は,前述したようにJLReqやJIS X 4051で規定している方法である.) 2 その段落の文字サイズの二分とする.前後に配置する括弧類等の文字の後ろにあるアキが小さい場合(例えば三分)も同様とする. 3 前に配置する括弧類等の後ろのアキの1/2,および後ろに配置する括弧類等の後ろのアキの1/2の合計とする.例えば,括弧類等の前後のアキが二分で,前の文字サイズが10ポイント,後ろの文字サイズが12ポイントの場合は,アキは5.5ポイントとする.文字サイズは両方とも12ポイントであるが,片方の括弧類等のアキが二分で,もう一方が三分の場合は,6/2+4/2=5の計算から5ポイントとなる.両方の括弧類等のアキの平均をとるという方法である. 4 文字サイズの大きい方または括弧類等のアキの大きい方を基準とする.例えば,前後のアキが二分で,前の文字サイズが10ポイント,後ろの文字サイズが12ポイントの場合は,アキは6ポイント.文字サイズは両方とも12ポイントであるが,片方の括弧類等のアキが二分で,もう一方が三分の場合は,アキの大きい方を基準にして,アキは6ポイント.両方の括弧類等のアキが三分の場合は,4ポイントとなる. 5 文字サイズの小さい方またはアキの小さい方を基準とする. 前述したように,aのケースのアキは,ある意味で,許容範囲があるので,1–5のいずれでもよいと考えてもよいが,3または4が,ある種の合理性を持っていると思われる.見た目では,優先的な(つまり大きな文字サイズ)の文字のアキが確保される,ということを考えれば4ということになろう. ●2.3.13 注意を要する約物 1 人名のラテン文字の省略符 和文中で外国人の人名を片仮名表記とする場合,縦組のときは一般にイニシャルのラテン文字に省略を示す省略符(ピリオド)は付けないで,区切りとして中点(中黒)を使うことが多い. 横組では,いくつかの方法がある(図〓参照). —縦組と同様にイニシャルのラテン文字に省略符のピリオドを付けないで,中点で区切る. —イニシャルのラテン文字に省略符のピリオド(字幅は約四分)を付け,中点で区切る. —イニシャルのラテン文字に省略符のピリオドを付け,中点は使用しない.ピリオドは一般の和文に使用するものを使用し,ピリオドはアキを含めて全角である.この場合,ラテン文字とピリオドのベースラインがそろわない例もあり,また,片仮名との字間が空きすぎるので避けたほうがよい. —前項と同様であるが,ピリオドの後ろのアキを詰めて,ピリオドの占める領域は二分である.この場合,和文用のピリオドを使用するとラテン文字とピリオドのベースラインがそろわない例もあり,避けたほうがよい. —イニシャルの欧字に省略符のピリオド(字幅は約四分)を付け,その後ろに欧文の語間スペースを使用している.前項とほぼ似た結果になる.処理法としては前項に比べ簡単であるが,行の調整処理があると,ピリオドの後ろのアキが変わる場合があり,アキが一定しないという問題がある. 2番目の例は省略符のピリオドと中点の2つが区切りとしてダブった印象を与える.そこで,例の1番目のように省略符を付けないで,中点だけにするか,3番目以下の例のように省略符を付け,中点を付けないようにするとよい. 3番目以下の例では,“アカーロフ”の例は問題がないが,“スミス”の例では,“スティーブン”と“A”との間に区切りがないので,やや落ちつかない感じがする.ただし,このような組版処理は実際にも行われている. 欧字のイニシャルを含んだ片仮名の人名の表記は,決定的にこれだという方式はない.そこで,表記の方針や出版物の目的に応じて方式を選んでいくことになる.電子書籍のように縦組と横組の両方で表示されることが予定されている場合は,省略符が使用されていないが,区切りは示されているのであるから,ピリオドを使用しない1番目の処理法とすることは考えられよう. また,横組だけでよいのであれば,やや難点はあるが,5番目または6番目の処理法となる.処理法を簡便にするということを考慮する必要があれば,6番目の処理法を選んでもよい. なお,縦組で省略符のピリオドを付ける組版処理としては,以下のような方法が考えられるが,いずれもバランスはよくない. —縦中横で処理する —欧文用ピリオドをラテン文字の直後に配置 —和文用ピリオドをラテン文字の直後に配置 2 箇条書き番号の後ろのピリオド 横組での箇条書き番号としてアラビア数字またはラテン文字の後ろにピリオドを付ける方法がある.この場合,箇条書き番号の後ろに占める領域の大きさとして全角を確保するための和文用にピリオドを用いる方法がある. この場合,アラビア数字またはラテン文字とピリオドのベースラインがそろわないケースもある.その差異はわずかなので,許容するか,調整することになる. 3 パーレン内にラテン文字が入る処理 “脚注(footnote)”のようにパーレンを使用し,ラテン文字を補足する例は多い.この場合のパーレンは和文文脈か,欧文文脈かが問題になる.全角か半角か,という問題である.通常,外側のパーレンは和文文脈と考えて処理している.補足を示すパーレンは,あくまで和文文脈であり,たまたま,その内容が欧文であったと考えるからである. 4 コーテーションマークの配置方法 横組でのコーテーションマークの配置法は,大きくは2つある. シングル,ダブルとも,字幅を全角のものを使用する(それぞれ字幅を半角と考えると,前または後ろに二分のアキがある).最近は,この配置方法が一般的である.この場合は,約物が連続した場合はパーレンと同じ処理となる. 欧文用を使用する.シングルの字幅は一般に四分,ダブルは,シングルを2つ並べてもよい(字幅は二分となる).この場合,シングル,ダブルともに,前または後ろを四分アキにする(行頭・行末では空けない).結果として,シングルは二分,ダブルは二分四分のスペースをとる.四分アキは,スペースを挿入して処理するので,約物が連続した場合は,スペースを挿入を挿入しないことで実現できる.ここで説明した欧文用を使用する方法は,最近はほとんど行われていない. いずれの場合もコーテーションマークの内側はベタ組である. *かつては,欧文で,コーテーションマークの内側を四分アキまたはhair spaceで空ける方法があったので,和文でもこれにならい,すこし空ける配置法をたまに見かける. ■2.4 横組と縦組の組版処理 ●2.4.1 組方向の変更 1 組方向(縦組と横組)とその変更の必要性 日本語組版の組方向には,縦組と横組がある.この縦組と横組では,表記の方法や組版処理でいくつかの相違点がある. 印刷される書籍などでは,通常は組方向は変更されない.一定に決まっているので,表記の方法や組版処理において,その決まった組方向の表記の方法や組版処理を行えばよい.これに対し,デジタルの出版物では,組方向の変更は可能であり,また,読者の好みに応じるためにも,アクセスビリティの面からも,組方向の変更は実現できることが望ましい. そこで,組方向の変更に伴う表記法や組版処理の相違点をなんらの方法で解消しておくことが望まれている.ただし,この組方向の変更方法は,現在は確立されているとはいえない.そこで,ここでは,どんな問題があるかを主に,いくつかの方法を示すことにする. *縦組と横組の読みやすさについては,いろいろな意見があり,また,その差異も大きいとはいえず,共通の理解には至っていないようである.最近は,横組の方が読みやすいという報告も見られ,また,アクセスビリティの面からも横組が望ましいという指摘も出ている.しかし,個人的な経験から横組は読みにくいという印象を述べる人もいる.読書では,慣れの問題が大きいと思われる.組方向は,従来は主に原稿の内容や読者対象によって決定されていた.これからは,内容だけでなく,個々人により,それぞれの読みやすさ,与える印象などにより異なることが予想されので,読み手の側で組方向が選択できるのが望ましいといえよう 2 組方向の変更のレベル 組方向の変更では,以下のようなレベルが考えられる.  1 元データを何も加工しないで,組方向だけをそのまま変換  2 最低限の機械的処理で組方向に応じた形式に変更可能なものは処理して変換  3 縦組と横組のそれぞれの編集方針により,組方向に応じた形式に変換 レベルの1では元データに手を加えないで,組方向だけを変更するもので,読者に奇異な印象を与えるケースが出る恐れもある.読者は,読むことはなんとか可能というレベルである.類推して読んでいく必要な箇所もでてくる.なお,このケースでは,何らかの方法で,どちらの組方向で読むのが望ましいかを示しておくという対応も考えられよう. レベルの2は,読者に奇異な印象を与えないで読んでいけるレベルである. レベル3は,著者または編集者の方針に従い,また,読みやすさを考慮した表記法や組版処理を行う. なお,新しく原稿を作成する場合は,組方向の変更を前提とした原稿作成を心掛けることも必要である.方法としては,以下が考えられよう. 1 縦組でも横組でも問題がでないように表記法を工夫する. 