●●2.日本語組版の基本 ■2.1 組版のモデル 文字を配置する際の基本的な考え方,その説明のモデルには何をもってきたらよいか.ここでは,具体的な説明の前に,そのモデルを示しておく.(実際の組版エンジンがどう処理しているかは考えないといけないが,あくまで説明のためのモデルということで,この点は無視する.) ●2.1.1 字詰め方向と行送り方向 日本語組版では,文字を行に並べる,あるいは行をある領域に並べる組方向として縦組と横組がある.そこで,このドキュメントでは,文字または行を並べる方向を示す用語に,縦組・横組に共通する以下の用語を使用する(図〓参照). 字詰め方向:文字を行に並べていく方向.縦組では,上から下への方向,横組では左から右への方向. 行送り方向:行ををある領域に並べていく方向.縦組では,右から左への方向,横組では上から下への方向. ●2.1.2 字詰め方向の文字配置のモデルの種類 文字を行に配置する説明のモデルとして以下がある.  A “アキ”モデル:文字のボディ(文字の外枠)を基本として,文字間のアキで説明  B “送り”モデル:文字の基準位置から次の文字の基準位置への移動量(送り)で説明  C その他:例えば,配置面にグリッドを設定し,そのグリッドにそって文字を配置 説明の方法としてはCは複雑になるので,ここでは除外する. ●2.1.3 字詰め方向の文字配置―“アキ”モデル “アキ”モデルは,現在のJIS X 4051やJLReqで採用しているモデルである.この場合は,和文は正方形のボディが基本であるが,かならずしも全角ではなくてもよく,ラテン文字などは,字幅が文字により異なる.なお,文字のボディを,JIS X 4051では,仮想ボディという用語ではなく,文字の外枠という用語を使用しているので,以下でもこの用語を用いることにする. この方式では,基本として文字を正立した場合の文字の外枠の天地のサイズ(以下では文字の高さ)と左右のサイズ(以下では文字の幅)の情報が各文字に必要になる(図〓参照).横組では,文字の高さが文字サイズ,文字の幅が字幅(文字を配置していく場合に,字詰めり方向に占める領域のサイズ)となる(図〓参照).縦組では,文字の幅が文字サイズとなり,文字の高さが字幅となる(図〓参照). *文字の外枠が全角の場合は,文字の高さも文字の幅も同じであるので,文字サイズは文字の高さとしても,文字の幅としてもよい.文字の幅がプロポーショナルの場合,どちらが文字サイズを示すかが問題となる.従来,文字の高さが文字サイズを示すとされてきたが,日本語の文字をプロポーショナルにする場合を考慮すれば,縦組にあっては,文字の幅が文字サイズと考えた方がよいであろう. 細かい事項を除き,文字の外枠のサイズと字詰め方向の各文字間の情報により,文字を行に配置できる.字詰め方向ではアキ(字間,前の文字の外枠の末尾と次の文字の先端の間隔,図〓参照)がゼロであるということは多く,この配置方法をベタ組といい,特に指定がない場合は,この方法で文字は配置される. このモデルでは文字の高さと文字の幅(いってみれば文字の外枠)を想定しないといけないという欠点があるが,見た目のアキ量で考えればよいので,文字の配置位置が直感的に理解できるという利点がある. ●2.1.4 字詰め方向の文字配置―“送り”モデル “送り”モデルは,文字の外枠は考えなくても説明は可能になる.文字サイズは,元となる大きさのサイズにある字面を決め(手動写真植字では16級または17級であった),あとは比例計算でサイズを決めればよい(ただし,これだと分かりにくいので,説明として文字の外枠を介しての説明も行われていた).さらに,文字の持っている情報としては,各文字の基本サイズの字面の字詰め方向の大きさ(それは字面一杯ではなく,わずかな余白(ラテン文字ではサイドベアリングという),あるいは句読点等では後ろまたは前後の余白を含めた大きさ),または字詰め方向に文字を配置する場合の送り量,および以下で説明する基準位置だけがあればよい. 