2 縦組と横組の場合の2つの処理内容を記述しておく. ●2.4.2 縦組と横組で字形等が異なる例 縦組と横組で字形や文字の外枠中の配置位置が異なる例がある.これらは,これらは通常,組方向の指示に応じて自動的に修正される. 1 字形が異なる例 —波ダッシュ(~) *活字組版では,横組で使用するものをそのまま90度回転していたが,今日では,縦組では横組の字形を反転させて字形を使用しているのが普通である. —音引(ー) *活字組版では,縦組の字形のものを横組で横転して使用していた例もある.これは横組用の音引が準備されていなかったので,やくなく使用していたもので,推奨される形式ではない. 2 字形の位置が異なる例 —句読点 句点(。),読点(、) *コンマ(,)とピリオド(.)は,原則として縦組では使用しないが,例外的に使用している例がある.この場合,句点(。),読点(、)と同様に位置を直さないといけない. —二の字点(〻) 二の字点には,字形が大きい場合は,縦横で共通である.しかし,字面を小さくし,縦組では右寄せ・天地中央,横組では天地中央,下寄せにした例がある.この場合は,縦組と横組で文字の外枠に対する位置を変更しないといけない.なお,二の字点は,々(同の字点)と用法が似ている.例えば,“各々”は“各〻”とも表記される.後者は漢文の読み下し文などで見かける.“各”は,1字でも“おのおの”と読むことができるので,“各々”とすれば“おのおのおのおの”になってしまう.そうではなく,“おのおの”と読むということを念のために示す,補足的な記号として使用されている.現代文では“〻”は使用されていない.“益〻(ますます)”“愈〻(いよいよ)”“交〻(こもごも)”“屡〻(しばしば)”“偶〻(たまたま)”などの例がある. —小書きのかな っッゃャァィなど 縦組では右寄せ・天地中央.横組では天地中央,下寄せにする 3 文字の向きを変更する例 —コロン(:) *セミコロン(;)は,原則として縦組では使用しないが,例外的に使用している例がある.この場合,コロン(:)と同様に向きを変更しいといけない. —二分ダーシ(–) —全角ダッシュ(—) —二重ハイフン(=) —2点リーダ(‥) —3点リーダ(…) —括弧類 (),「」など *ダブルミニュートは,横組では原則として使用しないが,例外的に使用している例がある.その配置方法にはいくつかの方法がある. ●2.4.3 数字の表記と組版処理 1 原則とする数字表記 数字の表記については,従来は,縦組では漢数字,横組ではアラビア数字を使用するのが原則であった.縦組でのアラビア数字の使用は,特別な場合に限られていた.また,横組での数字表記もすべてアラビア数字ということではなく,訓読みの数字や順序数などでは漢数字も使用されている.したがって,細部の違いを無視すれば,数字表記の方針としては以下のように分けられる. 1 主に漢数字を使用(主に縦組) 2 原則としてアラビア数字を使用,ただし,訓読みの数字や順序数など一部は漢数字を使用(縦組または横組) 3 主にアラビア数字を使用(主に横組) 最近では,縦組でも横組にならいアラビア数字を使用する例が増えている. *漢数字の表記では,“十・百・千・万など”の単位語をどの程度使用するかという点でいくつかの方法がある.また,単位語を使用しないで位取りを入れる方法もある.現在は,位取りを入れないで,単位語には“万・億”等だけを使用するという方法が多くなっている. *“四日市市”,“五重の塔”,“五十歩百歩”などの固有名詞や慣用句などでは,横組でも漢数字を使用する.また,慣行として横組でも漢数字を使用する例には,化合物の名称(例:二酸化炭素,六価クロム)などがある *慣行として縦組でアラビア数字を使用する例には,“国道16号”や“第1四半期”などがある. 2 原則とする数字表記の変換 原則とする数字表記が2であれば,組方向の変換での表記法の手直しは必要がない.ただし,縦組でアラビア数字を処理する方法はいくつかあるので,その対応は必要になる(詳細は,“2.3.7 縦組の中に挿入されるアラビア数字とラテン文字”参照). 原則とする数字表記の1または3が問題となる.しかし,数字表記は,著者の考え方により選択されている場合があり,この場合,著者の了解が必要になる.横組での漢数字表記は,読者にいくらかの違和感を与えるとしても誤解を与えるものではない.縦組でのアラビア数字は徐々に社会にも受け入れられている.また,漢数字とアラビア進字の機械的な変換は簡単ではない.したがって,特に変更しないで,そのまま組方向を変換するという方法が現実的な対応であろう. *漢数字とアラビア進字の機械的な変換が難しいのは,現在のところ大方を納得させる確定した数字の表記法がないことも理由である.そのうえ,変換を行うためには,内容を考慮して行う必要がある.今後の課題であろう. *数の表現としてアラビア数字のほうが,単位語を必要とする漢数字よりは優れている.しかし,今日では漢数字でも“十・百・千”の単位語を使用しない方法が増えており,その差異は,やや縮まっている. 3 見出しや箇条番号の処理 見出しの先頭にラベル名と番号を付ける例は多い.見出しでは,その括り方のレベルを示すことが大切である.ラベル名と番号の形式は,この見出しのレベルを示す役割を果たしている. 見出しの番号には,横組では主にアラビア数字を使用する.ポイントシステムとよばれる形式も,主に理工学書などでは採用している.ポイントシステムは,見出しのレベルを示すとういう点で優れている. 縦組では,漢数字以外にアラビア数字やローマ数字も使用する. 日本語組版では,見出しのレベルを示す方法としての慣行がある.おおよその段階を示すと,以下のようになる(下にいくに従いレベルが下がる).このレベルの差異は箇条書きにも該当する.  ローマ数字の大文字(または時計文字) I, II, Ⅲ, …  ラテン文字の大文字 A, B, C, …  漢数字 一,二,三,…  アラビア数字 1, 2, 3, …  ラテン文字の小文字 a, b, c, …  括弧付きのアラビア数字 (1),(2),(3),…  括弧付きのラテン文字の小文字 (a),(b),(c),… さらに小見出しなどでは,ローマ数字の小文字や丸中数字(①,②,③,…)などが使用されている. したがって,こうした番号の付いた見出しを含む場合,組方向の変更に伴い何らかの対応を考えたときは,内容を見て判断する必要がある.番号そのもので誤読させる恐れは少ないので,変更しないで処理するのもひとつの対応であろう. *見出しのレベルを示す方法は,文字サイズ・フォントや配置領域の大きさ(行取り)などで示す方法がとられている.しかし,その方法ではレベルを認識できないケースもある.その意味で,ラベル名や番号で見出しのレベルを示すことは意味がある.最近はラベル名を付ける例が減っているが,ラベル名は,見出しのレベルの認識を増大させる効果も大きいので,その利用は望ましいといえよう.一般に,以下に示すラベル名は,全部ではなく,部分的に使用する例が多いが,そのおおよそのレベルを示すと以下のようになる.  巻 第1巻  編 第1編  部 第1部  章 第1章  節 第1節  項 第1項 横組でのポイントシステムを縦組に変更する場合,やや面倒である.縦組でのポイントシステムの使用例は少ないが,実例はある.次のような処理が考えられるが,いずれもバランスはよくない.  —そのまま横転させて配置  —アラビア数字を縦向きにし,ピリオドを数字の後ろに配置  —アラビア数字を縦向きにし,ピリオドを中点に変更  —アラビア数字を漢数字に,ピリオドを中点に変更 ●2.4.4 ラテン文字等の処理 ラテン文字等の縦組から横組への変換では,以下の処理が必要になる. —全角のラテン文字等は,プロポーショナルなラテン文字等に変換するのが望ましい. —縦中処理を行った箇所は,プロポーショナルなラテン文字等を使用しているので,書式だけ解除すればよい. 横組から縦組への変換では,以下のような方法がある. —何も対応をとらないで,組方向だけ変換する.この場合,横組でプロポーショナルなラテン文字等である場合,横転して配置されるが,読めないわけではないので,それを許容する.なお,全角のラテン文字を使用した箇所は,縦向きに配置される. —1字1字を縦向きとする,縦中横で処理する,または横転して配置する箇所を決めて,それぞれの対応した処理を行う. *1字の場合,縦中横処理で縦向きにできるので,例えば2字以下は縦中横処理で処理するなどの機械的な整理も考えられよう. ●2.4.5 縦組と横組の句読点 1 原則的に使用する句読点 原則的に使用する句読点は,縦組では読点(、)と句点(。)であるが,横組では3つの方式がある. 1 コンマ(,)とピリオド(.)を使用する. 2 コンマ(,)と句点(。)を使用する 3 読点(、)と句点(。)を使用する. これらは出版物の内容により選択されていた.ラテン文字やアラビア数字の多い場合は,これらとの整合性をとるために1が選ばれていた.2に“公用文作成の要領”(1952年)で規定されている方法で,公用文や教科書などで採用されている方法であり,一般の出版物でもこれにならった例がある. 3は,縦組にならった方法で,ワープロのデフォルトの設定が,読点(、)と句点(。)であることから,今日は,この形式を採用している例が増えている. *“公用文作成の考え方(2022年,文化審議会建議)” (2021年)では,“句点には「。」(マル),読点には「、」(テン)を用いることを原則とする.横書きでは読点に「,」(コンマ)を用いてもよい.”となっている.したがって,今後は横組の公用文などでも句点(。)と読点(、)の使用が増えていくと思われる. *横組の句読点としてコンマ(,)とピリオド(.)が選択されるのは,欧文やアラビア数字の使用が多い場合である.この場合,欧文やアラビア数字に伴う句読点と和文の句読点の整合性をとるために,和文に欧文用の句読点を使用するひとつの理由がある. したがって,縦組を横組に変換する場合は,特に必要がある場合は,コンマ(,)やピリオド(.)に変換する必要があるが,一般的には,読点(、)と句点(。)のままでよい. これに対し,横組でコンマ(,)やピリオド(.)を使用している場合は,コンマ(,)は読点(、)に,ピリオド(.)は句点(。)に変換する必要がある. *引用文でも同様の問題がある.引用元が横組でコンマ(,)とピリオド(.)を使用した文章を縦組で引用する場合,原文通りに引用することが原則であるが,一般に,これらは読点(、)と句点(。)に変換して引用する. 2 箇条番号の後ろの句読点 箇条番号の後ろの句読点については,縦組の漢数字の後ろは読点,横組のアラビア数字の後ろはピリオドという形式が従来は一般的であった.これにならい,縦組のアラビア数字の場合にも読点を使用する方法がある. *箇条番号の後ろの句読点を行の調整処理に使用すると,縦組でいえば,箇条書きの本文先頭の横並びがそろわなくなり,好ましくない.調整処理に使用しないほうが望ましい. *横組のアラビア数字の後ろをコンマ(または読点)とする例もあるが,これは読者に違和感を与える. したがって,横組と縦組の組方向を変換を考えた場合,箇条番号の後ろの句読点については,なんらかの対応が必要である.箇条番号の後ろに句読点を使用しないで,全角アキ(丸中数字ではベタ組または四分ア)にする方法もあるので,このような方法を採用すれば,数字表記を除外して,問題は回避できる.なお,箇条番号を括弧で括った場合は,その後ろには句読点は付けない. なお,横組の箇条書きの番号の後ろのピリオドを縦組にする方法としては,以下がある.  —“、”に変更する.  —“.”(欧文用)を使用し,縦中横にする.  —“.”を使用し,縦向きで配置する. 2番目や3番目とする例はあるが,バランスは,あまりよくない. *箇条番号を括弧でくくる場合,横組では,後ろだけとする方法がある.番号の後ろにだけ括弧を付ける方法を縦組でもごくたまに見かけるが,この方法は縦組では一般的ではない. 3 小数点と位取り 日本語組版において,アラビア数字で小数点を示すにはピリオド,3桁の位取りを示すにはコンマを用いる.この場合のピリオドとコンマは,欧文用を使用し,前後はベタ組である.表などでは,数字の字幅にそろえ,ピリオドとコンマを二分の字幅にした例もある. ただし,アラビア数字または漢数字を縦組で縦向きにする場合(アラビア数字を横転する場合を除く),小数点には中テン(・),位取りには読点(、)を用いる. *小数点の中点(・)および位取りの読点(、)の占める領域を全角とする例もあるが,中点の前後の四分アキ,読点の後ろの二分アキを削除するのが原則である. 縦組の漢数字表記を横組でも,そのままとする場合は,小数点の中点や位取りの読点はそのままでよい.これに対し,縦組の表記がアラビア数字の場合,これを横組にするときは,小数点をピリオドに,位取りはコンマに変換する必要がある. *横組,特に理工学書などの場合,位取りとして四分アキにする方法がある.この場合,アラビア数字を横転して配置すればよい.アラビア数字を縦向きにする場合は,読点に変更するのが望ましい. ●2.4.6 縦組と横組の括弧類 1 コーテーションマーク 縦組でコーテーションマークを使用する例も見かける(これは,ダブルミニュート(〝〟)を使用するのが原則である).縦組で使用しているコーテーションマークを横組に変換する場合は,そのままでよい. これに対し,横組の和文文脈でかぎ括弧の代わりにコーテーションマークを使用する例がある.これを縦組に変換する場合は,なんらかの対応が必要である. コーテーションマークを使用する場合,1のようにシングルを優先して使用する方法と,2のようにダブルを優先して使用する方法がある.2の方法が多い.  1)` " " '  2)" ` ' " *横組のコーテーションマークは,以前はかなり使用されていたが,最近はやや減っているように思われる.なお,JISの規格票では,かぎ括弧を用いないでダブルコーテーションマークを使用している. 横組でのコーテーションマークの使用では,かぎ括弧をいっさい使用しない場合と,囲む内容によってかぎ括弧とコーテーションマークを使い分けて使用する方法がある. なお,参考文献の表記では,書名はダブル,論文名はシングルを使うのが慣習である. *横組でのかぎ括弧の代わりにコーテーションマークを使う理由として,横組ではかぎ括弧(特に終わりかぎ括弧)の形がよくないことを挙げる人もいる. *日本語組版における引用符としてはかぎ括弧およびコーテーションマークのほかに山括弧や二重山括弧も使用されている.山括弧や二重山括弧の場合,組方向の変換では,そのままでよい. 縦組から横組の変更  1)横組でもかぎ括弧の使用法はあるので,縦組でのかぎ括弧をそのまま横組で使用する.  2)横組ではコーテーションマークを使用する方針の場合は,まずダブルを原則とするか,シングルを使用すかを決め,それに従い変更する.ただし,参考文献は,参考文献の方法により変更する. 横組から縦組の変更 コーテーションマークを使用している場合は,かぎ括弧等に変える必要がある.  1)かぎ括弧を使用している場合は,そのままでよい.  2)かぎ括弧を使用していないで,すべてコーテーションマークを使用している場合は,次の2つのケースがある. —ダブルを主に使用している場合は,ダブルコーテーションマークをかぎ括弧に変え,シングルコーテーションマークを二重かぎ括弧に変更する.ただし,参考文献では,本文部分と異なる処理が必要となる. —シングルを主に使用している場合は,シングルダブルコーテーションマークをかぎ括弧に変え,ダブルコーテーションマークを二重かぎ括弧に変更する.  3)ダブルコーテーションマークとかぎ括弧を使い分けている場合は,ダブルコーテーションマークをダブルミニュート(チョンチョン)か山括弧などに変更する. *かぎ括弧を入れ子にする場合,内側のかぎ括弧を小カギにする方法があるので,この場合は,また変わってくる. 2 ダブルミニュート 縦組でダブルミニュート(チョンチョン)を使用した原稿を横組で表示する場合,次の3つの方法が考えられる。 1)山括弧(〈〉、《》)など、別の括弧に変更する 2)JIS X 0208の考え方に従い、ダブル引用符(“”)に変更する 3)ダブルミニュート(〝〟)のままとする 3 ブラケットと亀甲括弧 大括弧(ブラケット)と亀甲括弧には,引用文において引用者の補足を示す,という似た用法がある.この場合,縦組では亀甲括弧を使用し,横組ではブラケットにするという考え方がある.この場合は,組方向の変更で,それぞれの括弧に変更するとよい. ●2.4.7 縦組と横組で注意が必要な行処理等 1 ルビ処理 横組では,原則として親文字とルビ文字の字詰め方向の中心をそろえる.縦組では,字詰め方向の中心をそろえる方法もあるが,そろえない方法を採用する出版物は多い. したがって,縦組から横組に変更する場合,親文字とルビ文字の字詰め方向の中心をそろえる変換が必要になる場合がある.逆に横組から縦組に変更する場合は,特別に理由がないかぎり変更しなくてよい. *縦組においても最近は,親文字とルビ文字の字詰め方向の中心をそろる方法が徐々に増えている. 2 単位記号 単位記号は,縦組では,以下のような方法がある. —カタカナで表記する —ラテン文字等の記号を使用する(縦中横で処理している例もある). —㎝,㎞などの合字がある場合は,合字を使用する. 横組では,カタカナを使用する例もあるが,原則としてラテン文字等の記号を使用する.合字は,通常は使用しない. 縦組から横組に変換する場合,必要に応じてカタカナの単位記号をラテン文字等の記号に変換する.㎝,㎞などの合字は,通常の記号に変換するのが望ましい. 3 圏点 縦組では,一般に﹅(U+FE45,ゴマ点という)を使い,横組では,一般に●(U+25CF)を使う. したがって1種類の圏点だけ使用している場合に組方向の変換を行うときは,それぞれのものに変換するのが望ましい. 