基準位置は,決まっていれば(一定であれば),どこでもよいが,各文字を配置する際の先端位置(以下ではトップという),または字詰め方向の指定された文字サイズの詰め方向の大きさの中心(以下ではセンターという)が考えられる(図〓参照). *活字組版の場合,ボディに対する字面の大きさは,元の字形(原図という)を比例して各サイズごとに比例させないで,各サイズごとに微妙に調整できた.しかし,手動写真植字やデジタルの組版の場合,通常,元のサイズを拡大縮小する.こうしたフォントの設計では,通常,ある程度の文字サイズでベタ組にした場合に,望ましい結果になるように設計している.したがって,大きな文字サイズに拡大した場合,字間がアキ過ぎに見える場合もあり,大きな文字サイズの見出しなどでは,ベタ組より詰めるなど,字間の調整が必要になる場合もある. “アキ”モデルでいうベタ組にする場合,各文字の保持している送り量が同一であれば,この同じ送り量にすればベタ組となる.例えば,10ポイントの全角の文字をベタ組にする場合は,各文字の送り量を10ポイントにすればよい.しかし前後に配置する文字の保持している送り量が異なれば,トップ方式とセンター方式では異なる.トップ方式では,各文字の保持している送り量で文字を配置していけばよい.例えば,全角である10ポイントの文字,20ポイントの全角の文字,その後ろに14ポイントの全角の文字を配置する場合は,最初の文字を配置し,10ポイントの送り量で次の文字を配置し,さらに20ポイントの送り量で最後の文字を配置すればよい(図〓参照).これに対し,センター方式では前の文字送り量の1/2の送り+次の文字の送り量の1/2の送り量となる.前述の例でいえば,最初の文字を配置し,15ポイント((10+20)/2)の送り量で次の文字を配置し,さらに17ポイント((20+14)/2)の送り量で最後の文字を配置すればよい(図〓参照). “送り”モデルでは,文字のボディを考えなくてもよいという利点があるが,異なった字幅の文字を配置する場合に,説明が複雑になる.また,基準位置の方式によっては,ある領域の先頭,末尾に配置する際に,ややめんどうな説明が必要になる. ●2.1.5 行送り方向の文字配置のモデルの種類 行をある領域に配置する説明のモデルとして以下がある.  a “アキ”モデル:文字のボディ(文字の外枠)を基本として,行間のアキで説明  b “送り”モデル:文字の基準位置から次の文字への移動量(送り)で説明  c 行高:一定の指定した行の領域(行高)で行の配置領域を設定し,その領域の指定した位置(一般に中央)に配置  d その他:例えば,配置面にグリッドを設定し,そのグリッドにそって文字を配置 説明の方法としてはdは複雑になるので,ここでは除外する. ●2.1.6 行送り方向の文字配置―“アキ”モデル “アキ”モデルは,現在のJIS X 4051やJLReqで採用しているモデルである. この方式では,基本として文字を正立した場合の文字の外枠の天地のサイズ(高さ,横組の場合),左右のサイズ(幅,縦組の場合)の情報が各文字に必要になる.これらのサイズは,文字サイズに該当する. この方式では,外枠の天地のサイズ(横組),左右のサイズ(縦組),つまり 文字サイズで配置した行と,次のとの指定されたアキ(行間)を確保し,ある領域内に行を配置していく(図〓参照). *行中に異なる文字サイズがある場合,“送り”モデルでは,指定された送り量で行を配置していけばよい.これに対し,“アキ”モデルでは,どの文字サイズを基準に行を配置してよいかが問題となる.日本語組版では,その段落で指定されている文字サイズを基準に配置していくのが原則である. 注や見出しのサブタイトルなど,本文とは異なった行間でも,前の行の文字の外枠と次の行の文字の外枠間を指定されたアキ量にすればよい. このモデルでは文字の高さ,または文字の幅(文字の外枠)を想定しないといけないという欠点があるが,見た目のアキ量で考えればよいので,行の配置位置が直感的に理解できるという利点がある.