2種類以上の圏点を使用する例は,最近は多くないが,明治時代のものには例が多い.2種類以上の圏点を使用している場合,﹅(U+FE45)や白ゴマ(U+FE46)を使用しているときは,これらを変えるか,変えないか決めて処理する必要がある. なお,圏点を配置する位置は,縦組の場合は右側,横組の場合は上側に付けるのが原則である.いずれも行送り方向では先頭側になる. 4 下線・傍線 縦組では,右側に傍線を付け,横組では下側に下線をつけるのが原則である.縦組では行送り方向では先頭側,横組では行送り方向では末尾側になるので,注意が必要である. 5 添え字 縦向きにする場合は,方法は決まっていない.以下のような方法が考えられる.ただし,2と3は,下付きか上付きかがあいまいとなり,望ましくない. 1)縦中横にする. 2)親文字の下側に,文字サイズを小さく,右寄せにして配置 3)親文字と同じサイズで,親文字の下側に配置する. したがって,縦組での添え字は,横転して配置するのが望ましい. 6 ぶら下げ組 横組では,採用しないという考え方もあるが,横組の書籍等でも,よく見かける. 7 段落の先頭 段落の先頭行では,1字下ガリとする方法が一般的である.しかし,横組では,見出しの直後の段落,あるいは全ての段落について,段落の先頭行を1字下ガリとしない方法を採用している例がある.縦組では,その方法を採用している例は少ない. したがって,この方法を採用している横組を縦組に変換する場合に,1字下ガリとするか,しないか決めて処理する必要がある. 8 その他 参照する場合等で,縦組では“上に・下に”,横組では“右に・左に”といったような向きを示す言葉が使用される例がある.組方向を変更した場合,こうした言葉は変更しないといけないときがあるので注意が必要である.また,方向を示す矢印でも同様な問題が発生する恐れがあり,同様に注意が必要である. ●2.4.8 縦組と横組で異なる注等の配置処理 1 注 注の配置方法は,縦組と横組では,傾向として,いくつかの違いがある. 横組では脚注が多い.この形式の縦組で近い形式は傍注である.縦組で多いのは後注形式であり,章などの末尾または巻末にまとめる例が多い. *後注形式では,従来は段落の末尾に挿入する例が多かったが,最近はあまり見かけない.この段落間に挿入する処理は,活字組版での手作業に比べ,コンピュータ組版での自動処理,特に行間の自動処理が,それほど簡単ではないことが理由かもしれない. *注というものは,できるだけ近くにあると,すぐに参照できて,たしかに便利である.割注の要望が根強いのも,そうした理由からであろう.しかし,確実に参照が予定され,しかも,分量が短い場合は,それでもよい.しかし,注は必ずしも参照されるわけではなく,注が文章の途中にあると,読んでいく際の妨げになり,注を邪魔に感じる場合もある.その意味で,近くにあるのが望ましいが,本文の読んでいく際の妨げにならないようにしてほしいという矛盾した要求がある.この要求を比較的に満たしているのが横組の脚注であり,縦組の傍注である.横組の注として最も多いのは脚注形式であるのは,そんな理由があるからだろう.縦組の傍注は,かつては組版処理が面倒であることから,あまり見かけなかったが,最近はやや増えている. 並列注は,横組ではサイドノートとなるが,縦組では頭注か脚注になる.書籍のサイドノートでは,見開きに左右に配置する方法と,各ページに右側に配置する方法とがある. 注記の番号については,縦組では,行中に添え字ではなく文字サイズを小さくして配置する方法と,行間に配置する方法の両形式が採用される.横組では行中に添え字の形式で配置する例が多く,行間に配置する方法は少ない.縦組の注記番号に漢数字を使用する例もあるが,最近ではアラビア数字の使用が多い. 行中に注番号を挿入する場合,横組では番番号の後ろにだけパーレンを付ける例が多いが,縦組では両側に付ける例が多い. *注番号の形式に,*,**,…,と“*”の個数で示す方法,*,†,‡,…,といった記号の順番で番号を示す方法がある.この形式の注番号は,かつては使用されていたが,最近は少なくなっている. *縦組の古典などでは注の番号に漢数字を使用している例がある.この場合,漢数字の天地を50%に縮小するのが一般的である(平字という).これを横組にする場合は,アラビア数字に変えた方がよいであろう. 縦組の後注では,字下げを行うのが一般的である.これに対し,横組の脚注では,行長の半端があれば行頭にとるが,それ以上の字下げをしないという例が多い. 注の行間については,縦組の後注に比べ,横組の脚注の方が狭くできる. 2 見出しの配置 字詰め方向の位置では,横組では左右中央という配置が多い.これに対し,縦組では左右中央という配置は少ない.頭そろえとして,大きな見出しから小さな見出しについて,順次,字下げ量を大きくしていく.横組で左右中央としない場合は,行頭より本文文字サイズで1字下ガリまたは下げない方法とする例が多い. 見出しの番号については,横組では,ポイントシステムのものがある.縦組では,ポイントシステムのものはほとんどない(少ないが例はある). 3 図版の配置 横組では,原則として回り込みを行わないという例が多い.縦組では,原則として回り込みを行わないという例は少ない.これは,1行の行長が,一般に横組では短いことによる. その結果,横組では段落間に配置する例が多いが,縦組では,ほとんどない. 図版のキャプションの組方向は,横組では同じとなるが,縦組の図版のキャプションは横組とする例が一般的である.したがって,縦組の図版番号もアラビア数字ということになる. 4 表の配置 横組では,本文の組方向と表の組方向が一致する.これに対し,縦組では,表を横組にする例が多く,本文の組方向と一致しないことが多い. 表の配置は,図版と同じである.横組では,原則として回り込みを行わないという例が多い.縦組では,原則として回り込みを行わないという例は少ない.その結果,横組では段落間に配置する例が多いが,縦組では,ほとんどない. 5 段組の末尾 段組にする場合,最終のページ(改ページ直前のページ)の処理が問題となる.横組では,各段の行数をできるだけ平均化する.これに対し,縦組では平均化しないで,“なりゆき”で処理する方法が一般である. ■2.5 文字を行に配置する処理 ●2.5.1 文字を行に配置する処理の問題点 文字を行に配置する場合,以下のような事項を決める必要がある. 1 前後する文字の字間(字詰め方向の文字と文字の間隔).  日本語組版ではベタ組を原則とするが,その他の処理方法もある. 2 行の先頭または末尾の文字の配置方法.  通常は,文字の外枠の先頭または末尾を文字を配置する領域の先端または末端にそろえる.しかし,括弧類や句読点などでは,いくつかの配置方法がある. *日本語組版,特に本文の組版では,配置する文字列の行頭及び行末をそろえる行頭・行末そろえ(ジャステファイ)が普通であった.配置する文字列の行頭をそろえる行頭そろえ(行長に不足があれば行末側に確保する)や,配置する文字列の行末をそろえる行末そろえ(行長に不足があれば行頭側に確保する),配置する文字列の中心をそろえる中央そろえ(行長に不足があれば行頭側及び行末側に均等に確保する)は,特別の場合を除いて採用されていなかった.それは,文字の外枠が全角であり,また文字単位で行の分割を行う日本語組版では,行長の過不足の発生するケースは多くはなく,発生してもわずかなケースが多かったことが理由であろう.なお,視覚障碍者等のことを考慮し,アクセスビリティを向上させるために単語又は文節で文字間を分割する方法も考えられる.この場合は,行のそろえについては行頭そろえが選択される.今後は行頭そろえの方法の採用も増えていくと考えれる. 3 行に文字を配置する場合の行送り方向の配置位置.  同じ文字サイズで特別な処理を必要としないのであれば問題とならないが,異なる文字サイズの場合に問題となる.一般には,文字の外枠の中心をそろえる. *活字組版の時代には,本文9ポイントに対し,括弧書きを8ポイントするする例があった.この場合,文字の外枠の中心をそろえるためには,0.5ポイントのインテルを必要とした.通常は印刷所ではこの幅のインテルを常備していなかったので,縦組では文字の外枠の右側をそろえる方法(右寄せにする),横組では文字の外枠の下側をそろえる方法(下寄せにする)を採用していた. *ラテン文字の行送り方向の配置位置は,文字の外枠の中心を揃える方法が原則であったが,手動写真植字やコンピュータ組版では,行送り方向の位置を比較的簡単に指示できることから,位置を調整する方法も行われていた. 4 定められた行長を超える場合,文字間のどこで分割してよいか.  どこで分割可能か,どの箇所が禁止となるかは,組版の現場ではほぼ共通の理解があったが,ケースによっては判断が異なるケースもあった. *文字間での分割の問題は,どの文字・記号について行頭または行末への配置を禁止するかのルールとして一般には考えられていた.行頭禁則,行末禁則という. *文字間での分割問題の詳細は,JLReqで解説している.