ただし,見出しなどを行の配置位置を基準に設定する“行ドリ”を行う場合,やや複雑な説明が必要になる. ●2.1.7 行送り方向の文字配置―“送り”モデル “送り”モデルは,文字の外枠は考えなくても説明は可能になる.字詰め方向と同様に,各文字の基準位置だけがあればよい(文字サイズないし各文字の行送り方向の送り量は必須としない).基準位置は,決まっていれば(一定であれば),字詰め方向と同様にトップ方式とセンター方式が考えられる(図〓参照). その他,ラテン文字にならい,ベースライン位置を基準点に考える方式も考えられる.ただし,この場合,ベースラインを文字の上下のどこかに設定するかだけではなく,縦組にするためには,文字の左右位置にも設定しないといけない. この方式では,指定された文字サイズが一定で,行間も一定であれば,どこに基準位置があっても,行の送り量を文字サイズ+行間で処理すればよい.しかし,異なった文字サイズ,異なった行間のテキストが挿入される場合,それなりに複雑な送り量の計算が必要になる.字詰め方向と同様に,ある領域の先頭に行を配置する場合も計算が必要になる. なお,字詰め方向と異なり,日本語組版では行間をゼロとするケースは少なく(表組のヘッダー等),なんらかの行間が必要になる.したがって,行を配置する場合,行の配置の送り量が必須の条件と考えれば,各文字の保持している行送り方向の送り量の情報はなくても行は配置できる. ●2.1.8 行送り方向の文字配置―行高モデル 行高モデルでは,行の前後のアキを含めた密着した領域を行高として確保し,その領域内に文字を配置していく方法である(図〓参照).その領域内の中央に行を配置するのが一般的であるが,領域内の配置位置を変更することも考えられる. この方式では,文字サイズが一定で行間も一定であれば,行高として文字サイズ+行間で設定し,処理すればよい(文字サイズの指示は必須でない). この方式では,“行ドリ”を行う場合,複数の行高で設定した領域を合併すればよく,説明も簡単になる. しかし,後注のように,異なった文字サイズと行間のテキストが段落の間に挿入される場合,それなりに複雑な送り量の計算が必要になる.字詰め方向と同様に,ある領域の先頭に行を配置する場合も計算が必要になる. ●2.1.9 このドキュメントでのモデル 実際の処理では,各モデル,あるいはそれ以外であっても,文字間の位置の変換は可能である.また,このドキュメントの目的は,組版の処理方法を説明するものではなく,組版の処理結果を示すのが主目的である.つまり表現された結果を問題としている. そこで,このドキュメントでは,説明も理解が簡単である,“アキ”モデル(字詰め方向も行送り方向も)とする.ただし,必要に応じて他のモデルによる解説も行う. ■2.2 文字の大きさ ●2.2.1 文字の大きは何を示すか 文字の大きさは,以下の2つが考えられる. 1.字面の大きさ 2.文字の外枠の大きさ(または送り量) *文字の外枠については,活字の場合は,実体としてのボディがあるが,デジタルの世界では,フォントの情報として与えられるものである. 日本語組版という技術的な世界では,これまでの慣習として字面の大きさではなく,2の文字の外枠の大きさで文字のサイズを示しており,今日でも同様である.字面の大きさ,または面積の大きさで文字サイズは示されてこなかった. 日本語組版では縦組と横組がある.横組では正立した文字の高さ,縦組では正立した文字の幅のサイズが文字サイズである.一般化すれば,行送り方向の文字の外枠のサイズで,文字の大きさを示す. *1の方法で文字のサイズを示す場合,文字の外枠の大きさの情報がなくても,文字サイズを示すことは可能である.例えば,基準となるサイズの文字を設計し,そのサイズと異なるサイズにする場合は,基準となるサイズの文字を元に比例計算を行えばよい. ●2.2.2 文字の大きさの単位 伝統的に文字の大きさを示す単位には,ポイントと級数があった.デジタルの世界では簡単に単位の換算が可能なので,様々な単位だけでなく,基準のサイズを決め,それとの相対的な大きさでも指定が可能である. ※必要なら,CSSでの文字サイズの基本を書く. *日本語組版では,従来は,“ポイント(=0.3514mm)”と“級数”(0.25mm)が使用されていた.どちらが望ましいかは,各人による.どれだけ経験したかにより意見は異なる.ただし,日本語組版の経験でいえば,本文9ポイントとする例が多く,この場合に小さくする括弧書きのサイズとして8ポイントが使用されていた.これで適度の差が示された.これに対し,級数では本文を13級とした場合,12級では差があまりなく,逆に11級では小さすぎるということもあった.その意味では,ポイントという単位は,人間の視覚能力に対応していたのかもしれない. ●2.2.3 文字の大きと字面の大きさ 前述したように文字のサイズは,その文字の外枠の大きさであり,字面の大きさはない.そこで,文字の外枠の大きさと字面の大きさとの関係が問題となる. 日本語フォントでは,それはフォントごとに異なる.フォントメーカーでは,通常,日本語をベタ組で組版した場合に適度の文字間が確保されるように設計している. *ラテン文字では,そのグリフに外接する長方形の左端から文字の外枠の左辺または右端から文字の外枠の右辺までの長さをサイドベアリングとよんでいる. また,文字ごとに外枠に対する字面の占める割合は異なるとともに,文字種(漢字と平仮名,片仮名等)によっても異なる.フォントによっても異なる.ゴシック体によっては,外枠内に占める字面が大きいものもある.一般的にいえば,漢字に比べ,仮名はやや小さい.これは読みやすさにも影響する. *日本語組版では,通常,単語または文節単位での分かち書きはしない(単語単位での区切りはない).しかし,漢字仮名交じり文であるので,字形の異なる漢字と仮名が単語の認識を助けている.樺島忠夫著“日本の文字―表記体系を考える”(岩波新書,1979 年)の中で,漢字から離れられなかった日本人として,漢字を使用することによる文字列の読みやすさをあげている.“文章を読む場合,目は文字を一字ずつ拾って読むものではなく,一回に幾つかの文字をまとめて見,次の点に視線が飛んで幾つかの文字を見るというように停留と飛躍をくりかえす.一回の停留で多くの意味を読み取るには,短い文字列で言葉が表されている方がよいし,早くも読める.”と指摘したうえで,“字形が異なる文字体系を交ぜて書くと,仮名は活用語尾,助詞,助動詞に使われるから,仮名から漢字への移り目が目立ち,文節分かち書きに近い効果を生み出す.”と述べている. つまり,漢字と仮名の字面の大きさを工夫することで,漢字と仮名の区切りがつき,読みやすくなる,ということである. なお,漢字と仮名の組み合わせが単語を認識を助けるからといっても,完全ではない.読者によっては,単語または文節の字間に空白を挿入する“分かち書き”も必要になる. *漢字と仮名の区別は,字面の大きさだけではない.漢字と仮名における線のデザインが,やや異なることでも読みやすさにつながる.藤田重信は“文字の デザイン・書体のふしぎ”(左右社,2008年)の中で,“明朝体が,定番の本文書体に位置づけられたことは,明朝体の仮名と漢字のデザインが根本的にちがうということが決定的です.このちがいが,文章にするととても読もやすいのです”と述べている.さらに,ほかの“ゴシック体,……,多くの書体は,同じタッチとスタイルで平仮名,片仮名,漢字がデザインされている.すると,識別しづらいのです”と記している. なお,漫画(コミックス)の吹き出しで,漢字はゴシック体,仮名はアンチック体を組み合わせた例をよく見かけるが,こうしたことを考慮した結果かもしれない. ●2.2.4 望ましい文字サイズ 印刷されたものでは,長い文章と短い文章では異なる,短い場合は,少々読みにくくても,我慢ができるが,長文の場合は,そうはいかない.印刷されたドキュメントで大人が読む場合,一般に最低のサイズは8ポイントといわれていた.これに対し,読む分量の少ない辞書などでは,6ポイント程度も許された.また,判型によっても多少は異なるともいわれていた. モニタに表示する場合は,その読む条件の差異が大きいと予想される.また,読むドキュメントの長さ,内容も多岐にわたり,さらに読む人の条件によっても異なってくるであろう.