なお,ルビ処理は,JLReqとは異なる方法を“〓〓〓(案)”で解説している. 5 ベタ組を原則とする場合,行長は文字サイズの整数倍で設定する.行中に異なる文字サイズの文字等が配置されると,行長と実際の文字列の長さで過不足が発生する例がある.この過不足は,行の適当な箇所を空けるなり,詰めるなりの処理を行う(行の調整処理).どこを空けるか,どこを詰める,また優先順位の処理方針を決める必要がある. *行の調整処理が問題となるのは,行頭・行末そろえ(ジャステファイ)の場合である.なお,行頭・行末そろえ以外でも,段落の末尾行でわずかな行頭の過不足があった場合は,行の調整処理を行うことも考えられる. *行の調整処理の詳細は,詳細は,JLReqで解説している.なお,ルビ処理は,JLReqとは異なる方法を“〓〓〓(案)”で解説している. 6 文字列の強調のための圏点・下線,あるいは添え字やルビを付ける場合など,その他の指定も必要になる. *日本語組版における強調の方法は次に示すようにいくつかある.それぞれの方法と強調の意味や強さの関係は,ニュアンスの差は多少はあるものの,慣行としては確立されているとはいえない. —括弧でくくる(山かっこ,かぎ括弧等) —書体を変える(ゴシック体,明朝体の太字等) —文字サイズを大きくする —圏点を付ける —下線・傍線を付ける —枠線で囲む —文字に色を付ける —文字の背景に色を付ける —字間を空ける —記号やダーシなどでで囲む など 最も一般的な方法は,対象の文字列をゴシック体にする方法である.いってみれば英文のイタリック体にする方法と似ている.ただし,翻訳書の場合は,原文のイタリック体を,日本語では圏点を付ける形式で示す方法とする例が多い.なお,英文では,ボールド体にする方法もあるが,これは強調の度合いが強く,あまり行われていない.他に英文では,大文字にする,文字の字間を空ける(レタースペーシング)という方法もある.なお,英文にならって,日本語でも斜体にする方法を,たまに見かけるが,この方法は,慣用としてはまだ定着しているとはいえないであろう. 圏点や下線は行間に配置する.ルビや注番号等も行間に配置するので,二重になる場合がある.強調の方法はいくつかの方法があるので,他の方法に変えることで対応できる場合がある *圏点や下線・傍線,ルビ,添え字等の組版処理の詳細は,JLReqで解説している.なお,ルビ処理は,JLReqとは異なる方法を“ルビの簡便な配置ルール(案)”で解説している. ●2.5.2 ベタ組・詰め組・アキ組 文字を行に配置する場合,前後する文字の字間どうするか.日本語組版では,以下のように分けられる. 1 漢字や仮名など,正方形の文字の外枠を密着させ(ベタ組という),配置していく(いくつか例外の処理がある). 2 1のベタ組より字間を狭めて文字を配置する.この方法では,1の配置に対し,一定の決まった量だけ狭める方法と,文字の字形に応じて狭める方法(字面詰め)とがある.後者の方法は,ラテン文字のそれぞれの異なった字幅に応じて配置する方法に似ている. 3 1のベタ組より字間を広げて文字を配置する.この方法では,1の配置に対し,一定の決まった量だけ空ける方法が一般に行われている. 1の方法は,日本語組版における原則的な配置方法であり,多くの書籍で採用されている.2の方法は雑誌・書籍などの本文組で採用されている例がある.特に2の文字の字形に応じて狭める方法が採用されている例が徐々に増えている.また,大きな文字サイズにする見出しなどでもツメ組の例を見かける.3の方法は,一部の書籍などの本文組で見かける.また,本文はベタ組であるが,見出しや柱,表組のヘッダー等で使われる例がある. *第2次世界大戦以前,書籍の本文の文字サイズとして,主に五号(10.5ポイント)が使用されていたことがあった.この場合,字間として四分アキが採用され,“五号四分アキ”とよばれていた. ●2.5.3 ベタ組における括弧・句読点の処理 ベタ組において,括弧類や句読点などは,原則として全角の字幅で配置される.ただし,これらの前後にはアキを含んでおり,これらのアキは変更されることがある.そこで,こうしたアキの処理を説明する場合,括弧や句読点の字幅をどう考えるかが問題となる. 図〓にベタ組とした場合における句読点と括弧類の原則的な配置方法に示す.なお,日本語組版においては,ベタ組を採用した場合,通常は行長を文字サイズの整数倍として設定する.図〓の右側に示す正方形の枠は,行に全角の文字が整数個並ぶ場合の文字の外枠を示す(以下,同様).図〓に示すように,句読点と括弧類が単独で漢字や仮名の間に配置される場合,重なって配置される場合,行頭や行末に配置される場合で,句読点と括弧類の占める字詰め方向の領域が異なっている. こうした事項を説明する場合,以下の2つの考え方がある(実際のフォントデータの字幅がどのようになっているかとは無関係であり,あくまで説明の前提としての考え方である). 1 句読点,中点,括弧類の字幅を半角(二分)と考える.通常は,その前又は後ろの二分または四分のアキを確保する.(JLReqやJIS X 4051では,この方法を採用している.) 2 句読点,中点,括弧類については,その前または後ろのアキを含め,字幅を全角と考える. 以下では,この2つの説明例を示す. *活字組版における活字は,一定の高さのある台(ボディ)の上に字面がある.この台の字詰め方向のサイズが字幅になる.活字組版における句読点,括弧類および中点の台の字詰め方向のサイズとしては,半角と全角のものが準備されており,必要に応じて使い分けていた.なお,補足しておけば,日本語の活字組版では,植字(組版)作業に入る前に,原稿に従って活字を準備しておく“文選(ぶんせん)”という作業を行っていた.この文選では,仮名や漢字のみを拾い集め(採字という),句読点や括弧類,さらに字幅が全角でないアラビア数字やラテン文字などは採字しないで,植字作業で採字していた(文選は欧文組版では行われていない). *括弧類や句読点などが連続した場合に調整が必要となるのは,空き過ぎになる,または不必要なアキがでるのを防ぐためである.例えば句読点や終わる括弧類と始め括弧類が重なると,アキが二重になり,アキ過ぎになる.終わり括弧類が連続する,または終わり括弧類と句読点が連続すると,括弧類の内側や句読点の前が空いてしまう.括弧類や句読点の前後のアキは特別な理由がないかぎり決まったアキ以上に空けない.また,括弧類の内側や句読点の前も特別な理由がないかぎりアキをとらない.こうしたことにより,一定の字間が確保でき,違和感を与えずに読んでいけるようになる. 図〓に示した配置例について,字幅を半角とする考え方による説明例を図〓に示す.なお,図〓 における約物をくくった長方形(正方形でない)は,半角と考える句読点,括弧類および中点類の文字の外枠,グレーで示した枠はアキ量を示す. 句読点,括弧類及び中点類の字幅を全角とすれば,図〓の説明は,図〓のようになる. 字幅を半角とする,あるいは全角とする場合であっても,どちらも結果として図〓になるのが,日本語組版としては望ましい形である.そこで,以下の説明では,フォントデータの字幅としては,句読点,括弧類および中点類の字幅を全角としている例があることから,括弧類や句読点の字幅として,括弧類,句読点および中点類の字幅を全角とし,それを前提に解説する. *ベタ組の場合の約物を含む字間処理の詳細は,JLReqで解説している.なお,約物の字間処理につて,JLReqとは異なる方法を“〓〓〓(案)”で解説している. ●2.5.4 詰め組の場合の約物の配置 詰め組の場合,括弧類や句読点などのアキを含んでいる約物の配置が問題となる.今日のところ確立された方法はない,といえよう. 均等に行う詰め組では詰める量は小さいので,通常は括弧類や句読点などのアキを含んでいる約物も,漢字や仮名と同様に処理している. 字面詰めの場合は,括弧類や句読点などのアキは,いくらか詰めるのが望ましい.例えば,括弧類の外側および句読点の後ろの二分のアキは四分に,中点の両側の四分のアキは八分に変えるとよい.ただし,このアキはフォント,特に括弧類などの字形にもよるので,選択できることは望ましい. *括弧類および句読点の二分のアキは,活字組版時代から空きすぎであり,すこし詰めたいという意見はあった.しかし,このアキを四分にすると,行の調整処理が発生する可能性があり,一般に採用されてこなかった.ただし,パーレンなどについては,その前にある語句などの補足説明であり,パーレンの字形を変えて(円弧の深さを浅くする),パーレンなどの外側のアキをなくして配置する方法が行われていた.この方法は,今日のコンピュータ組版でも採用している例がある. *字面詰めの場合は,括弧類や句読点などのアキをなくして配置する例もある.しかし,これらは区切りとしての役割があり,いくらかのアキがあるのが望ましい.特に句読点は,区切りとしての役割大きいの,アキをなくすのは望ましくない. ●2.5.5 アキ組の場合の約物の配置 アキ組の場合,括弧類や句読点などのアキを含んでいる約物の配置が問題となる.今日のところ確立された方法はない,といえよう. 特に見出しなどのアキ組において,例えば二分アキや全角アキなど,かなりのアキ量を各字間に確保する場合もあるので,括弧類や句読点などは,漢字や仮名と同様に扱うと,バランスを壊す場合がある.3つの方法が考えられる. 1 括弧類や句読点などのアキを含んでいる約物については,それらの前および後ろの字間は,アキ組の対象としない. 2 括弧類や句読点などのアキを含んでいる約物も,漢字や仮名と同様に処理する. 3 括弧類や句読点などのアキを含んでいる約物については,それらの前および後ろの字間は,それぞれの約物について漢字や仮名の字間とは異なるアキ量とする. *1のような処理法を行うのは,アキ組の場合,括弧や句読点の字間,特にその後ろにはアキがあり,そのアキは,規定のアキよりは大きくするのは望ましくない,また,括弧類など,その内側を空けるのも同様に望ましくないというのが理由である. ●2.5.6 1行に配置する字数 ベタ組を採用した場合,1行の行長は使用する文字サイズの整数倍に設定する.この場合,行長は制限はあるのだろうか.モニタに表示する場合については,どの程度が望ましいか議論はあまりされていない.今後,検討していく必要がある.参考までに,印刷される書籍における行長(字詰め数)の例を示しておく. ―縦組,四六判(B6判)で,1段組,9ポイント前後の文字サイズの場合,40字から44字くらい. ―縦組,A5判で,1段組,9ポイント前後の文字サイズの場合,49字から52字くらい. ―横組,A5判で,1段組,9ポイント前後の文字サイズの場合,35字くらい. これから考慮すると,印刷物の縦組で50字を超えない,あるいは横組で40字を超えないのが望ましいといえよう.これを超えた場合は,段組を考えた方がよい. 行長が長いと,同じ行を認識する作業に努力が必要となり,それなりに疲れが大きくなるので,モニタに表示する場合も,40字は超えないのが望ましいといえよう. 逆に,行長が極端に短い場合も読みやすいものではない.印刷される書籍では,図版等の回り込みで,10字以下になった場合は,文字を配置しないで空けておくのがよいといわれていた.また,新聞では,12字くらいである.これらから考えると,モニタに表示する場合でも,行末から行頭への移動回数が増え,また,単語や文節が分断されることが多くなるので,10字以下にしないのが望ましいといえよう. ■2.6 行を領域に配置する処理 ●2.6.1 行間設定の必要性 字詰め方向に文字を並べていく場合,日本語組版では文字と文字を密着させて並べていくベタ組が原則であり,通常の印刷物であれば,このベタ組を選択すれば特に問題はでない.しかし,行送り方向は,一般に行と行の間(行間)については“ゼロ”とするケースは特別な場合以外は選択しない.行と行の間は一定のアキ(行間)をとるのが普通である.この行間の大きさがその文書——例えば書籍など——の読みやすさに大きく影響する. いってみれば,字詰め方向の空き(字間)の設定については,特別な場合以外は選択は不必要であるが,行送り方向の空き(行間)の設定については不可欠であり,かつ重要である,ということである. *ラテン文字の小文字の短字では,文字の外枠に対する字詰め方向の余白にくらべ,行送り方向の余白は大きい.そのために行間を“ゼロ”とする例もある.しかし,日本語組版の文字は,文字の外枠に対する行送り方向も字詰め方向の余白と同じであり,行間について字間と同じ“ゼロ”とすると,読めないわけではないが,読んでいく方向が分かりにくくなる.こうした事情もあり,ラテン文字の組版に比べ,日本語組版では行間をより広くする必要がある. なお,書籍などでは,周囲の余白を除いた部分の印刷面のことを版面という(一般に,柱およびノンブルは版面に含めない).ここでは,モニタへの表示も考慮し,版面の代わりに“領域”という用語を使用する.いってみれば,テキストを配置する“領域”という意味である. ●2.6.2 行の間隔を指定する方法 行と行の間隔を指定する方法としては,いくつかの方法がある.活字組版で行われていた行間,手動写真植字で行われていた行送り,さらに,ワープロソフト——例えばMS Word)など——で採用されているline height(行高)などがある. *行間または行送りの設定は段落の属性として段落全体に対して設定することが多いが,1つ1つの文字の属性として行間または行送りの値を設定する方法もある.この場合,一般にある行の中で最も大きな値がその行の指定された行間等の値となる. 1 行間:字間の場合と同様に,行送り方向について,前行の文字の外枠の末端から次行の文字の外枠の先端までの距離である(図〓 参照). 2 行送り:行送り方向について,前行の文字の基準点から次行の文字の基準点までの距離である(図〓参照).手動写真植字では,センター・センター方式が一般的であったが,基準点は文字の中心以外でもよい(例えばラテン文字のベースラインの位置). 3 line height(行高):行の前後のアキを含めた区域をline heightとして確保し,その区域を密着させて配置していく方法である(図〓参照).区域内の中央に行を配置するのが一般的であるが,区域内の配置位置を指定できる. 4 その他 領域内にガイドラインを設定しておき,そのガイドラインに行の中心等をそろえて配置する. *行送りと行間は,すべて同一の大きさの文字同士の場合は,次の関係がある.  行間=行送り-文字サイズ  行送り=文字サイズ+行間 なお,このドキュメントでは,以下の説明は主に行間で行う. ●2.6.3 行間の選択 行間の選択が読みやすさ大きく影響する.字間をベタ組とするか詰め組・アキ組とするか,1行の行長(1行に配置する字数)はどれくらいか,さらに,フォントや文字サイズなどを考慮して決める必要がある. 参考までに書籍(印刷物)のベタ組における行間選択の目安をいくつか示しておく.ここに掲げるものは,あくまで目安であるが,モニタに表示する場合でも同じように考えられよう.今後の検証が必要である. 1 書籍の本文 字詰めが多い場合は,使用する文字サイズの全角かやや詰める. 〈例〉A5,横組,9ポイント,1行35字,行間は9ポイントから7ポイントくらい,詰めても6ポイントくらい. B6,縦組,9ポイント,1行43字,行間は8ポイントくらいが望ましいが,最近は6ポイント,なかには4.5ポイントとする例もある. 字詰が少ない場合,例えば,20字くらいであれば使用する文字サイズの二分までは可能である,余裕があれば二分よりやや空ける.空けても文字サイズの2/3くらい. *特別な場合,例えば行間に配置するルビや注番号など各種のものが入ると予想されるときは,使用する文字サイズの全角以上の行間を採用することもある.しかし,全角以上に広げても,読みやすさが向上するということはない,といわれている. 2 書籍の注 縦組の1段組の専門書などでは注の1行の字数が多くなるので,本文の行間にもよるが,注に使用する文字サイズの二分四分から,詰めても二分くらいである.横組の脚注では,二分くらいか,それよりやや詰めた方がバランスがよい.本文と比べ注の文章は長文となることは少ないので,行間を狭めることが可能となる. *短い文章は,短時間で読んでしまえるので,少々のことは我慢できる.辞典などでは,小さい文字サイズを使用し,行間も狭くする例が多いが,読むことは可能である.読みやすさの評価は,文章の量も影響する. 3 書籍の表組 書籍の本文中に挿入する表では,一般に表に使用する文字サイズの二分にすればよい.大きな表では,行間を二分よりやや詰めた方がよい(その代わりに5行または10行ごとに大きく空ける). なお,ヘッダ-の項目名などで部分的に2行にする部分は,他の項目の幅とそろえるために“ゼロ”まで詰めてよい(2行程度であれば,読む方向もはっきしりているので可能になる). 4 書籍の表や図版のキャプション 表や図版のキャプションの字数が多く,2行以上にする場合の行間である.キャプションの全体が分離することなく,一体として読めるように,キャプションに使用する文字サイズの四分から二分くらいが目安である. 5 書籍の見出しの折り返し 見出しが長くて2行や3行にする場合がある.この場合も見出しの全体が分離することなく,一体として読めるように,見出しに使用する文字サイズの三分か四分くらいが目安である.主見出しとサブタイトルの行間も,見出しの文字サイズの二分くらいとする. 6 行間の実例 以下にA5,横組,9ポイント,1行35字で,行間を12ポイントから4ポイントまで,1ポイント単位で変化させた組見本を掲げておく. *文字サイズや行間を調べる場合,1字または1行で計ると正確に調べられないことがある.その場合,10字または10行単位で計り,その値を1/10にするとよい.なお,文字サイズを計る場合,ベタ組の箇所を探し,その箇所で計る.