したがって,今後,経験を重ねていくことによって最適な大きさが確認されていくと思われる.ただし,以下のことはいえるであろう. 1 読む目的,各人の状況が異なることから,文字サイズ等の組版の設定が簡単に変更できる仕組みが必要である. 2 文字サイズを大きくするのが望ましいとしても,モニタに一度に表示される分量も大切である.なぜなら,ドキュメントを読む場合,その文字または単語を読むだけでなく,ある程度の見通しを持って読んでいくので,一度に表示される,ある程度の分量も必要になるからである. ■2.3 日本語組版で使用する文字 ここでは,日本語組版で使用する文字としては,どんな種類があるか,その文字数など,組版に関連する事項を主に解説しておく. ●2.3.1 漢字と仮名の使い分け 日本語組版では,主に漢字と仮名を用いる(漢字仮名交じり文).漢字と仮名の使い分けは,文章の内容により異なるが,おおまかにいえば,以下のようになる. 漢字:概念を表す部分,例えば名詞・動詞・形容詞・形容動詞など. 平仮名:補足的に付く部分,例えば,活用する語の語尾,接頭・接尾語,助詞・助動詞,形式名詞(こと,ところ,もの,わけ等),補助動詞(あ げる,ある,いる,する,なる,みる等)など. 片仮名:特別な表現を示す場合.例えば,外来語,外国の地名・人名,擬声語,動植物名,特殊な意味を表現する場合など. ●2.3.2 漢字の字数 ここでは,漢字の使用状況の参考として,参考までにいくつかの漢字集合の字数を示しておく. 常用漢字:2136字 一般の社会生活において、現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安を示す. *常用漢字は“常用漢字表”として内閣訓令・告示された.“訓令”とは,上級の官庁が下級の官庁に対して行う命令であり,訓令は官庁の業務を拘束する.これに対して,告示とは公の機関が必要な事項を公示する(一般に周知させる)ことである.簡単にいえば,告示とは国民にお知らせするという意味である.したがって,こうした施策に従うか,従わないかは個々の判断となる.一般に,放送・通信・新聞などのジャーナリズムでは,固有名詞などの例外を除き,いくつか細部の修正を加える例もあるが,ほとんどそのまま受け入れてきた.書籍や雑誌などにおいても,大筋ではこれらの施策に従ってきているが,出版物の内容は一律なものではなく,表外漢字(“常用漢字表”に含まれていない漢字,表外字ともいう)は,出版物の内容によては,使用されている例も多い. *漢字には,“学” と“學”,“恵” と“惠”のように読み方と意味は同じでありながら,字体(漢字の点画の抽象的な構成の在り方)の異なる漢字があり,これらを互いに異体字とよぶ(標準的な字体AのほかにB, C があった場合,Aに対しB, C だけを異体字という場合と,A, B, C すべてが相互に異体字という場合がある). 1949年に内閣告示された“当用漢字字体表”として標準的な字体が示された.ここでは,印刷字体と筆写字体とをできるだけ一致させるために字体の整理を行い,従来,俗字や略字とよばれていた字体が数多く採用されている.ここで採用された字体は新字体,従来からの活字字体は旧字体とよばれている.この漢字字体の整理の方針は,その後の“常用漢字表”に引き継がれ,人名用漢字の字体も同様であった.しかし,その後,“表外漢字字体表”が答申された後は,この方針は原則として採用されていない. そこで問題となるのは,“当用漢字字体表”以前に刊行されたものを引用する場合である.かつては,原文を尊重し,引用文では原文の旧字体を使用する方針が多かった.しかし,今日は,旧字体に慣れている人も少なくなり,原文が旧字体であっても,新字体(常用漢字表に示されている字体)に改めて引用する方針としている例が一般化している. 教育漢字:1026字 すべて常用漢字に含まれている.小学校の学年別に学習する漢字として“小学校学習指導要領”の“学年別漢字配当表”として示されている.