ベタ組かどうかは目で判断する必要があり,ある程度は目を慣らしておく必要がある. ●2.6.4 領域内の余白の指示 ある領域に文章を配置する場合,領域と配置する文章との間に余白を確保する場合と確保しない場合がある. 文章を線で囲む場合,領域の大きさや文字サイズにもよるが,使用文字サイズの全角くらいの余白を確保する例が多い.いずれにしても,この余白の大きさは,実際の文字と領域(囲む線)との見た目のアキが重要である.したがって,領域からのアキは文字の外枠を基準にできると,わかりやすい. 字間・行間で考える場合,領域と配置する文章との余白については,文字の外枠を基準に実際に空ける量を指定すればよい.余白を確保しない場合でも同様で,字間・行間で考える場合,文字の外枠と領域の間にアキを確保しないとするだけでよい. 字送りまたは行送りで考えた場合,字詰め方向については,トップ・センター方式では,余白がない場合,行頭では文字の基準点を領域の位置にそろえればよいが,行末の文字は文字サイズ分だけ領域の内側に文字の基準点を配置しないといけない.センター・センター方式では,行頭の文字も行末の文字も文字サイズの1/2だけ領域の内側に文字の基準点を配置しないといけない.これは行送り方向についても同様である.余白を確保する場合でも,同様の計算が必要になる. line height(行高)の場合,行高の中心に文字を配置するとしたときは,行送り方向について,(行高-文字サイズ)/2の大きさだけ領域を大きくしておく必要がある. ●2.6.5 行中に配置する異サイズの文字と行間 行中に,その段落で設定されている文字サイズとは異なる文字等を挿入する場合がある.この場合の行間は,その段落で設定した値を確保するのが原則である.その段落で設定された行位置は維持しないといけない.文字サイズの異なる文字を配置した例を図〓に示しす. また,ある決められた領域の先頭または末尾に配置する場合も,こうしたケースがない場合の行の配置位置と同じにする.例えば,領域の先頭にアキを保持しないで行を配置する場合,段落で設定された文字サイズより大きな文字が配置されているときは,領域の外側にはみ出ることになる. このような例としては,次のようなものがある. 1 行中に異なるサイズの文字等が挿入される.  1)段落で設定された文字サイズより大きな文字  2)段落で設定された文字サイズより小さな文字  3)段落で設定された文字サイズと行送り方向のサイズが異なるインライングラフィック *文中の語句等を補足する説明を括弧書きにする方法は,日本語組版ではよく行われている.この場合,括弧を含めて文字サイズを小さくする方法と,その段落で指定されている文字サイズと同じとする方法がある.文字サイズを小さくする方法は,活字組版では,手間がかかったので,段落で指定されている文字サイズと同じとする方法が多かった.しかし,コンピュータ組版では,自動処理で行うことから,最近では増える傾向がある.文字サイズを小さくする方法は,括弧書きのすべてを小さくする方法と,ある限られた括弧書きだけを小さくする方法とがある.なお,補足などを2倍ダーシで囲む方法もあるが,この方法では,文字サイズは小さくしないのが普通である. *文字サイズが異なる文字列やインライングラフィックが挿入された場合,そろえとしては,中央そろえ,上そろえ(縦組では右そろえ),下そろえ(縦組では左そろえ)のほか,ベースラインそろえる方法がある.また,数値で配置位置を移動させる方法も考えられる.  4)縦中横処理された文字列  5)割注(割注に使用する文字サイズが段落で設定した文字サイズの1/2を超える場合) *割注の行間は,原則として“ゼロ”である.  6)やぐら組の分数 *やぐら組の分数とは,分母と分子を水平線で区切る分数をいう. 2 行に配置した文字より行送り方向へのはみ出しがある文字列等の挿入される  1)そろえの設定により行の幅を超えた位置になる文字等  2)上付きおよび下付きの文字列  3)行中に挿入する注の合印 *上付きおよび下付きは,親文字の文字サイズの1/2よりは,やや大きなサイズにする例が多く,位置も親文字の上端または下端よりはみ出す例が多い.横組で行中に挿入する注の合印は,一般に上付きで処理する.縦組では,文字サイズを小さくして挿入する.この場合は,行送り方向へのはみ出しはない. 行送り方向への文字などのはみ出しがあった場合,行間で考える場合,はみ出し分を無視して行を配置する必要がある. *活字組版の場合,縦組で9ポイント組,行間8ポイントの段落に6ポイントの割注を配置した場合,はみ出しは左右1.5ポイントとなる.該当する行間のインテルを6.5ポイントに変え,はみ出した割注の上下には1.5ポイントのインテルを挿入していた.逆に同じ条件で8ポイントの括弧書きが配置される場合,行間のインテルは8ポイントでよいが,8ポイントの括弧書き部分の左側に1ポイントのインテルを挿入していた.このように,かなり面倒な作業が必要になる. 字送りで考える場合,トップ・センター方式のときは,はみ出しがあるときも,小さい文字サイズの文字が配置されているときも,文字の基準点を指定された値で処理していけばよい.行間で考えるよりは処理は簡単である. line height(行高)で考える場合,はみ出しが上下または左右で均等であれば,特に変更しなくてよい.はみ出しの量が上下または左右で異なっている場合,行高の中心の行を配置するときは,段落で指定した文字サイズの文字が行高の中心になるように配置位置を調整する必要がある. ●2.6.6 行間に配置するルビ等と行間 ルビなど行間に配置するものがある.この場合の行間は,その段落で設定した値を確保するのが原則である.その段落で設定された行位置は維持しないといけない.ルビが付く例を図〓に示しておく. また,ある決められた領域の先頭または末尾に配置する場合も,こうしたケースがない場合の行の配置位置と同じにする.例えば,領域の先頭にアキを保持しないで行を配置する場合,ルビは,その領域の外側に配置する. このような例としては,次のようなものがある.  1)ルビ  2)圏点  3)下線,傍線  4)行間に配置する注の合印  5)行間注 ルビなどが付く場合,行間の考え方では,その箇所だけ行間を狭くする必要がある. *活字組版の場合,縦組で9ポイント組,行間8ポイントの段落に4.5ポイントのルビを配置した場合,該当する行間のインテルを3.5ポイントに変え,ルビの上下には4.5ポイントのクワタやスペーズを挿入していた.(ルビの上下にクワタやスペーズを入れるのは,ルビの位置を正確に配置するためである.) 字送りで考える場合,トップ・センター方式のときは,ルビが配置されている行も,他の行と同様に文字の基準点を指定された値で処理していけばよい.行間で考えるよりは処理は簡単である. line height(行高)で考える場合,ルビと親文字の全体を行高の中心に配置するのではなく,ルビの付いていない文字を行高の中心になるように配置位置を調整する必要がある. ●2.6.7 はみ出し等で重なりがでる場合の行間 行間の設定によっては,行中に大きな文字サイズの文字・インライングラフィック,やぐら組の分数を挿入する,あるいはルビ等が付く場合,はみ出しが隣の行に掛かるケースもある.この場合は行間を広げる必要がある.2つの方法がある. 1 はみ出しが隣の行に重ならないように行間を広げる,またははみ出しと隣の行との間に設定された最低のアキを確保するように行間を広げる.この場合は,行間を広げた行に続く行の位置は,その段落で設定した行位置にならなくなる. 2 行間へのはみ出しがある行,ルビ等の付く行について,その段落で設定した行間に基づいて,整数倍の行の占める区域(行取りという)に拡大する.例えば,2行分の区域(2行ドリ)にする.この方法では,行間を広げた行に続く行の位置は,その段落で設定した行位置になる. *行に占める位置を行取りで広げるのは,その段落で設定した行位置をできるだけ維持するためである.書籍等では,ページの版面の行送り方向のサイズをそろえるのが原則であり,見出しなど大きな区域を必要とする場合でも,行取りで指示すれば,領域内に行を配置する際に,行送り方向のアキに過不足が発生しない.1の方法で行の配置区域を拡大した場合は,行位置が乱れ,行送り方向のアキに過不足が発生し,なんらかの方法で最終行を領域内の指定位置に配置する調整処理が必要になる(この処理は字詰め方向の行の調整処理に似ている).行取りで行の占める区域を広げれば,この調整を避けることができる.行取りを行うもうひとつの理由は,例えば見出しの大きさごとに,その空白を大きくしていく必要があるが,行数は,その大きさを考えていく際の目安ともなるからである. *あらかじめ重なりがでないように,行間を広めに設定しておいてもよい. ●2.6.8 行取りの処理 行取りの処理は,ルビなどが重なる場合だけでなく,見出しや図版・表などの配置にも利用されている.また,俳句などの鑑賞を目的とする文章では,鑑賞対象の俳句の文字サイズを大きくして,2行ドリで配置する例もある. 行間または行送りで考える場合は,計算を行い,行間または行送りの量を変更することになる.これに対し,line height(行高)で考える場合,行高を整数倍にすれば行取りで必要な区域を確保できる. 図・表を除外し,一般に行取りの処理を行う場合,行取りの区域の中央に見出しなどを配置する.しかし,中央でなく,行取りの区域のどちらかに寄せて配置する方法も行われている.そのためには,行取りの区域内の,どの位置に見出しなどを配置するか指定できるのが望ましい. なお,行取りの区域のサイズは,行取りで確保する区域の直前に配置する行の文字の外枠の末端から,行取りで確保する区域の直後に配置する行の文字の外枠の先端までの大きさとなる.領域の先頭に配置する場合,原則として領域の先端から行取りで確保する区域の直後に配置する行の文字の外枠の先端まで,領域の末尾に配置する場合,原則として行取りで確保する区域の直前に配置する行の文字の外枠の末端から領域の末尾までの大きさとなる. 行取りの区域の大きさは,行取りする見出しなどを領域の途中に配置する場合,以下のような計算になる.  行取りの区域の大きさ=文字サイズ×行取り数+行間×(行取り数-1) 行取りする見出しなどが領域の先頭または末尾に配置する場合,以下のような計算になる.  行取りの区域の大きさ=文字サイズ×行取り数+行間×行取り数 *見出しや重なりを避け行間を広げる行を行取りで指定した区域に配置する場合,それらを領域の先頭または末尾に配置するときは図に示したように,行取りで確保する領域から,先頭および/または末尾の行間を削除した領域の中央に配置する. なお,図版・表を配置する場合,領域の途中であれば中心でよいが,領域の先頭または末尾に配置する場合は,図版や表は領域の先頭または末尾にそろえる. ●2.6.9 段落間の行間の変更 通常の文章では,段落と次の段落の間の行間については,段落内の行間と同じにする.しかし,この段落間の行間を変える,あるいは個別に決める処理も行われている.こうした場合の問題について解説する. 1 区切りを付けるために行数で段落間を空ける 通常の場合は,段落内の行間と同じであるが,特別に区切りを付けるために段落間を空ける方法がある.一般には1行アキまたは2行アキとする方法がとられている.(この空けた箇所にアステリスクなどの記号を配置する方法もある.)また,小見出しなどでも,その前を1行アキとする例も多い. *1行アキまたは2行アキとは,段落に設定されている文字サイズと行間を基準に,1行分または2行分だけ空ける方法である.文字サイズは9ポイント,行間は8ポイントを例にすると,以下の計算になる. 領域の途中の1行アキの大きさ=8+9+8=25 →25ポイントアキ 領域の先頭または末尾の1行アキの大きさ=8+9=17(または9+8=17) →17ポイントアキ *区切りを付ける段落間を行数で考えるのは,前述したように行位置が乱れないように,また領域に過不足が発生しないようにするためである.従来から,この段落間の区切りのアキとして,1行アキでなく,例えば0.5行アキにしたいという考え方はあった.しかし,行位置が乱れることを避け,特別な場合を除き,採用されてこなかった. なお,電子メール等では,段落の区別を明確にするために,すべての段落間で1行アキとする方法も行われている. *書籍等では,すべての段落間で1行アキにするとページ数が増えてしまう.また,段落の先頭行を全角下げることで段落の区別がつくことから,すべての段落間で1行アキにすることは行われてこなかった. 2 区切りを付けるためにアキ量で段落間を空ける 段落間のアキを行数で空けるのでは空き過ぎとなる場合もある.こうした場合は,アキ量で段落間を空けることになる.こうしたケースには,次のような例がある. —文字サイズを小さくし,行間を狭くした後注や引用文と本文との間 —見出しとサブタイトルとの間 —図版・表とキャプションとの間 —序文などの末尾に掲げる年月日や著者名との間 など アキ量で段落間を空ける場合,見た目のアキが問題となる.したがって,文字の外枠を基準にできるので,行間で考える方が直感的である.字送りまたはline height(行高)で考える場合は,計算が必要になる. なお,段落の間を行数で空けるのは,前述したように領域に文章は配置した際に,領域に過不足がでないようにするためである,しかし,モニタの場合,段組や見開きで配置するなど特別な場合を除外して,領域に過不足がでても,つまり配置する文章の行送り方向のサイズが各ページごとに異なっても問題とならない. このように考えれば,前述の段落を区別するために段落間のアキも1行アキとしないで,アキ量で設定する方法でよい.また,見出しなども,行取りでなく,アキ量で設定してもよいことになる. *従来,書籍の見出しの指示でも,各見出しや本文とのアキをアキ量で指示する方法も行われていた.しかし,この場合でも,補足的に見出しの占める全体の区域の大きさを,例えば“4行ドリ”のように行数でも追記していた. 3 段落間に配置した後注の処理 段落間のアキの処理について,参考までに書籍で段落間に後注を配置する場合の行間処理を解説しておく.なお,一般に後注の文字サイズは小さくし,行間も狭くする. この場合,指定された条件でテキストを配置する場合,行送り方向のサイズが設定した版面サイズより小さくなることが多い.書籍では,ページ内に配置するテキストの版面サイズをそろえるのが原則である.そこで,不足分をいずれかの箇所に配分し,配置するテキストの行送り方向のサイズを規定の版面サイズにそろえる必要がある. 原則として,不足分は,後注の前と本文の行間は規定の行間とし,不足分は後注の後ろに配分する.配分できる箇所が後注の前しかない場合は,後注の前に配分する.配分できる箇所が複数ある場合は,その箇所に均等に配分する.ページ全体が後注となり,配分する箇所がない場合は,後述の行送り方向のそろえの指示により,版面の末尾に配分,先頭に配分または先頭と末尾に均等に配分する. 3つのケースについて処理例を示す. —ページの途中に後注を配置する場合:本文と次に配置する後注との間は,本文行間と同じにする.後注と次に配置する本文との間は,本文行間と同じか大きくする.ここに行送り方向の版面サイズに不足する量を配分する. —ページの先頭に後注を配置する場合:後注の先頭は,版面の先頭位置に配置する.後注と次に配置する本文との間は,本文行間と同じか大きくする.ここに行送り方向の版面サイズに不足する量を配分する. —ページの末尾に後注を配置する場合:後注の末尾は,版面の末尾位置にそろえる.本文と次に配置する後注との間は,本文行間と同じか大きくする.ここに行送り方向の版面サイズに不足する量を配分する. *かつてのコンピュータ組版では,配置するテキストの行送り方向のサイズが版面より小さくなる場合,フリースペースと呼ばれるコマンドを特定の行間に指示しておくと,不足分をフリースペースを挿入した行間に配分する処理が可能であった(フリースペースが複数の場合は均等に配分).しかし,後注の配置位置が確定した段階では利用できるが,配置位置は確定していなく,不足分を配分する箇所が変化する可能性がある場合は,このフリースペースでは処理できなかった.ただし,処理を単純化して不足分を後注の前後に均等に配分するという方針にすれば,フリースペースは利用できる.また,行の処理のように,不足分を配分できる行間を決めておけば自動処理も簡単になる.優先順序を付ければ,複雑な処理も可能になる. ●2.6.10 行送り方向のそろえと配置位置 字詰め方向に“そろえ”があるように,行送り方向の“そろえ”の設定が可能になると,領域内に配置する行送り方向の複数行のテキストのまとまり(以下,テキストブロックという)の配置位置が設定できる. 行送り方向のそろえとしては,以下が必要である. 1 右そろえ(縦組),上そろえ(横組):テキストブロックを領域の行送り方向の先頭から配置し,余白は領域の行送り方向の末尾に確保する. 2 左そろえ(縦組),下そろえ(横組):テキストブロックを領域の行送り方向の末尾から配置し,余白は領域の行送り方向の先頭に確保する. 3 中央そろえ:テキストブロックを領域の行送り方向の中央に配置し,余白は,領域の行送り方向の先頭および末尾に均等に確保する. 4 先頭・末尾そろえ:テキストブロックの先頭を領域の行送り方向の先頭,テキストブロックの末尾を領域の行送り方向の末尾に配置し,余白は,テキストブロックの行間に均等に配分する. *先頭・末尾そろえの余白を配分するアキ量については,段落間の行間と段落内の行間とで,差を付ける方法も考えられる. 字詰め方向では,字下げと字上げの指示ができる.これにならって,行送り方向についても配置位置を変更できるとよい. 行送り方向の下ガリ:テキストブロックを領域に配置する際に,領域から右方向(縦組)または下方向(横組)へ,テキストブロックを配置する範囲を狭める指示. 行送り方向の上ガリ:テキストブロックを領域に配置する際に,領域から左方向(縦組)または上方向(横組)へ,テキストブロックを配置する範囲を狭める指示.