児童書などでは,ルビをつける漢字目安としても利用されている. 表外漢字字体表:1022字 常用漢字とともに使われることが比較的多いと考えられる表外漢字(1022字)につて,一般の社会生活において表外漢字を使用する場合の字体選択のよりどころを,印刷標準字体と簡易慣用字体(22字)として示している. *一般の印刷物では,表外漢字字体表に従った印刷標準字体を使用している例が多いが,その表で示している簡易慣用字体や“3部首許容” として示されている字体を使用している例も,かなり存在する(漢字によっては,印刷標準字体を使用するのには,やや手間がかけないといけないという事情もある). *“表外漢字字体表”は,国語審議会から2000年に答申された.“常用漢字表”は,2010年に改正され漢字の追加と削除が行われている.この改正された“常用漢字表”には,“表外漢字字体表”に含まれる漢字から145字(〓要計算)が採用されている.その際に使用された字体は印刷標準字体であるが,例外として“曽・痩・麺”の3字の字体については簡易慣用字体が採用されている.ただし,出版社によっては,“曽・痩・麺”の簡易慣用字体を採用する方針のところと,採用しないで,“曾・麵・麵”を採用するところとがある. 人名用漢字:745字,字体の字数としては863字(2017年) 子どもが出生したときは“出生の届出”をしなければならが,その際に“子の名”に使用できる常用漢字以外の漢字.常用漢字の異体字も含まれている.一般の出版物では,人名だけでなく,他の用語にも使用されている.また,字体の使用等で,一般の出版物における漢字の表記にも影響を与えている. 角川 新字源 改訂新版:約1万3500字(異体字を含む) 2017年にKADOKAWAより刊行された学習用を兼ねるハンディ版の漢字字典. JIS X 0208 JIS X 0212 JIS X 0213 A–J1 ●2.3.3 平仮名と片仮名 小書きの仮名など ●2.3.4 アラビア数字 数字の表記に使用する文字は,従来は,縦組では漢数字,横組ではアラビア数字の使用が原則であった.縦組でのアラビア数字の使用は,特別な場合に限られていた.しかし,今日では縦組でも,アラビア数字の使用が一般的になっている. *アラビア数字を使用する場合,位取りの“万”などの単位語の使用が問題になる.一般には4桁ごとに万・億・兆の単位語を使用し,理工学関係では,3桁ごとにコンマを入れる(または四分アキに「する)方式が採用されることがある. アラビア数字を使用する場合,縦組,横組にかかわらず二分の字幅(またはプロポーショナル)のアラビア数字を使用するのが原則である. 横組で全角のアラビア数字を使用している例もあるが,これは出来るだけ避ける必要がある.全角のアラビア数字では,二分の字幅(またはプロポーショナル)とは字形が異なる場合があるからである. *横組で全角のアラビア数字を使用されたのは,手動写真植字において,1桁のアラビア数字の処理がやや面倒であったからである.したがって,コンピュータで処理する今日では必要のないことである.また,事務用のドキュメントでもアラビア数字を使用することも,似た事情があり,和文とアラビア数字の字間処理を行わないというからきている.その限りのことと考えた方がよい. *縦組で全角のアラビア数字が使用されてきたのは,活字組版において,1字のアラビア数字を正立させて配置するのが面倒であったからである.今日では,その面倒さはないと考えてよい. *日本語組版で二分の字幅のアラビア数字がよく使用されてきたのは,アラビア数字と和文の間を四分空ける方式が採用されており,この場合は,二分の字幅であれば,奇数桁のときは,その字詰め方向に占める幅が整数倍となり,行の調整処理が避けられたからである. また,アラビア数字では,字幅を狭くして使用する場合もあり,従来から三分角や四分角のアラビア数字も使用されていた.OpenTypeでは,こうした数字も準備されており,利用できる. ●2.4.5 ラテン文字 ●2.4.6 ギリシャ字など ●2.4.5 約物と記号 ●2.4.6 縦組と横組で異なる文字・記号